小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

『放課後バニラ』のコマ割りについて②ーエロマンガのエロいエロくないを分析する3.2ー

前回の記事はこちら

 

  • ④群青
  • ⑤スカートの中の宇宙
  • ⑥VAMP!!
  • ⑦コンティニュー
  • ⑧「罪と…」
  • ⑨ソルトペッパーチョコレート
  • おわりに-色んな最多と最少とヌけるヌけないとの接点-

 

 

④群青

 本単行本から代表作を1作選べといわれたら、私はこれを選ぶ。異論がある人はいないと思う。それくらいきいという作家の個性が強く出ている。アオハルな舞台設定、キャラの心情を雰囲気で醸し出す曖昧な伝え方、それらを語るためのコマ割り。ただし、1ページ目にセックス未満のシーンを描き読者の気を引く語りは本話にはない。

 

瞬間型:4.9%、動作型:15.7%、主体型:43.1%、場面型:14.7%、局面型:20.6%

 ストーリーはBSSだ。仲良し男女4人組がいて、その中の1人(男A)が女Aに思いを寄せている。けれど女Aは男Bとセックスしていて、それを見た男Aは八つ当たり的に女Bを襲ってしまう。だがこの女Bは男Aのことが前から好きだった。端的に言って、痴情のもつれだ。

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としまえんの定点観測

 こんにちは。ヱチゴニアです。

 押し寄せては引いていく感染の流行も第8波に突入している今日この頃。皆さんはもうwithコロナの世界に馴染めていますか。2年前の8月31日に、近所の『としまえん』という遊園地が閉園したのですが、私は時々それを思い出して感傷的な気持ちになります。今回の記事では、閉園から2年と少しが経過した今のとしまえんの姿と、その姿の以前との変化をお伝えしたいと思います。

 

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『放課後バニラ』のコマ割りについて①ーエロマンガのエロいエロくないを分析する3.1ー


 前回の記事できいのコマ割りについて分析した。きいの作品全体を対象に他のエロマンガと比較するというアプローチを採り、きいという作家の語り方の特徴を明らかにしたが、個々の作品についての言及は薄くなってしまった。なので、各作品の分析結果を提示し、議論を補強したい。

 本記事で取り上げるのは『放課後バニラ』だ。

 

  • その前に。マクラウドのコマ割り分類について
  • ①スプラッシュ
  • ②HITOMI
  • ③といがーる
  • ④布団の中の宇宙

 

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生きづらさを抱えた主体であること――地下アイドルとスタートアップの交差点に立って――

 どうも、つおおつです。近況報告としては、最近サイコミというアプリをダウンロードしました。こちらはサイゲームズの運営する漫画アプリなのですが、1話あたりのページ数が14Pしかなく、1話1話がかなりあっさりしている印象を受けます。そして1日にデフォルトで1話+広告動画視聴で1話の合計2話が無料で読むことができるのですが、あっさりしている上に漫画自体がキャッチーなつい読みたくなるような題材の漫画*1が多く、まんまと毎日アプリを起動させられている今日このごろです。最近ちまちま読んでいるのは『東京深夜少女』『私がわたしを売る理由』とどれも水商売系です。ハイ。

 

 2021年7月23日、私はZOC(現:METAMUSE)の札幌でのライブで初めて、チケットを有料で購入しライブに行くという経験をした。ZOCは若者(特に女子)の生きづらさに向き合った曲が多いのが特徴で、メンバーも元ひきこもり・前科持ち・元ヤンキー・2人組の相方の親が毒親で苦渋を舐めさせられた人・とりあえずお金を稼ぎたい人・自撮りが上手すぎて自撮り詐欺と呼ばれていた人という尖ったメンバーを、同じく独特の感性により支持されるアーティスト・大森靖子がプロデューサー兼アイドル「共犯者」として束ねていくというなかなかないコンセプトのグループであった。

*1:一時期ブームになったパパ活女子や整形女子・ホス狂等を描いた『明日、私は誰かのカノジョ』もサイコミです

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ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』を読む③

はじめに

 前回に引き続きウィル・アイズナーの『コミックス・アンド・シーケンシャルアート(Comics & Sequential Art)』を読んでいく。

 

sho-gaku.hatenablog.jp

 

 3回目となる今回は第4章「FRAME」だ。本章で扱われるのはコマ割りとパースペクティブである。前回、時間表現に関連して論じられたコマ割りだが、ここではもっと具体的に画面作りの話が展開される。

 コマ割りは時間を縁取るだけではない。イメージの動きを分節化するもので、そこには思考、アイデア、アクション、位置、対話という幅広い要素が内包されている。これに対面した際のプロセスは分析ではなく、認知的、知覚的、視覚的な非言語レベルの読みであるとアイズナーは言う。chapter 2のp.13でアイズナーはコミックをゲシュタルトだと表現したが、本章でもその発想が垣間見える。彼にとってコミックとは細かく観察するものではないのだろう。

 シーケンシャルアーティストの仕事とは、読者がアクションを補完できるようにコマの絵を連続させていくことだ。コマは計算よりもむしろ創造的に割るものだとアイズナーは言う。以下、コマとコマ割りの機能について見ていこう。

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きい先生でヌきたい!ーエロマンガのエロいエロくないを分析する③ー

 

 

  • 1.はじめに
  • 2.ヌけないエロマンガについての記述
  • 3.兼ねコマ、LLマンガ、補完
  • 4.分析方法
  • 5.分析結果
    • 5-1.きいと『ギャルトモ♡ハーレム』と快楽天7月号
    • 5-2.カメラ位置は変わっても人称視点は変わらない
    • 5-3.きい、その話し方
      • 5-3-1.唐突な時間ジャンプ
      • 5-3-2.兼ねページ
  • 6.おわりに

 

1.はじめに

 こんな記事を読むほどにエロマンガが好きなあなたにわざわざきいのことを説明するのもまだるっこしいが、きいはエロマンガ家で『放課後バニラ』、『群青ノイズ』、『不完全マーブル』の3冊を世に送り出した快楽天が誇る看板作家の1人だ。『放課後バニラ』の反響は把握していないが、『群青ノイズ』は近所のメロブで長い間平積みだったし、『不完全マーブル』もDlsiteやこの前行った近所のエロ本屋でランキング1位だった。2010年代後半から2020年代前半のエロマンガを語るうえで絶対に外せないエロマンガ家、それがきいだ。

 そんなトップエロマンガ家のきいだが、どういうわけか私はヌけない。エロいのはわかるがヌく気にならない。それが本記事の問いだ。エロマンガを考えるといったとき、ヌけるヌけないの問題はいつも避けられてきた。個々人の感性の問題だから扱っても不毛だからなのだろうか。けれど、エロマンガの実用性の側面を無視するのは分析として片手落ちだ。後述するように、マンガという媒体は読者の協力があって成立する媒体でもあるからだ。本記事では「ヌけない」といって捨ててしまったエロマンガを拾い上げて、どこがどうヌけなくてそれがなぜなのかを考えてみたい。

 

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地方で資金調達をしてスタートアップを始めるための前提条件についての一考察 ~実例と共に~

どうも、つおおつです。

 『小文化』2巻にも書いた通りですが、去年12月に私がやっている会社である株式会社あるやうむが資金調達をし、自分のペースでのんびりやれるスモールビジネスから色んなステークホルダーを巻き込みつつ急成長を目指すスタートアップへと変化*1しました。

 

 さて、前のスタートアップ雑感記事にも書いた通りですが、私は札幌、ひいては首都圏以外の起業文化が盛んになるべく、札幌を始めとした地方でスタートアップをやろうとする人がベンチャーキャピタル(通称VC、初期のスタートアップに資金援助をし株式またはトークンを取得することにより、大化けした時に売却益を得ることを目的とした会社)から資金調達をできるように手弁当でお手伝いをさせてもらっており、その過程で地方でスタートアップをやるための前提条件(事業領域や創業メンバー等)に気づいたので本記事で整理させていただければ幸いです。

 

 はじめにお断りしておくと、下記前提条件の3~4種類に当てはまっていればおそらく出資を受けることができるので、必ず当てはまっている必要はありません*2

 

  • 地方スタートアップの前提条件(事業領域や創業メンバー等)
    • 1.近年にわかに流行し始めた事業領域であること
    • 2.代表・創業メンバーが若い(30歳未満)
    • 3.顧客が東京から遠い事業領域である
    • 4.投機性がある事業領域であること
    • 5.在京のスタートアップ起業家から見て事業領域として名誉に思われにくいもの
    • 6.創業メンバーに、その事業領域でその地方のコンテンツを利活用した実績が過去にあること
    • 7.代表・創業メンバーに女性がいること
  • 前提条件に基づく地方スタートアップの具体例
    • 1.株式会社Zenesis(札幌市中央区
    • 2.株式会社Fant(北海道音更町)
    • 3.株式会社雨風太陽(旧社名:株式会社ポケットマルシェ,岩手県花巻市)
    • 4.株式会社あるやうむ
  •  

*1:あえて変化という表現を使っているのは、スモールビジネスとスタートアップに優劣をつけたくないからです。

*2:同様に、これにすべて当てはまっているからといって出資が受けられるわけではないと思います

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プレイヤー間に実力差がある場合の『ドミニオン』の戦略

 こんにちは、ヱチゴニアです。

 久しぶりのボードゲームの記事です。それも、ボードゲーム全般の話ではなく個別のボードゲームに絞った戦略論的な話。ただし『ドミニオン』を知らなくても読める構成にはなっていますし、個別のゲームの戦略とはいえ、「プレイヤー間に実力差がある場合」というシチュエーションとしては普遍性のある話題でもあります。どんなゲームでも、布教して初めて遊ぶ時にはプレイヤー間に実力差があるからです。

 誤解してほしくないのは、この記事は「初心者に気持良くプレイしてもらって上手に布教しよう!」という主旨ではない、ということです。むしろ経験者が初心者と一緒に遊ぶ時の、ガチで勝ちに行くための戦略です。

 

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ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』を読む②

はじめに

 前回に引き続き、ウィル・アイズナーの『コミックス・アンド・シーケンシャルアート(Comics and Sequential Art)』を読んでいく。

 

sho-gaku.hatenablog.jp

 

 今回読んでいくのは第3章「TIMING」だ。本章でアイズナーはコミックにおける時間の表現について論じている。

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ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』を読む①

 はじめに

 小文化学会では特に方針を定めず、会員がめいめい好きな事柄について筆を運んでいる。打ち合わせも特にない自由な空間で、だいたいの寄稿者が1度は焦点をあてているジャンル、それがマンガだ。おのずと手が伸びるほど読みなれているが、それゆえにマンガの分析は想像以上に難しい。

 アメリカン・コミックス界の巨匠、ウィル・アイズナーが1985年に著した『コミックス・アンド・シーケンシャルアート(Comics & Sequential Art)』は、アメコミを対象としたコミック研究の古典である。氾濫する解釈の渦へ身を投げだすまえに、古典の本扉を開いてみるのもひとつの手だろう。ひとまず今回は、1章と2章に目を通していきたい。

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