小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

生きづらさを抱えた主体であること――地下アイドルとスタートアップの交差点に立って――

 どうも、つおおつです。近況報告としては、最近サイコミというアプリをダウンロードしました。こちらはサイゲームズの運営する漫画アプリなのですが、1話あたりのページ数が14Pしかなく、1話1話がかなりあっさりしている印象を受けます。そして1日にデフォルトで1話+広告動画視聴で1話の合計2話が無料で読むことができるのですが、あっさりしている上に漫画自体がキャッチーなつい読みたくなるような題材の漫画*1が多く、まんまと毎日アプリを起動させられている今日このごろです。最近ちまちま読んでいるのは『東京深夜少女』『私がわたしを売る理由』とどれも水商売系です。ハイ。

 

 2021年7月23日、私はZOC(現:METAMUSE)の札幌でのライブで初めて、チケットを有料で購入しライブに行くという経験をした。ZOCは若者(特に女子)の生きづらさに向き合った曲が多いのが特徴で、メンバーも元ひきこもり・前科持ち・元ヤンキー・2人組の相方の親が毒親で苦渋を舐めさせられた人・とりあえずお金を稼ぎたい人・自撮りが上手すぎて自撮り詐欺と呼ばれていた人という尖ったメンバーを、同じく独特の感性により支持されるアーティスト・大森靖子がプロデューサー兼アイドル「共犯者」として束ねていくというなかなかないコンセプトのグループであった。

 

 私はこの生きる上で溜まるフラストレーションを遺憾なく曲にぶつけた、アイドルらしくないアイドル集団が、少し下の世代~同世代の同性のファン(同様にフラストレーションを抱えている)とライブ会場で一体化していく時の会場の独特の雰囲気に魅了され、すっかりこのグループのファンとなってしまった。特に元ひきこもりでひたすら家で踊っていた少女が大森靖子によって発掘されアイドルになったという強烈なストーリーを持つ藍染カレンのライブで纏うオーラは筆舌に尽くしがたいものがあり、すっかり「推し」になってしまいひょんなことから忙しくなってしまった仕事の傍ら推し活をしていた。

 

 しかしながら、幸せな推し活の日々は長く続かなかった。2022年4月20日、私の推し活に暗雲が立ち込めた。グループ名が「ZOC」から「METAMUSE」に改名されることが発表され、「孤独を孤立させない」というコンセプトが「実像崇拝」に切り替わった。もちろん、彼女らが想いを素直に曲にぶつけるという点では代わっていない。だが彼女らがファンを含めた生態系全体として「孤独を孤立させない」ように努める主体から、ファンがアイドルのありのままを受け入れ「実像崇拝」される客体に切り替わっていったのは否定できないだろう。

 

 ZOCについて、

SNSには応援コメントとともに、バッシングコメントもずらっと並ぶ*2

 と描写されるように、生きづらさを全面に出しながら、その上で開き直らずに生きづらさを抱えるファンを包摂していくこと、つまり「孤独を孤立させない」ことは、無用な批判を招きやすく辛い営みである。単に生きづらさを消費される「実像崇拝」の客体であるよりも、消費されつつファンに働きかける主体である分より多くのエネルギーを必要とし、目立つからだ。

 

 私も、いくつかの偶然が重なりスタートアップ企業の代表となったことで、誹謗中傷の怖さを感じることとなった。扱っている商材が投機性を孕んだものであるだけで「詐欺師」「金を巻き上げるだけのコンサル」と叩かれたり、オンライン中継で事業説明を行った際に複雑な質問をなげかけられ数十秒で答えなくてはいけない状況下で不完全な説明をすると「詐欺師」と実名入りでツイートされることがあった。そして私自身も札幌移住が大学受験の際に叶わず、その腹いせで就職せずにトレードでお金を貯めて札幌に移住したという過去を話すと「生きづらさ」という文脈で消費される人間でもあった。

(上)生きづらさという文脈で消費されるつおおつ、本人出演のピッチ番組にて(0:33頃)

 

 この動画は生きづらさに深入りされていないので特になんとも思わないが*3、時々商談の際に私の抱える生きづらさについて雑な形容をされたり、生きづらさを元に事業を進めていく中で思わぬ誹謗中傷をされたりすると、やはり嫌な気持ちになる。

 

 しかしながら、生きづらさを抱えてしまった場合でも主体であった方が、より多くの人に価値を提供できるだろう。生きづらさを正直に吐露しながら世の中と関わっていく主体となるのは、思わぬ所で誹謗中傷をされるのと同時に、思わぬ所で協力者を生み出す不思議なエネルギーを持っている。アイドルと弱小スタートアップを同列に語るのもエビデンスレス甚だしいが、ZOCが「実像崇拝」の客体でなく、「孤独を孤立させない」主体であったからこそ、10代の女性が選ぶ好きなアイドルランキングで9位にランクイン*4したり武道館ライブを成し遂げたのではないかと考察している。

 

 生きづらさは話題作りの腰掛けではなく、生きづらさこそが人間らしさであり、その人間らしさを世の中にぶつける主体でありつづけるのが「そうなってしまった人間」のとるべき生き方なのではないか。

*1:一時期ブームになったパパ活女子や整形女子・ホス狂等を描いた『明日、私は誰かのカノジョ』もサイコミです

*2:METAMUZEインタビュー記事 ZOCからMETAMUSEへ、新グループを発足させた大森靖子「個の肯定を目に見える形で」(Lmaga.jp) - Yahoo!ニュース の序文より引用

*3:恐らく立ち上げ直後で描写された場合だったら思う所があったかもしれないがこのくらいの描写だとこれで認知が取れるなら別にいいかと図太くなってしまっている私がいる

*4:

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