小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

『放課後バニラ』のコマ割りについて②ーエロマンガのエロいエロくないを分析する3.2ー

前回の記事はこちら

 

 

 

④群青

 本単行本から代表作を1作選べといわれたら、私はこれを選ぶ。異論がある人はいないと思う。それくらいきいという作家の個性が強く出ている。アオハルな舞台設定、キャラの心情を雰囲気で醸し出す曖昧な伝え方、それらを語るためのコマ割り。ただし、1ページ目にセックス未満のシーンを描き読者の気を引く語りは本話にはない。

 

瞬間型:4.9%、動作型:15.7%、主体型:43.1%、場面型:14.7%、局面型:20.6%

 ストーリーはBSSだ。仲良し男女4人組がいて、その中の1人(男A)が女Aに思いを寄せている。けれど女Aは男Bとセックスしていて、それを見た男Aは八つ当たり的に女Bを襲ってしまう。だがこの女Bは男Aのことが前から好きだった。端的に言って、痴情のもつれだ。

 

 BSSであるため、ストーリーの視点は一貫して男Aに寄り添っている。これが、本話に場面型がたくさん登場した理由だ。つまり、出来事の進行の合間に男Aのフラッシュバックが多く差し込まれる。『布団の中の宇宙』では挿入を盛りあげるときぐらいだったが、本話ではその頻度が多くそして非現実的である。抽象的になってしまいそうなので、この演出が最も色濃いコマ割りを提示する。

 

いつものように性器は黒塗り。

 

 白い髪の女が女Bで黒髪ロングが女Aだ。そしてこのメガネの男が男A。このページは、男Aは女Bとセックスをしているが、頭の中では思いを寄せている女Bとのセックスを妄想している。要するに、外れの風俗嬢でイくために世の男性諸君がやるやつだ。

 4コマ目の立ちバックは現実ではないため、3コマ目→4コマ目→5コマ目にかけて場面型の跳躍が2回起こるというわけだ。それも現実における時間や場所の跳躍ではなく、現実から妄想への跳躍という変化球だ。

 

⑤スカートの中の宇宙

 これは『布団の中の宇宙』の番外編だ。布団の中でのセックスを見ていた同じ部屋の女が触発されて、後日男友達とセックスをする話だ。イチャラブよりのさわやかなエロだ。

 このあたりから、特に目新しい演出は無くなってくる。

瞬間型:5.5%、動作型:18.1%、主体型:49.6%、場面型:12.6%、局面型:14.2%

 

⑥VAMP!!

 この作品で初めて竿役がおじさんになる。仕事帰りに見かけた泣いているJKに声をかけたら吸血鬼を自称する変な娘で誘われるままHをするというあまり細かいことは考えないで読むタイプのエロマンガだ。時間の流れは直線で1ページ目に描かれているエロはパンチラ。コマ割りにも変則的なものはない。

 

瞬間型:2.3%、動作型31.8%、主体型:55.7%、場面型:4.5%、局面型:5.7%

 

⑦コンティニュー

 本話は、両手を怪我した先輩(男)のもとに後輩(女)がお見舞いに訪れ、溜まっていた先輩を襲ってしまうという話だ。

 

瞬間型:8%、動作型:21.6%、主体型49.6%、場面型:8.8%、局面型:12%

 

 本作の特徴は、フィニッシュシーンが結合部のアップでもなく、女のイキ顔のアップでもなく、それどころかドピュ♡のような効果音やイくぅううう!のようなセリフさえないという変則的なコマであることぐらいだ。

 

⑧「罪と…」

 『HITOMI』と同じく本作も妹に手を出してしまう話だ。ただし今回の場合は、彼女のではなく婚約者のだ。

瞬間型:8.8%、動作型:17.5%、主体型:40.9%、場面型:16.8%、局面型:16.1%

 

 特徴的なのは場面型の多さだろう。きい全作品の平均である9.3%のおよそ1.8倍だ。これは男が妹に惹かれる自分に葛藤していたからだ。「あの時の女の魅力的な瞬間」→「葛藤する男」というコマ割りが多かったために、場面型のコマ割りが増えたのだ。

 

 この11ページ目のように、フラッシュバックして忘れられないというコマ割りが、セックスに至る前に何回も描かれる。ほわんほわんほわんという波線で囲われておらず、またナレーションもないためかなり補完の要るページとなっている。

 また本話にはもう1か所変則的な読みをするコマ割りがあった。以下のコマ割りがそうだ。

 

肩を掴んでいる男は先ほど眠れなかった男と同一人物

 下段の、男が女の肩を掴んでいるコマの上に衝動的に肩を触ってしまった男と触られた女のハッとした表情を描いた2コマが乗っているコマ割りを見てほしい。このコマ割りが問題になるのは、マクラウドのコマ割りが1対1の読みしか想定していないからだ。この2人がハッとしたのは、「か…ら……」の後の「………」くらいの時点だろう。この3コマは同時進行で起きており、顔のアップの2コマはどちらから先に読んでもいい。ならば、局面型かとも思ったが、描かれているのは「思わず肩を掴んでしまった/掴まれたのに気づいた瞬間」だとも読める。また、コマの上に乗せるということはそのコマは副次的な地位になることもふまえて、瞬間型に分類した。

 

⑨ソルトペッパーチョコレート

 本話は、女2男1で勉強会をしていたらそのままセックスに発展しちゃったという話だ。『布団の中の宇宙』とクロスオーバーしており、女2人はそのエピソードの中でセックスをのぞき見している。それに触発されて男のチンチンが見たくなっちゃったというわけ。

 

瞬間型:5.2%、動作型:11.1%、主体型:51.9%、場面型:10.4%、局面型:21.5%

 

 本話の特徴的なコマ割りは前回の記事でも紹介した。6つの等しい大きさのコマが横2×縦3のかたちで並んでいるコマ割りだ。詳しくは前回記事を参照されたし。

 もう一つ、新野安がしばしば言及する大小コマがあったのでそれを報告する。ちなみに、大小コマをマクラウドに沿って言い換えると、「大きなコマの周りに小さなコマがあり、それらが局面型になっている」となる。

 

 

 19ページ目のこちら。女2人の尻を描いた大ゴマを中心に、尻のアップ、射精したチンコ、コンドームが垂れたもう1人の女の尻の小さなコマが配置されている。これら3コマは大ゴマの局面を写したものなので局面型だ。5コマ目の女2人が向き合うシーンとノートにかかった精液のコマも同じく局面型でいいような気もするが、枠線がしっかり引いてあってちゃんと区切られているので、今回のみこれを重視して主体型にしました。

 

おわりに-色んな最多と最少とヌけるヌけないとの接点-

 以上、『放課後バニラ』の各作品のコマ割りについてみてきた。俯瞰で見ると、本単行本のピークは『群青』だろう。なにせ作者が映画予告風の特別描きおろし短編を載せている。全体を貫くのは宇宙シリーズ。『布団の中の~』と『こたつの中の~』と『ソルトペッパーチョコレート』の三作が初々しいアオハルなセックスを描いて、浮気を描いた『HITOMI』と『罪と…』がスパイスになっている。

 ではここで一度各作品を色々な観点から比較してみたい。簡単なところから言うと、一番ページ数が多かったのは

 

  • 『布団の中の宇宙』
  • 『スカートの中の宇宙』
  • 『コンティニュー』
  • 『罪と…』
  • 『ソルトペッパーチョコレート』

 

の5作品で、24ページだ。

 

 逆に一番少ないのは

 

  • 『HITOMI』
  • 『といがーる』
  • 『群青』
  • 『VAMP!!』

 

の4作品で20ページ。唯一『スプラッシュ』のみが21ページとなっている。

 

 コマ数でみると、最も多いのが『罪と…』で138コマ。最も少ないのが『VAMP!!』の89コマ。『放課後バニラ』におけるコマ数の平均は112.1コマとなる。また、1ページ当たりのコマ数が一番多いのが『罪と…』で、5.75コマ/1ページ。一番少ないのが『VAMP!!』で4.45コマ/1ページだ。単行本全体の平均は5.072コマ/1ページ。

 つぎに、各補完についてみていこう。瞬間型の間白が一番多かったのは『罪と…』の12回で、一番少なかったのは『スプラッシュ』の1回。比率も同じで、前者は8.76%、後者は1.04%。

 動作型について、一番多かったのは『スプラッシュ』の42回で43.75%。少なかったのは『ソルトペッパーチョコレート』15回で11.19%。

 そして主体型。一番多かったのは『ソルトペッパーチョコレート』の70回。一番少なかったのは『といがーる』の38回。比率だと、一番多かったのは『VAMP!!』の55.68%、一番少なかったのは『HITOMI』の40.82%。

 場面型。一番多かったのは『罪と…』の23回で、少なかったのは『スプラッシュ』と『HITOMI』の2回。比率でいうと、一番多かったのは『罪と…』で16.79%、一番少なかったのは『HITOMI』の2.04%。

 最後の局面型だ。一番多かったのは『ソルトペッパーチョコレート』の29回で、少なかったのが『といがーる』の4回。比率でいうと、一番多かったのは『HITOMI』の23.47%、一番少なかったのは『といがーる』で4.49%。

 このように、補完の数とその比率の多少は必ずしも一致しないことがわかる。主体型や場面型の補完が多いほど、読むのに労力が要るマンガなので、『罪と…』や『ソルトペッパーチョコレート』が読みづらいということになる。

 個人的に、意外なのは『ソルトペッパーチョコレート』だ。それほど読みづらい感じがしなかったのは、キャラによる説明の多さだろう。前回の記事の『ギャルトモ♡ハーレム』でも指摘したのと同様の語り方だ。

 

 

 2コマ目から3コマ目にかけては場面型のコマ割りだ。ただし、フキダシの先頭に「合宿の時」というセリフがあるおかげで、「この暗いコマは、合宿の時の回想なんだな」ということがわかりやすくなっている。このように本話はセリフやモノローグが多いため、絵と絵の間の唐突感が軽減されている。チンコ触るときには「触るね」というし、挿れるときは「いきます」という。

 これと対照的なのが、『罪と…』だ。姉、妹、姉の夫の3人が登場するのだが、彼らの職業や関係性について、はっきり説明はされない。結婚指輪のクローズアップは最後のページまでない。お姉ちゃんに至っては最後まで姿が描かれない。あと、夫が仕事帰りと休日で髪型が大きく変わるために、同一人物だとすぐにわからない。団長の時と恐ろしく速い手刀の時のクロロくらい違う。最後は妹のセリフで終わるのだが、その時も表情が描かれていないなど、本話はキャラについてまたは彼らの気持ちについての説明が省かれている。そういう語り方をしているのだ。

 

 「じゃあお前はどの作品が一番ヌけたんだよ?」と聞かれると、強いて言うなら『HITOMI』だ。理由としては、前回の記事で紹介したぶち抜きのコマ割りが印象的で「エロいな」と思ったから。逆に一番ヌけないのは、『罪と…』と『コンティニュー』と『群青』だ。この3つに共通するのは「どこでヌいていいかわからない」という戸惑いだ。ただ『コンティニュー』とそれ以外では戸惑いの深さが違う。『コンティニュー』は、クライマックスである最後のフィニッシュシーンが無音だし女の子が着衣のまま変なポーズ取っているしという表面上のものだ。

 だが、『罪と…』と『群青』は違う。この2つは単に「先輩のお見舞いに行ったらいい雰囲気になってヤっちゃいました」という単純な心情の動きをしていない。話を単純化するために、竿役の男1人に注目してみよう。『群青』の男が幼なじみの女を狙った理由は、苛立ちであり羨望であり悔しさでありそして単なる欲望だった。それらのどれが一番強いともいえず、どれが一番正確に気持ちを表しているかも判然としないまま、キャラクターの行動が描かれる。ストーリーの流れも同様で、どうやら幼なじみは竿役のことが好きらしい、だがこの男は別の幼なじみが好きらしい、というように読者が推理していかなくてはならない。この推理は幼なじみの方にも必要で、だからこそ局面型が多く、そしてコマ割りも多く、心情をナレーションではなくコマ割りで説明するがゆえに場面型が多くなった。この説明は『罪と…』にも当てはまる。もっとも、こっちの竿役はアクティブでまだわかりやすい。また、同じ局面型が多いといっても、『HITOMI』や『ソルトペッパーチョコレート』の場合は、体位や状況を多面的に見せるためのものだ。

 では、エロマンガはわかりやすければわかりやすいほどいいのだろうか。ここでいうわかりやすいとは動作型のコマ割りを中心にマンガを描くことだ。だがそれをしすぎても単純で読み応えのないエロマンガになってしまう。あるいはナレーションを増やしてもわかりやすくはなるだろう。だが加減を間違えれば、バリアフリーすぎて鬱陶しいマンガになってしまう。『ソルトペッパーチョコレート』をヌけるエロマンガとして挙げなかったのは、ヒロイン2人がコンドームを竿役に手渡し「どっちで卒業したい?」と問いかけるコマが、私には露骨に感じられて「えぐい」と思ってしまったからだ。

 『放課後バニラ』全体は、私にとってヌけないエロマンガだ。その理由は何なのか。場面型が多いからなのか、女の子の曖昧な心なんかエロマンガで読みたくないからなのか。2つに絞り込めたようで、それ以外の理由もあるように思えるし、それらはきっと関係している。

 

 

 以上、本記事は『放課後バニラ』のコマ割りについて、各作品をみてきた。最後に今までのデータを一覧にした表をつけて終わりとさせてもらう。

 

 

 

 

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