小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

ナビエ遥か2Tのエロ同人を実際にやってみた-エロマンガのエロいエロくないを分析する④-

 ナビエ遥か2Tは唾フェチという点で稀有なエロ漫画家だ。商業では抑えめだが、現時点(2023年夏コミ)までに制作した同人(同人名はヌルネバーランド)ではその全てにおいて唾液プレイないし顔舐め[1]が描かれている。管見の限りではあるが、唾液をここまで好んで描くエロ漫画家は、世徒ゆうきがたまに描いてはいるものの、見つからない。そんなナビエ遥か2Tの唾液プレイないし顔舐めを、私は実際に風俗でやってみた。本稿では、その体験をもとに氏のエロマンガを読んでみる。

 

目次

 

1.ナビエ遥か2Tの作品歴

 まずナビエ遥か2Tがどんなエロ漫画を描いてきたかを辿っていこう。氏は現在、商業では主に快楽天で活動している。最新の単行本は『ヌルラバ!』。その名の通り積極的な美少女たちとヌルヌルプレイをしましたという作品が収録されている。ただし、ヌルヌルのもととして唾液が使われることは少なく、ローションが使われることもあれば、美少女からローションぽい汗がでるという設定もあったりする。唾液フェチや顔舐めは、ベロチューや耳舐めの一部くらいの薄い存在感だ。

 

 これが同人になると唾液フェチ・顔舐めが前景化してくる。初期の『テコキイズム』や『ぬる☆ネバナース』ではまだ見られず、射精前のダメ押しとして、前者ではベロチュー、後者では頬舐めが一コマあるくらいだった。これが続く『デリ☆サキュ』シリーズになるとより激しくなる。本シリーズはサキュバスのデリヘルを呼んだら絞られちゃいました!という話なのだが、作中で彼女たちの唾液は「媚薬ヨダレ」と呼ばれ、男性の感度を上げる効果を持つとして、顔面へのツバ垂らしやサキュバスたちの濃厚な全身リップの理由付けとなっている。

 

『デリ☆サキュ 2.0』より。男の顔にヨダレを垂らすサキュバスたち。市販のツバローションとは、主に匂いにおいて比べ物にならないらしく、男は「チューブわさびと沼津の根わさびくらい違う!!!!」と惚けた顔になった。

 

 本シリーズからナビエ遥か2Tは唾液と同じくアナルにも特化していき、『デリ☆サキュ』ではサキュバスの脇や肛門からは濃厚なフェロモンが出ているという設定のもと、サキュバスAの唾液が垂らされたサキュバスBのアナルを男の顔に押し付ける「フェロモンドラッグ、キメちゃって♡♡」というプレイも描かれる。ちなみに男の感想は「ケツ穴とヨダレのにおいが混ざって…脳天を麻痺させていく…ッ!!♡♡」だった。

 このように唾液や顔舐め(とアナル)を軸にソーププレイ[2]を描いたのが『デリ☆サキュ』シリーズで、やってること自体は後の同人でも変わらない。この後、ヌルネバーランドは『ヌルネバ☆スイマ~!!』や『搾精都市エロシオン』の読み切りを発表したのち、新たなシリーズものである『ハーレムでNEWGAME+!! ~VRエロゲでイったら未来はハーレム世界になっていた!?』を発表する。

 これは、VRエロゲでのオナニー中に死んでしまった主人公が人類唯一の男として700年後に目を覚ましハーレムセックスに勤しむシリーズだ。700年後の女たちは新人類だそうで、唾液に勃起を促して性感を高める効果があるとされる。また主人公も当然唾液・顔舐めフェチであり、シリーズ通してハーレム唾液プレイが描かれる。

 現在5作ある本シリーズから唾液フェチ強めのプレイを以下に列挙してみよう。

 

  • 顔や身体に唾を吐きかけられながらオナニー
  • 舌をこすった舌ブラシを男の鼻にこすりつける
  • 上記の舌磨きで出た唾液をローションの容器に貯めた「変態さん専用の唾液ローション」を使い行うマットプレイ
  • 大勢の女の子の唾液を溜めに溜めた唾液風呂
  • 5人分10個の唾液まみれおっぱいで男の全身をズリズリ撫で上げる
  • 唾液を漏斗に垂らしてもらい、直接鼻の奥に行くよう啜る
  • 口の中でくちゅくちゅした唾液を直接嗅ぐ「唾液テイスティング

 

『ハーレムでNEWGAME+!!vol.4』より。漏斗に唾液を溜めて啜るプレイ
どうでもいいけど、最後のコマなんかメイドインワリオみたいじゃない?

 

『ハーレムでNEWGAME+!!vol.5』より。唾液テイスティング

 

本シリーズはVol.6をもって完結の予定だそうだが、その後発表されたのは、2022年冬コミの『オフパコどうですか?』と2023年夏コミで発表するはずだった[3]『同人サークル入りませんか?』という一話完結の読み切りだ。ここで紹介したい唾液フェチ高めのプレイは『オフパコどうですか?』に描かれた「唾液マスク」だ。これは、唾液を垂らしたマスクをつけて、内側に広がる唾液の匂いを楽しむプレイだ。

 

 

 以上、唾液・顔舐めフェチに注目してナビエ遥か2Tの作品を簡単に辿ってきたが、氏の作品にはアナルフェチもあり、大きなジャンルで言うとソフトМになる。別の特長としては、他のアダルトメディアの演出を取り入れることがある。氏の作品においてベロチューは男の姿が全くなしにまるで美少女が独りで舌を動かしているように描かれるが、これはVRAVでのベロチューそのままである。射精直前に美少女が耳元で「だへ♡だへ♡」と耳舐めするのが同人音声からの輸入であることは間違いない。また、さきほど挙げた唾液をろうとからすすり上げるプレイに近いものは、レズ狂四郎の部屋というメーカーから2014年に発売された『変態的レズ1』でも行われている。エロマンガに隣接するアダルトメディアの要素を巧みに取り入れる作風が氏のオリジナルだとは言わないものの、こうした作品には視覚的な新しい面白さがあるし、何よりエロい。唾液フェチでない人も一度は読んでみることを勧める。

 

『搾精都市エロシオン』より。男捨離のその先を行くエロマンガ表現。

 

2.私が実際にやった唾液プレイ

 かねてよりヌルネバーランドエロマンガを好んで読んでいた私だ。唾液プレイに興味がわいて実際にやってみようと思うのは当然の成り行きだろう。シティヘブンを必死こいて探してみたが、唾液専門風俗はほぼない。むしろマニア系風俗、M性感の中から唾液プレイが得意な嬢を探すやり方のほうが上手く行く。何が言いたいかというと、それだけマニアックな性癖だということを再確認した。

 今からここに記す風俗レビューは、1人の嬢についてではない。いくつかの店でやった唾液プレイや普通のM性感での唾液責め・ベロチュー責めを混ぜ合わせたもので、つまりはこれを読んでも私が行った店、お相手した嬢を特定できないようにしてある。また、私はヌルネバーランドの同人誌を嬢に見せて「この通りやってください」とリクエストしてもいない。したがって先に列挙した唾液プレイのすべてを体験したわけではない。さすがに勇気が出なかった。ごめんなさい。とはいっても、読者の方々も唾液風呂や10個の唾液まみれおっぱいがさすがに非現実的なことはわかっているだろう。

 でも、唾液マスクは家で自分の唾液でやってみた。後述する理由から特に抵抗はなかった。

 

 さて、風俗レポだが、せっかくなのでシティヘブン風に書くとしよう。遊んだ女の子は『デリ☆サキュ 2.0』から借りて、姫ヲ奈(ぴおな)とする。

 

遊んだ女の子 姫ヲ奈

★★★★★

女の子 5 プレイ 5 料金 5 スタッフ 5 写真 5

 

唾液プレイで大満足!

 

【女の子について】

 ホテルのドアを開けた瞬間、「当たり!」と思わず叫んでしまいそうな清楚できれいな女性が立っており、スタイルも抜群。「唾液プレイ・顔舐めをしてほしいです」という要望も笑顔で聞いてくれました!

 

【プレイ内容】

 見た目からは想像もつかないような濃厚なプレイでした。ベッドに腰かけてまずは雑談。こちらの緊張を察してか、やさしくリードしてくれました。徐々に姫ヲ奈ちゃんのボディタッチが際どくなっていき、まずは着衣でのKISS。そして服を脱いでイチャイチャ🚿。戻ったらさっそくベッドに押し倒され、姫ヲ奈ちゃんの舌が顔に迫ってきて、まずは顔舐めから。顎から頬、口の周りなどを重点的にベロベロ。温かくてヌルヌルした感触に大興奮。水泳で使うスイムタオルにお湯を染み込ませて顔を撫でれば近い感覚が味わえるかと。ようするにラバー素材の布にローションやお湯を含ませて顔を撫でてみてください。

 一通り顔を舐められた後は濃厚なベロチュー。舌を口の奥まで入れられたときは「食べられる♡」と錯覚しました。その後は乳首舐め、耳舐め、顔への唾垂らしで全身を唾液まみれにしてもらい、鼻舐めもしてもらいました。一通りヘルスプレイで攻めたり攻められたりを繰り返して、ラストは🍌を唾液まみれにしてもらい手コキで発射しました。

 リピート確定です。またよろしくお願いします。

 

【スタッフについて】

 予約時にはシステムを丁寧に説明してもらい、駅からホテルまでの道のりも案内してもらうなどとても親切な対応でした。

 

 以上が私の風俗体験の素描となる。肝心の唾液プレイの記述が薄くなってしまったが、それについては今から書くつもりだ。

 改めて言うと、風俗体験で私が体験した唾液プレイは、口・顔への唾垂らし、鼻舐め、顔舐め、耳舐めの基本の4種である。さらに、先に挙げた唾液フェチ度高めのプレイのうち、

 

・舌ブラシで舌をこすってそれを男の鼻にこすりつける

・唾液を漏斗に垂らしてもらい、鼻の奥に行くよう啜る

・口の中でくちゅくちゅした唾液を直接嗅ぐ「唾液テイスティング

 

の3つに関しては、嬢の舌に自分の鼻を押し付け呼吸するというかたちで近いプレイをおこなった。

 まずプレイ全体にいえることだが、唾液は乾かないと匂いがしない。そのため、絶え間なく唾液まみれになるプレイ中に唾液の匂いを感じることはほとんどなかった。おっぱいや脇に唾液を垂らしてもらいそれを舐めとってみたりもしたが、サラサラタイプの冷たいローションといった食感だった。むしろプレイ終了後に唾液が徐々に乾いてきてはじめて、作中で言われるような「唾液のほんのりとした独特のにおい」を嗅ぐことができた。それは嬢の舌に自分の鼻を直接押し当てても同じことで、どれだけ唾液をすすってみても音ばかりで、匂いは、多少舌苔の匂いを感じはしたが、ほとんどなかった。したがって、ナビエ遥か2Tの作品で、男が鼻舐めや唾垂らしをされながら「甘酸っぱいマッタリした独特の匂い」や「喉奥のイカ臭くて甘酸っぱいヨダレの匂い」を感じているのは、演出であるといえる。顔舐めはむしろ舌の感触を楽しむものだ。

 ちなみに、乾いた嬢の唾液の匂いは、自分の唾液を手の甲につけた匂いと変わらなかった。この経験を通して男も女も同じ人間であると感覚的にわかったので、唾液マスクを自分の唾液でおこなうことに抵抗がなくなった[4]。こちらも同じ理由で、作品通りに垂らしてぐしゅぐしゅしても乾くまでは「ムズムズする唾液独特の匂い」はしない。なにより、マスクをつけると唾液が重力で下に流れていくので、肝心の鼻周りはますます匂いがしなくなってしまう。

 唾垂らしも匂いを楽しむというよりは、視覚とシチュエーションに興奮するプレイだ。唾を垂らされる直前目の前に広がるのは舌を出した女性のスケベな顔であり、これは確かにナビエ遥か2TやVRAVでの唾垂らしシーンそのままだった。嬢の口から唾がたら~っと垂れてくる光景もエロいし、それを雛みたいに口を開けて待っている自分はバカみたいで非日常感がある。実際やってみてわかったことは、味がしない、垂れる間に冷たくなって口に入った瞬間冷っとすることだった。フィクションと異なる点としては、口めがけて垂らすがゆえに落下した唾液が途中で見えなくなることだ。ナビエ遥か2Tが描くような、あるいは唾フェチAVでアクリル板越しに唾を垂らす映像のような、唾液が溜まり視界さえぼや~っとする光景を見るためには、目に直接唾液を垂らしてもらうしかない。

 耳舐めは、音については同人音声で聞くものと変わりなかった。むしろ同人音声のリアルさがわかった。あれに舌のにゅるにゅるした感触が合わさるので確かに気持ちいいが、それはASMR的なぞわぞわとはまた違うものだった。

 

3.読者の経験は読書体験にどう影響するか

 本稿の裏テーマはこれである。前節で私はナビエ遥か2Tの作品と現実との距離を測ったが、その長短で作品の価値を測るということをするつもりはない。むしろ、読者の経験によって作品の読みがいかに変わるかということを考える。

 読者の体験と作品制作との関係について注目していたのがアイズナーだった。彼にとってコミックはコミュニケーションの媒体であり、作者の描いたイメージを読者が理解し、それが放つ感情を認識するには双方の間で共通する体験が必要だという(Eisner 1985:13-14)。この指摘はまさしくだが、では読者と作者の間で共通させるべき体験とはどの程度具体的なのか。これについてアイズナーは明言してはいないが、例えば、太陽の動きや蛇口から水が垂れる様子で時間経過の度合いが伝わるのは読者と作者の間に体験の共通性があるからで(ibid:25,30)、もっと抽象的な話でいうと、任意の視点からある瞬間を切り取って描いた絵が読者に伝わるかどうかにもかかわってくる(ibid:38)。

 このアイズナーの議論をエロマンガにそのまま持ち込むことができない理由は童貞である。セックスをしたことがない読者がセックスをしたことがない作者のエロマンガを読むこともあるわけで、この場合は確かにセックスをしたことがないという体験が共通しているともいえるが、では彼らは何を手掛かりに作品を読んでいるのだろうか。

 永山(2014:177-178,278-280)によればそれはミームであり、そして自分の身体感覚である。我々は他者の感覚は知らないが、自分の性器や肛門そして皮膚の感覚を知っている。そしてマンガにおける快楽表現のパターンも知っている。彼によるとエロマンガにおいて乳房が女性の快楽を象徴し、ペニスが男性の射精の快楽を保証する。アナルセックスのエロマンガをアナルセックス未経験の男性が読んだとして、彼は排便による肛門の気持ちよさは知っているし、作中に描かれる受けのペニスは勃起している。これらを媒体に、読者は作中に描かれたセックスの快感をシミュレートできるのだ。

 永山の議論から、エロマンガの非現実的な描写を読める理由がわかる。ではミームやエロに関する感覚を知っていれば知っているほど、エロマンガの快楽をより感じることができるのだろうか。

 私は風俗で唾液プレイを体験した。顔面への唾垂らしや顔舐めの感覚を知ったし、女性の唾液の味を知った。その結果、例えば唾を垂らされる際に見える景色はより実感を持って読むことができるようになった。だが、唾を垂らされた竿役が唾液の匂いに興奮する様子に自己投影することはできない。実際に体験したことで、読みが深まった部分もあれば、かえってリアルとファンタジーの境界が明確になった部分もある。

 だが一方で、読みが拡がった部分もある。ナビエ遥か2Tの作品は女性上位ものなので、顔舐めや唾垂らしをしながら女性が男性に覆いかぶさる構図が多い。以前の私であれば、唾液にのみ注意が行きがちだったが、風俗を経験したことで、女性の身体の重みであったり、肌と肌が合わさるしっとり感、髪のいい匂いといった感覚を想起することができるようになった。『同人サークル入りませんか?』にて、顔舐め騎乗位で竿役が感じている「食べられる♡」という感覚は、顔舐めやベロチューにより口や鼻を塞がれていることだけでなく、むしろ女性に身体を押さえつけられている感覚によるところも大きい。

 

唾液の匂いは竿役のモノローグで明示されているが、それ以外の興奮要素は読者が読み解くしかない。

 

 

 エロマンガは理性的な面もある一方で、肉体的な面もある。「お淑やかな女性が実は顔舐め好きの変態だった」、「突然ハーレムセックスし放題の世界に来ちゃった」といった設定の部分がエロマンガの頭で興奮する面だとすれば、「唾液の匂い」や「挿入の快楽」はチンコで興奮する面である。と言ってみたところで、「一見清楚な女性に顔舐めされながらの騎乗位」のようなエロマンガを読むとき、その興奮は頭と身体のそれらがミックスされたものである。実際のところこのような区分は理念的なものでしかないが、エロマンガのエロさを分析する補助にはなるだろう。もう誰かが言っているかもしれないけど…。

 唾液プレイの肉体的な快楽は実際に体験すればわかるが、ケモノ娘とのセックスは体験しようがない。キメセク堕ちする女性の快楽も男性である私には体験しようがない。だがそうしたジャンルのエロマンガでも我々はシコっているわけで、そこにはファンタジーにリアリティを与える技術があるはずだ。一体それが何なのかは今後の課題としたい。

 

 

[1] 本稿では顔舐めと唾液プレイを別のフェチとして区別しない。前者は唾液そのものよりは舌による愛撫を楽しむのに対し、後者は唾液のみを楽しむものであると厳密に分けることはできるが、そうはいってもほとんど重なるくらいに隣接しているし、またナビエ遥か2Tの作品においては匂いを楽しむという点で通底してもいるからである。

[2] デリヘルである以上、本番行為はなくヘルスプレイまでのはずだが、そこはご愛敬。

[3] 夏コミの申し込みを作者が忘れてしまったそうだ。

[4] とはいえやる前の歯磨きはかなり念入りにやった。やってしまったというべきか。

 

 

参考文献

Eisner, Will(1985)『COMICS & SEQUENTIAL ART』Poorhouse Press.

永山薫(2014)『増補 エロマンガ・スタディーズ 「快楽装置」としての漫画入門』ちくま文庫.