小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

小文化学会の案内

 みなさんはじめまして。小文化学会のブログへようこそ!

    小文化学会(以下小学)は2016年9月1日に設立された学生を中心とする、総合思考サークルです。関心領域は会員の自由。あなたの探求するものが、小学の探求するものになります。

 「学会」と称していますが、当然ながら実際に学会として運営される団体ではありません。あくまで「ごっこ遊び」のようなものだとお考えください。しかし模倣とはいえ「学会」の体裁を取る以上は真摯に活動していきたいと思っています。

 具体的には以下の活動を行う予定です。

・記事の作成と当ブログへの寄稿

・記事をまとめた冊子の作成、配布

・書物・アニメ等を用いた勉強会

 

 Twitterアカウントはこちらです

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 当会へのご連絡は、本ブログの各記事のコメント欄(当記事でも差し支えありません)か、Twitterアカウントのツイートへのリプライ、またはDM、小学のeメールアドレス(shobunkagakkai☆gmail.comの☆を@に変更)にお願いいたします。いきなり入会をする必要はございません。興味、意見を少しでも持っていただいたら、お気軽にご連絡ください。

 

『完全自殺マニュアル』鶴見済著1993年(太田出版)

 これまでの人生自殺したいなんて思ったことのない俺が、周りにいる死にたがりの道化どもより先にマニュアルに目を通したことで、もうやつらのリスカやODのごっこ遊びをみても動じなくなる。これが本書を読む第一のメリットだ。

 さて、本書はタイトルそのまま、自殺についての方法、注意点等を紹介するものだ。首吊り、薬、飛び降り等メジャーな10種類とその他の方法が、苦痛や手間、致死度といった指標をもとに比較される。読んでみて驚いたのが事例研究の厚さだ。各方法について、成功例と失敗例がたくさんあげられ、なぜ失敗したのか、この死に方はよかったなど著者が批評する。これで死ねないのかとかこんなのでも死ねるのかという発見があり、自殺を実行するうえでの参考になる。ただし、この時の記述の仕方が報告書的ではなく、遺書の言葉や自殺に至る動機なども含めて叙述的に書かれるので、一気に読んでいると気が重くなってくる。

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『くるまの娘』宇佐見りん著 2022年(河出書房新社)

 自分は水路だと思っていたら水だった、という勘違いに人はよく陥る。子供一人ひとりに綴っていた写真アルバムが、きょうだいは残されているのに俺の分だけなかったとか、かつて家族で行った遊園地を訪ねたら、目当てのメリーゴーランドが休業していたとか。あるいは、頻度こそ少ないが正反対の錯誤もある。抵抗できない親の選択や暴力の被害を受けてばかりいたと思ったら、たわいない会話で自己認識を押しつけ、弟を傷つけていたとか。

 程度の差はあれど、思いえがいていたことがそうはならなかった経験を、どの家庭の親も子も持っている。家族とは、安易な言明は避けるべきだろうが、あえて言えばもっとも自然体でいられる場所だ。そうでないならば、家庭以外の自然体でいられる場所をひとつ、想起してもらって構わない。かかる場において自然体でいるということは、企図や行動を為すにあたり、制約や配慮をしなくてもよいと言い換えられる。みずからが望むように、己ではないあらゆる物事が流れていく。水路とはそのような状態を指す。

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『夏の階段』梨屋アリエ著 2008年(ポプラ社)

 図書館へ行ったら夏の本特集みたいな名目で置かれていた一冊。

 いわゆるヤングアダルト(YA)と呼ばれる中高生を対象としたジャンルに属する。栃木県内とおぼしき地方都市を舞台に、公立進学校に入ったばかりの高校1年生数人の視点を章ごとで切り替えていく群像劇。

 読者層だったころは当該ジャンルの本をけっこう読んでいたが、ヤングでもなければアダルトにもなりきれない意味不明な存在になってからは、ほぼ読まなくなった。せっかくだし久々に読むか……と借りてみた。

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『不完全マーブル』のコマ割りについて-エロマンガのエロいエロくないを分析する3.4-

 このスピンオフも本記事が最後。きいの現時点での最新単行本『不完全マーブル』の分析でこのシリーズを終わりとする。

 親記事にて調査したとおり、きいという作家は単行本を経るにつれ婉曲的な表現が多くなっていった。風景や身体の一部を切り取ってキャラの心情を暗示的に表現する。そういう語り方が得意な作家だ。『不完全マーブル』はそんなきいの現在の最先端なので、全二冊で指摘した特徴ももちろん表れているが、改めて指摘はしない。

 

  • ①日陰の詩
  • ②あきらちゃんはどうしてもチンチンをなめたい
  • ③あきらちゃんはどうしてもチンチンをいれたい
  • ④優惑
  • ⑤ヒメ♡ハジメ
  • ⑥turn
  • ⑦六月の雨の夜に
  • ⑧ビビッてねーし!
  • カサブタ
  • まとめ

 

①日陰の詩

 陰キャの女にいじめられっ子の男が罰ゲームでセクハラ発言したら、なぜか上手くことが進んでセックスができて、付き合えるようになった話。男に都合よく物事が進んでいくので、エロマンガらしい多幸感と万能感を味わいながら読んでいける。

 ちなみに射精はゴム射。ヒロインの可愛い挙動を愛でる読みをする作品で、射精の気持ちよさは最優先ではない。

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ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』を読む⑤

 ウィル・アイズナーがマンガについて論じた『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』。その文献紹介も今回で最後となります。

 今回扱うのは第7章と第8章。どちらもマンガ表現それ自体を扱うことはなく、第7章は社会におけるマンガの使用について、第8章は本書のまとめとマンガの未来について論じている。

  • 7章 APPLICATION(The Use of Sequential Art)
    • インストラクション・コミック
    • ストーリーボード
  • 8章 TEACHING/LEARNING Sequential Art for Comics IN THE PRINT AND COMPUTER ERA
    • コンピュータとコミック
    • コンピューターと作家の個性
  • アペンディクス
    • 10nies
    • ぽわとりぃぬ
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群青ノイズのコマ割りについて―エロマンガのエロいエロくないを分析する3.3ー

 「お前、前の記事できいのエロマンガのコマを全部数えたらしいけど本当かよ?」という疑い(本当にそんなこと言う人がいるかどうかは不明)に応えるための作品レビュー。今回は『群青ノイズ』。

 

『放課後バニラ』のコマ割りについて①ーエロマンガのエロいエロくないを分析する3.1ー - 小文化学会の生活

 

『放課後バニラ』のコマ割りについて②ーエロマンガのエロいエロくないを分析する3.2ー - 小文化学会の生活

 

『放課後バニラ』の作品レビューをした前回、前々回の記事はこちら。

 

 さて、本作は前作『放課後バニラ』に比べてページ数は変わらないものの、コマ数が増加し、密度が濃くなったのが特徴。2冊目の単行本できいがどう進化したのかを本記事では探求していく。

 

  • ①-10
  • ②イレギュラー
  • ③トイレの小花ちゃん
  • ④LOVERS
  • ⑤咲クLOVEーさくらー
  • ⑥解放区
  • ⑦≦ー不等号ー
  • ⑧お見舞いエトセトラ
  • ⑨つめたい雨、やさしい君
  • まとめ

 

①-10

 夏祭りに来た女先生と生徒が森の中でセックスをする話。話はゆっくりと進行していく。時間の流れも順番通りだ。

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ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート』を読む④

 前回に引き続き、ウィル・アイズナー『コミックス・アンド・シーケンシャルアート(Comics & Sequential Art) 』を読む。今回は5章 "Expressive Anatomy" と6章 "Writing & Sequential Art"だ。

 

sho-gaku.hatenablog.jp

 

 前回の"Flame"では、コマ割りからシーケンシャルアートとしてのコミックの作成手法が検討していた。そこではコマによって操作されるものがアングルと、アングルによって構築される読者の視点、および視点をとおして操作される感覚へ言及されていた。また、コマの概念と単位を拡張し、ページ全体をコマのように捉える「スプラッシュページ」という発想もアイズナーは唱えている。

 5章では絵のスキームから絵そのものへと焦点を移し、主に人間の所作をどのように描写するのか、というポイントを論じている。動作のすべてを落としこめないマンガにとって、描く瞬間を選びとる作業は、読書体験をより良質するために必須の工程となる。6章はマンガ作成という行為の実行過程を主題とする。具体的にはストーリーと作画というふたつの役割の関係である。言葉と絵という二大要素が、マンガをつくる際にどのような相互行為を営むのか、アイズナーなりの考えが示されている。

 

  • 5章 Expressive Anatomy
    •  人間を描くということ
    •  身体
    •  代替となる佇まいの選択
    •  顔
  • 6章 Writing & Sequential Art
  • The Writer(原作担当)と The Artist(作画担当)
  • 言葉と絵の関係
  • アペンディクス
    • ぽわとりぃぬ
    • 10nies
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軍儀戦略概論

 こんにちは。ヱチゴニアです。

 今回はハンターハンターという冨樫義博先生による大人気バトル漫画の中に登場する軍儀というボードゲームについて書きます。といっても、軍儀ハンターハンターの物語の中でどのように登場するのか、あるいは軍儀とはどのようなルールなのかといった話はしません。より実践的な軍儀の戦略の話をします。

 何故かと言うと、ググっても軍儀の戦略を真面目に考察している人があまりいなかったからです。

 

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キャラクターのあいだに挟まりたがる消費者――負けヒロインをめぐる思索と課題

目次

  • 緒言
  • 負けヒロインと言論の関係
    • 語る人と負けヒロイン
    • 不当ではないが、前提にはならない営み
  • 負けヒロインの関係の言論へ
  • 参考文献

 

緒言

 本記事は負けヒロインに関する諸論考における問題点の考察、およびそれらとは異なる分析方法の検討を目的とする。既存の言及には大別して2点の課題が挙げられる。自らの価値判断を密輸入し、それらを他者の同意なしに負けヒロインというカテゴリの前提とする点、負けヒロインに関連する諸要素を、負けヒロインというカテゴリのみならず、それに類されるキャラクターそのものにまで対応させていく点である。

 これらは自らの思惟やテクストの外側にある事物を混淆させており、即時的に負けヒロインの分析とするには、疑義を差しはさむ猶予がある。キャラクターと各論者=消費者の関係を中立的に捉えつつ、おのおのの思想の豊饒性を並立するために、テクスト内のキャラクター間の関係を追跡し、その結果を分析する手法について、既存の拙稿を参照しつつ、再提示していく。

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