小文化学会の生活

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プレイヤー間に実力差がある場合の『ドミニオン』の戦略

 こんにちは、ヱチゴニアです。

 久しぶりのボードゲームの記事です。それも、ボードゲーム全般の話ではなく個別のボードゲームに絞った戦略論的な話。ただし『ドミニオン』を知らなくても読める構成にはなっていますし、個別のゲームの戦略とはいえ、「プレイヤー間に実力差がある場合」というシチュエーションとしては普遍性のある話題でもあります。どんなゲームでも、布教して初めて遊ぶ時にはプレイヤー間に実力差があるからです。

 誤解してほしくないのは、この記事は「初心者に気持良くプレイしてもらって上手に布教しよう!」という主旨ではない、ということです。むしろ経験者が初心者と一緒に遊ぶ時の、ガチで勝ちに行くための戦略です。

 

 

 え? 大人げない? 普通の戦略とは何が違うのか?

 それはごもっともな指摘です。

 一般的に経験者は初心者よりも強いことが多いですから、もし経験者が1人で後は初心者なら、わざわざ戦略なんて考えなくても勝てるでしょう。それは理解しています。逆に、経験者しかいない状況であれば、普通の戦略で事足ります。

 しかし、複数人の経験者に加えて、場をかき乱す初心者が居たら? 1位になるために取るべき戦略は変わってきます。長年布教を続ける中で私はそのことに気付きました。私が書きたいのは、そんな場合の話です。もちろん、初心者に気持よくプレイしてもらうことも非常に大切です。でも、やるからには勝ちたいですよね?

 

1.ドミニオンとは

 本題に入る前に、まず『ドミニオン』というゲームの概要を説明します。遊んだことがある人は読み飛ばしていただいて問題ありません。

 ドミニオンは2008年にアメリカで販売されたカードゲームです。*1。日本では2009年にホビージャパンから日本語版が販売されています*2。国際的なボードゲーム賞を複数受賞し、それ以降に多くの類似ゲームが開発されるなど、非常にエポックメイキングなゲームです。もし遊んでみたければ、こちらのサイトがおすすめです。

 ドミニオンの最大の特徴はデッキ構築というシステムにあります。遊戯王のようなTCGで遊んだことがある人には馴染みがあると思いますが、あれこれ考えながらデッキを構築するのは、実際にそのデッキで対戦するのに引けを取らないくらい楽しい時間だったりもします。そのデッキを構築するという作業がゲームになったのがドミニオンなのです。

 最初にプレイヤーは同質の10枚からなる初期デッキを与えられます。そして、ゲームの進行にしたがって新しいカードを購入しデッキに追加することでそれぞれの好きなようにデッキをカスタマイズしていくのです。しかも、カスタマイズのためのカードは数百種類のカードプールの中から毎回ランダムに10種類が選ばれるため、毎回違うゲーム展開を楽しめます。最終的に、ゲーム終了条件が満たされたタイミングで最も点数の高いデッキを構築していたプレイヤーの勝利となります。

 ゲームの妙は、「点数カード」と「点数カードを購入するために必要なカード」が異なっていることです。前者を沢山購入するためには、まず後者を集める必要があります。しかし、後者を集めることばかりにかまけていると、他のプレイヤーに点数カードをかっさらわれてしまうかもしれません。点数カードの枚数は有限で、これが尽きたらゲームは終了となります。そのためデッキを構築する上で、点数カードとそれを購入するためのカードの枚数バランスは非常に重要な要素となるのです。

 

2.一般的な戦略

 ドミニオンはメジャーなボードゲーム(カードゲーム)なので、当然戦略も研究されています。プレイヤー間に実力差がある場合の戦略を考えるために、一旦、一般的な戦略について考えてみたいと思います。

 戦略の話をするために、まずは点数カードについて軽く触れます。点数カードは基本的に「属州」「公領」「屋敷」の3種類で、それぞれ順に6点、3点、1点の点数になります。

「属州」カード(6点)   「公領」カード(3点)   「屋敷」カード(1点)

 点数の高いカードほど購入に必要なコインの枚数が多く、「属州」の購入には8コイン、「公領」の購入には5コイン、「屋敷」の購入には2コインが必要です。ドミニオンでは基本的に1ターンに1枚しかカードを購入できないため、同じ点数だとしても「屋敷」を6枚あるいは「公領」を2枚購入することは、「属州」を1枚購入することと等価ではありません。加えて、点数/コイン効率的にも、前述の点数カードとそれを購入するためのカードの枚数バランスを維持する観点でも、「属州」の方が優れていることが分かります。このような背景から、例外的な状況を除けば、プレイヤーは「屋敷」や「公領」を無視して「属州」の購入を目指します。

 さて、改めて一般的な戦略の話をしましょう。個人的に最も初歩的かつ重要だと思う概念は、ビッグ・マネー戦略です*3。あるいはステロと呼ばれることもあります。脚注のリンクはとても良くまとまっているので、もしドミニオンの初心者を脱却したければ必読です。

 ビッグ・マネー戦略は、「銀貨」や「金貨」といった全てのゲームにおいて絶対に登場する基本カードを基軸としているため、どんなゲームでもとることのできる超基本的な戦略です。

「銀貨」カード(2コインを生み出す)     「金貨」カード(3コインを生み出す)

 前述のサイトでは、仮に基本カードのみの純粋なビッグ・マネー戦略をとった場合、17ターン前後で「属州」を4枚購入することができると紹介されています。なので、プレイヤーはそれよりも速く「属州」を4枚購入できる戦略がないのであれば、純粋なビッグ・マネー戦略をとったほうがマシである、といったように一種の判断基準にもなります。

 また、純粋なビッグ・マネー戦略に1枚だけ、「鍛冶屋」という効果が単純(カードを3枚引くだけ)なカードを加えると、17ターンよりも短い14ターンで「属州」が4枚購入できるとも紹介されています。

「鍛冶屋」カード(カードを3枚引く)

 このように、ドミニオンの戦略を考える上では、「属州」を4枚購入するのにかかるターン数が強さの指標として用いられていることが分かります。これは何故なのでしょうか。

 ドミニオンを4人で遊ぶ場合、「属州」は12枚用意されます。そして、この12枚が全て購入されたターンにゲームは終了です。この12枚を単純に4人で分配すると1人あたり3枚ですが、それでは点数が同じで勝てません。そこで(他の点数カードを無視して)単純に考えると、「属州」を4枚購入すれば他のプレイヤーよりも一歩リードして、勝利を得ることができるのです。よって、プレイヤーは他の人よりも速く4枚の「属州」を購入することを目指す、というわけです。

 繰り返しますがカードは1ターンに1枚しか購入できないので、他の人よりも多くの「属州」を購入するためには、他の人よりも1ターンでも早く「属州」を買い始めなければなりません。そのため、ゲームの序盤では、プレイヤーは「属州」を買うのに必要なカード(例えば「銀貨」や「金貨」、「鍛冶屋」など)を積極的に購入していくことになります。しかし、どこかのタイミングで(できるなら他の人よりも早く)「属州」を買うのに必要なカードを集めるのを止めて「属州」そのものを買いはじめなければいけません。

 ここで問題になってくるのが、「属州」という点数カードそのものは、「属州」を買うのに役に立たない、という点です。カードには購入するのに必要な値段が決まっており、プレイヤーは様々なカードを駆使してコインを生み出すことで支払いを行います。しかし、「属州」のような点数カードはコインを生み出さないのです。つまり、デッキに「属州」が沢山あればあるほどデッキの点数そのものは高くなるのに、「属州」を購入する能力は低下していってしまいます。そして、一度「属州」のような点数カードによって購入能力が低下したデッキを立て直すのは中々難しいことなのです。ここにジレンマと駆け引きがあります。

 状況を整理しましょう。プレイヤーは「属州」を4枚購入するためにデッキの購入能力(コインを生み出す能力)を強化していきます。しかし、強化にターンをかけすぎて他のプレイヤーに出し抜かれると、「属州」を購入するレースに出遅れて負けてしまいます。だから、1ターンでも早く4枚の「属州」を買えるギリギリ最低限の購入能力を備えたデッキを構築し、「属州」購入レースをリードしにいく戦いが発生します。仮に自身のデッキを見誤って十分な購入能力が無いにもかかわらず「属州」を購入し始めてしまうと、2,3枚購入したタイミングで「属州」がデッキを圧迫し、さらなる購入ができなくなってしまうため、「属州」購入レースから脱落してしまうことになります。そのため、如何に速く自身のデッキを強化するか、という点だけでなく、自身のデッキの購入能力を適切に判断し、最低限の能力に達したら即座に「属州」を購入しはじめる、という点が勝敗を分ける重要な要因となるわけです。早すぎず遅すぎず、しかし速くデッキを構築する勝負なのです。

 

3.プレイヤー間に実力差がある場合の戦略

 2.で説明した一般的な戦略では、プレイヤー間に実力差が無いことが前提条件となっていることに気付いたでしょうか?

 12枚の「属州」が4人に各3枚分配されるから4枚購入できたら勝てる、というロジックは、「属州」を1枚も購入できないような初心者が混じってくると崩れてしまいます。その場合、12枚を実質3人で分けるので、引き分けの水準が4枚となり、勝利の水準は5枚となるのです。さらに4人中2人が初心者、2人が経験者となれば、引き分けの水準は6枚、勝利の水準は7枚までつり上がってしまいます。

 表にまとめると以下のような感じになります。

初心者人数 引き分けの水準 勝利の水準
0人 3枚 4枚
1人 4枚 5枚
2人 6枚 7枚

表 初心者人数による水準の変化

 

 このようにプレイヤー間に実力差が存在すると、とるべき戦略は微調整をせまられます。例えば勝利の水準が7枚の状況で、“一般的な戦略”の感覚のまま「属州」を4枚購入できるギリギリ最低限のデッキを構築してしまうと、4枚購入したタイミングで購入ペースが失速することになります。もしもう1人の経験者が、より時間をかけて購入能力の高いデッキを構築してから「属州」を購入しはじめたとしたら、後から追い抜かされて負けてしまうのです。

 では、前述の表のように初心者の人数に応じてデッキの購入能力を引き上げてから「属州」の購入に移ればいいのかというと、そう簡単には決められません。なぜかというと、この表はこの表で初心者は1枚も「属州」を購入できないという前提条件を置いてしまっているからです。現実としては、初心者が何枚の「属州」を購入できるのかはゲーム前の段階では完全に未知数です。もし初心者2人が1枚ずつ「属州」を購入するなら、経験者2人の間での引き分けの水準は5枚となり、勝利の水準は6枚となります。

 このように、勝利の水準は非常にあやふやなものでしかなく、事前に決定することはできないのです。そのため、私たちはゲームの進行中、常に初心者の動向に注目し続け、勝利の水準を見極めていく必要があります。

 さらに踏み込むと、勝利の水準が変わるということは、ゲームの終了タイミングも変わるということを意味します。基本的にカードは1ターンに1枚しか購入できないので、例えば初心者2人が1枚も「属州」を購入しない状況では、経験者2人が「属州」を購入しきるために6,7ターンを要することになります。さらに、「属州」を6,7枚購入できるデッキを構築するために要するターンは4枚の場合よりも数ターン多くなると予測されます。したがって、例えば前述のビッグ・マネー戦略に「鍛冶屋」を加えた戦略では経験者4人なら14ターン前後でゲームが終了するところが、勝利の水準が7枚になれば、ゲームの終了タイミングは20ターン前後まで引き延ばされるかもしれません。

 ゲームの終了タイミングが遅くなると、とれる戦略の幅が増加します。カードの中には1ターンに購入できる枚数を増やせるものがあるのです。そのようなカードを利用し、1ターンに2枚の「属州」を購入する戦略が存在します。通常、このような戦略はデッキの構築に時間がかかり「属州」を購入できるようになるタイミングが遅いため採用しにくいのですが、プレイヤー間に実力差がありゲーム終了タイミングが遅くなることが予測されれば、採用することも現実味を帯びてきます。この戦略が成功すれば、先行して1枚ずつ「属州」を購入していたプレイヤーを追い抜くことができます。

 もちろん、状況判断を誤っていて初心者が「属州」を購入することによって想定よりも速くゲームが終了すれば、そのような戦略を採用した経験者は、ともすれば初心者よりも低い点数で敗北する可能性もあります。

 その意味では、1ターンに2枚の「属州」を購入するような、遅いけど炸裂すれば強いタイプの戦略は、柔軟性に欠けるためにプレイヤー間に実力差がある状況では適さないとも言えるかもしれません。

 

4.終わりに

 まとめると、プレイヤー間に実力差がある状況では、初心者が購入できる「属州」の見込み枚数を予測することが重要であるため、初心者がどのようなデッキを構築しているのか、その動向に注目する必要があります。さらに、初心者の動向に合わせて柔軟に戦略を微調整することが求められるため、後から変更しにくい戦略を採用すると大敗する危険性が高まります。

 初心者と複数人の経験者が混じってドミニオンで遊ぶような状況では、上記のような点に注意して1位を目指しましょう!

 また、今回紹介しきれなかったプレイヤー間に実力差がある状況での特異的な戦略がもう少しあるのですが、それについては機会があれば別の記事にしようと思っています。