今回のテーマは地政学です。
英語でいうとGeopolitics。
国際情勢のニュースで専門家が「地政学的に~」とか「地政学上のリスクが~」というのを最近耳にしたことがあるかもしれません。
国家や国際関係について地理と政治を併せて考える学問が地政学。
雑誌「現代思想」が2017年に特集を組んだことがきっかけで一般的に認知されだしたそうです。
戦後「軍事的」だという理由で日本では禁止されていたけど、1970年くらいから復興。なんどかのブームを経て、現在もまたブーム中。
YouTubeには地政学を解説した霊夢と魔理沙の動画もたくさんあります。
なので今回はそれらを見始めた当時の私が欲しかったような用語集を作ってみようと思います。
あいつら知識を披露するのに忙しくて視聴者に優しくねえからな。
この記事を読んだ後、あなたは世界情勢が隅から隅まで見通せるようになる!……ほど地政学は万能ではないと思う。
あくまで国家と国家の関係を超マクロな視点で見る学問だし、実際の世界情勢は様々な要素が絡み合う複雑怪奇なもの。地政学的知見もまた1つの見方でしかない。
それに、地政学を学問と呼んでいいかは微妙なところ。
創始者であるマッキンダーは政策提言を主目的とし、学問としての体系立てはしなかった。そのため用語の定義も曖昧。あとなんかうっすら西洋中心的だし。
あと文化人類学を学んだせいか個人的にアメリカの戦略とか中国の野望って言われると「国家のどこにそんな意志を持つ実体があるのかしら」って疑問が湧く。
まあでも地理と政治を交えたことなんてみんな今までの人生でしてこなかっただろうし、その知の蓄積は日々を生きる上で役立ちます。
というわけでレッツゴー。
1.学説史
地理と政治を交えて考えた人物を歴史に探せば、アリストテレスや孫氏にまで行きつきます。だが地政学という学問が誕生していくのは19世紀の後半、帝国主義として欧州列強が世界中に植民地を建設していた時でした。
この辺は古典地政学と呼ばれるけど、地理学とあんま区別がつかない。っていうか、地理学自体も出来たばっかり。そんなまだもやもやした感じ。
だが近代地政学の始まりははっきりしている。
彼を祖にして始まった近代地政学はその後スパイクマンへと受け継がれ、発展していきます。
1-1. マッキンダー:ハートランド
はいということで、マッキンダーから始めていきしょう。
マッキンダーが提唱した概念で重要なのはこれ。
単語の意味は、ユーラシア大陸の内陸部。ど真ん中じゃなくてかなり北寄り。だいたい今のロシアとカザフスタンの範囲。
その内陸部の意義について説明するにはまず、マッキンダー以前にいたマハンという海軍戦略思想家の「シーパワー」という概念を説明しなければなりません。
「シーパワー」とは海洋国家のこと。時代背景として大英帝国をイメージしてください。史上唯一全大陸を制覇した史上最大の帝国。
イギリスがこれほどの力を持ちえたのはなぜか。
それは海上交通を押さえたから。大航海時代はスペインやオランダ、フランスと海上帝国が建設され栄えた時代でした。
これがシーパワー。
現代でいうと、アメリカ、イギリス、日本。
これに対してマッキンダーが提唱したのがランドパワー。つまりは大陸国家のことです。地続きで隣国と接し陸上交通で栄える国。現代でいうと中国、ロシア、ドイツ[1]。
折しもマッキンダーの時代には鉄道が発展しておりました。ユーラシア大陸や北米アメリカで大陸横断鉄道が建設された時代。海上貿易依存の大英帝国にとって、鉄道網の発達は脅威。もしユーラシア大陸の内陸部、すなわちイギリスの勢力の及ばない土地に強大な国家が出来れば大英帝国が脅かされる。マッキンダーはそう考えました(石津 2020:77-78)。
以上の分析から出来るのがハートランド理論です。シーパワーが攻め込みにくいユーラシア大陸の内陸部(ハートランド)を支配するランドパワーはユーラシアの鉄道網を支配するので大陸全土を支配する。そうすれば制海権をも握るので、世界を制する。
マッキンダーが候補としていたのはドイツ、ロシア。当時鉄道で発展してた2カ国です。どちらかがハートランドの入り口である東欧を越えればランドパワー超大国となってしまう。
「東欧を制するものはハートランドを制する。ハートランドを制するものはユーラシアを制する。ユーラシアを制するものは世界を制する」
1-2.スパイクマン:リムランド
ハートランド理論を提唱したマッキンダーは、シーパワーはランドパワーをユーラシア大陸に封じ込めるべきだと言いました。ハートランド国家が海に出た瞬間シーパワーの海上交通が切断され、制海権を奪われる。これを具体的に国同士の関係でいうと、「イギリスはロシアの南下政策を許すな」ということになります。
ということは、イギリスとロシア、すなわちシーパワーとランドパワーの衝突する領域がユーラシア大陸には存在するということになります。
マッキンダーもこの領域に着目しており、ハートランドの外縁部を「内側のクレセント」と名付け[2]、そこでランドパワーとシーパワーが衝突するとの構図を示しています。
ですが今となっては、同じ領域を指示したスパイクマンの「リムランド」のが有名です。
なんでかな?
多分、マッキンダーがユーラシアという旧世界しか考慮してなかったからじゃないかな。それに空軍というエアパワーも入ってないし、時代遅れ。
第二次世界大戦の時期を生きたスパイクマンの方が有用。
あと、スパイクマンがした国際関係についての予言が結構的中してるのも理由かな。
1-2-1.リムランド
スパイクマンはマッキンダー理論の「ランドパワーVSシーパワー」という基本概念を継承しながらも、エアパワーの重要性を意識しつつ、「リムランド論」を打ち立てました。
まずリムランドとはユーラシア大陸の縁のこと。上記画像の「内側のクレセント」と同じ領域です。
ちなみにその外にある海のことはマージナルシーといいます。
スパイクマンが重視したのはハートランドそのものではなくこの地域なのですが、どうしてでしょうか。
スパイクマンがマッキンダーと最も異なるのは、「新世界(南北アメリカ大陸)VS旧世界(ユーラシア・アフリカ大陸)」の構図を取り入れたことです。彼が生きたのはWW2の時代のアメリカなので、その影響かな。
そのうえで、「包囲」という概念を提唱しました。つまり、「新世界は旧世界に包囲されている」。アメリカを世界地図の中心に持って来ると、地図の右端にドイツ、左端に大日本帝国が位置する。これが旧世界による新世界の包囲。もしナチス・ドイツと大日本帝国にアメリカが負ければ、新世界は旧世界によって囲い込まれる。経済封鎖なんかされた日にゃおしまい。だからアメリカは積極的にユーラシア大陸に介入すべきと主張した(奥山 2020:193-197)。
この立場からすると、リムランドはハートランドと周辺の海の間にあるバッファーゾーン(緩衝地帯)となる。バッファーゾーンは大国と大国との間に位置して直接対決を和らげる小国とか共有地域のこと。新世界vs旧世界というデカい図式で考えると、ヨーロッパや中東、アジアの沿岸部は全てハートランドであるソ連と、シーパワーであるアメリカの緩衝地帯となるわけです。
実際の戦争はマハンやマッキンダーのようなランドパワーvsシーパワーという単純な図式ではなく、むしろ複雑なリムランドとシーパワー、ランドパワーの組み合わさった対立なのです。
確かにこのリムランドという地域に注目すると、世界の人口のほとんどが集中しているし、世界のチョークポイントのほとんどが集まっている。歴史を見ても世界を揺るがす危機はここで多く発生する。
ハートランドそのものよりむしろリムランドを重視したスパイクマンは、マッキンダーの格言になぞらえて以下の言葉を残しました。
「リムランドをコントロールするものがユーラシアを支配する。ユーラシアを支配するものが世界の運命をコントロールする」
1-2-2.地政学的状況は変化する
奥山(2020: 202)によれば、スパイクマンは地政学的状況がテクノロジーによって変化することを認めていました。確かに地理は最も恒常的で根本的な条件だけど、国家や出来事の運命までを決めはしない。あくまで主要な条件なのであって、テクノロジー次第で変化させられるそうです。
地政学が誕生した20世紀初頭辺りにおいて戦争といえば陸か海でしたが、そこに空と宇宙が加わり、最近サイバー空間も加わった。大陸を越えて核ミサイルをぶっ放せる現代、じゃあ地政学が無効になったかというとそうでもない。サイバー攻撃にしろ核ミサイルにしろ、攻撃対象にするのは地政学上重要な位置だから。
学説史は以上になります。もっといろんな学者がいるけど最低限マッキンダーとスパイクマンの理論と流れだけ知っておけばいいかなという判断でこんな感じになりました。最低限すぎる気がしないでもないですが、その他有名な地政学者は次章の用語集でも紹介します。
ランドパワーとシーパワーをまとめた表
参考文献
石津朋之(2020)「シー・パワーとランド・パワーと、そして……—マッキンダー」庄司潤一郎・石津朋之編著『地政学原論』pp68-92.
奥山真司(2020)「『リムランド』と未来予測-スパイクマン-」庄司潤一郎・石津朋之編著『地政学原論』pp187-213.
舟橋洋一(2021)『こども地政学 ☆なぜ地政学が必要なのかわかる本☆』カンゼン.
2.地政学用語集
こっからは用語集です。
地政学の概念や重要な国と地域、国際関係についてひたすら羅列していきます。
ハートランドとリムランド、シーパワー、ランドパワーについては前章で書いたから割愛。
あいうえお順です。
ア行
アメリカ
現在の超大国。一見ランドパワーの国に見えるが、実はシーパワー。地政学的にいうとアメリカは島国。まずアメリカ大陸が大きな島国。そして北のカナダとは仲良しで、南のメキシコは弱すぎ。南米は経済で従属させ、おまけにパナマ運河を掌握しているので、アメリカ大陸に敵なし。つまりは疑似的な島国。故にシーパワー。正確にはランドパワーからシーパワーに転換した国。ソ連崩壊後に世界唯一の超大国として世界を振り回しに振り回してたけど、2000年以降くらいから相対的に国力が低下。とはいえその力は未だ圧倒的。世界最大の農業大国にして工業大国にしてIT大国にして資源大国にして最強の軍事大国。ドルは世界の基軸通貨。しかも先進国のくせに少子高齢化じゃない。現在、世界覇権を狙う中国と絶賛冷戦中。世界を支配する代わりに支払う膨大な維持管理費が嫌で「世界の警察」を辞めるつもりだったオバマとトランプだけど、バイデンはどうなんだろう。
イスラエル
地中海に面したヨルダン川の西にある国。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があるイェルサレムを擁するユダヤ人の国。バルフォア宣言を受けてパレスチナにユダヤ人が入植。現地のアラブ人と対立しながらも、アメリカが国連に強く主張した「パレスチナ分割案」でパレスチナの56%の土地を獲得。アラブ人の3分の1しか人口いなかったのに。この時期中東から石油が取れ始めていたのでアメリカは友好国を作っておきたかったのと国内のユダヤ人の声に押されたのが理由。1948年5月14日に建国を宣言するやその3時間後にアラブ諸国が宣戦布告、第一次中東戦争(パレスチナ戦争)が勃発。アラブ側が大敗してパレスチナ分割案以上の土地を奪われる。現在、第四次まで戦争しておりそのたびにイスラエルはデカくなってる。第三次で占領したのがガザ地区(現在イスラエル軍は撤退したものの地区を封鎖)。一連の中東戦争でイスラエルにパレスチナを追い出されたアラブ人たちのことをパレスチナ難民という。
イギリス
かつての超大国。見てのとおり島国なのでシーパワー。ヨーロッパと言いつつドーバー海峡を隔てているので欧州情勢からは1つ距離を取れるお得な立地。食文化を犠牲に産業革命で一躍世界トップに立ち、世界中に植民地を建設。大英帝国は史上最大の海上帝国となった。香港、中東における三枚舌外交、アフリカ分割……現在の国際紛争は大概イギリスのせい。19cにはロシア帝国の南下を食い止めるべくユーラシア大陸を股にかけ闘う。ヨーロッパに単一国家が現れると自分が脅かされるので各国が拮抗するよう調整し、強大な国家が現れた時だけ闘うのが基本戦略。この戦略が地政学でいう「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」。ヨーロッパを支配しようとしたロシア帝国と戦った理由がこれで、ナポレオンやナチスと闘ったのもそう。2度の世界大戦と植民地支配の出費で疲弊し世界の管理をアメリカに譲ったが、いまだに大国。最近はEU離脱で世界をにぎわせる。やっぱり統合嫌いなんですね。離脱してもイギリス連邦と日英同盟で何とかやってけるんじゃないですか。大英帝国未だ死なず。紅茶とフットボールとOASISの国。ロンドンは今日も曇り。
イギリスの三枚舌外交
イギリスが第一次世界大戦時におこなった中東にかんする相矛盾する3方面への外交のこと。サイクス・ピコ協定、フセイン・マクマホン協定、バルフォア宣言の3つ。それぞれの内容は各項目にて解説。今に至るまで中東やイスラエルとパレスチナが争ってるのはこの外交が原因。ちな、俺の世界史の用語集に載ってなかった。
一帯一路
現在中国が推し進めている政策。中国の項で説明。
イラン
シーア派のペルシア人の国。19世紀にはロシアとイギリスのグレートゲームに巻き込まれ分割。WWⅡ以降は親英米のパフレヴィー2世の独裁政権となったので、イランの石油利権は英米に握られる。だが1979年、シーア派のホメイニがイラン革命を成功させるとイランは急激に反米化。アメリカと敵対関係に。イラン革命が国内のシーア派を刺激することを怖れたイラクのフセインが侵攻してきてイランイラク戦争が勃発。イラン革命をきっかけに起きた第二次石油危機は西側世界を直撃。アメリカとの敵対関係は、ブッシュ(子)時代には「悪の枢軸」と呼ばれるほど先鋭化したけど、オバマ政権時には打倒ISで利害が一致し核合意にまで至る。でもトランプ政権は核合意から離脱し経済制裁を強める。現在イランと連携しているのはEUと中国、他方アメリカとサウジアラビア、トルコ、イスラエルが対イランで一致。今後の中東問題は「イラン陣営VSアメリカ陣営」の構図で展開していくそうな。
インド
次期世界覇権国筆頭。中国に次ぐ14億の人口とITが強み。英語が喋れてアメリカとも仲がいいので今後世界の中心になる。なんかずーっとそう言われ続けてる気がするけど……。最近GDPでイギリスを追い抜いて、2050年には日本を抜いてGDP世界3位になるらしい。北東をヒマラヤ山脈に蓋され、北西は砂漠。おまけにインド洋にはスリランカぐらいしか国はないので、疑似的な島国……って決まり文句みたいに言われるけど、あんだけ仏教伝播させてガンダーラ美術とかムガル帝国なんてイスラムの大帝国も作っておいて隔絶された世界なわけないと思うんだけどなあ。それはさておき、現在かつて一緒にイギリス領インドだったパキスタン、バングラデシュと国境紛争、おまけに拡大する中国とも険悪。カシミール地方をめぐって争う中印パは核持ってるから怖い。ま、なんかあったらインド洋に浮かぶディエゴガルシア島の米軍基地から戦闘機が飛んでくるから大丈夫なんじゃないですかね、知らんけど。紅茶の一大産地。
インドネシア
東南アジアの島嶼国家。実は結構でかくて日本の約5倍。人口は世界4位となる約2億7000万。そのうちの約86%、2.3億人がイスラム教徒の世界最大のイスラム教国家。ASEANの盟主で首都ジャカルタに事務局が置かれてる。ジャカルタ都市圏は東京都市圏に次ぐ世界2位の規模。2030年には東京を抜いて世界一になるらしい。若年人口も多く経済成長も著しいので新興国の1つ。ただし、とても島が多く民族が多様。マジで多様。人類学者も「インドネシア研究してます」とは言わず、「ジャワ(バリ)島研究してます」って言う。スカルノが多様性の中の統一を掲げて現在も国是となっているけど、最近イスラム中心主義が勃興しているらしい。だいぶ難しそうですね。ワヤンの影絵が素敵、バリの闘鶏は違法賭博。
オスマン帝国
1299~1922年までつづき、全盛期には東ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアにまたがる領域を支配したイスラムの大帝国。ウィーンを包囲しヨーロッパに恐怖を与えるイケイケの時期もあったが、ロシアの南下政策や各地の民族の独立運動で「瀕死の病人」と呼ばれるまでに衰退。第一次世界大戦後に崩壊。サイクス・ピコ協定に基づき英仏露よって分割。程なくして中東から石油が取れることも判明。中東の困難がはじまる。
オフショア・バランシング
アメリカの支配戦略。日本語にすると「沖合からの勢力均衡」って感じ。世界を支配し維持管理する上で、世界各地の反米勢力に直接介入はしない。地域のことは地域のパートナー(日本、イギリス、イスラエルとか)に任せて、アメリカは沖合から必要最低限介入。相対的にアメリカに有利な均衡になればそれでよしという戦略。これと真逆のことをしたのがベトナム戦争。東南アジアのあんな遠いところに莫大な費用を投じ軍事介入。泥沼化した結果撤退。もうあんな下手はしない。イギリスの「バランス・オブ・パワー」と似ている。
カ行
カフカス地方(コーカサス地方)
黒海とカスピ海の間の地帯。横断するようにそびえるカフカス山脈を目印に北カフカス、南カフカスと分けられる。北カフカスがロシア、南カフカスはジョージア(グルジア)、アルメニア、アゼルバイジャン。クルド人も居住している。アゼルバイジャンのカスピ海に面したバクーでは油田が発見されている。カフカス地方は元ソ連領。ソ連解体後は南カフカスの3国も独立したけど、民族紛争が起きる。特にアゼルバイジャンはアルメニアを挟んだ先に飛び地があるので争いが多い。最近起きた戦争もこれ。元をたどればサイクス・ピコ協定で国境を適当に引いたのが原因。ちなみに北カフカスのチェチェンでも民族紛争が起きてる。民族以外にも資源、宗教、周辺の大国……とてつもなく複雑な地域。コーカサスオオカブトの生息地ではない。
核
その時代最新の力を持ってるのは地政学的に強い。今どの程度の重要性なのかはわからんけど、冷戦時代は核を持ってる国が強かった。日本は戦力を持てないので核も持てない。でも同盟国アメリカの核が抑止力になってくれている。これが「核の傘」。核保有国を列挙しようと思ったら資料によって保有数が違うし、順位も入れ替わる。でも1位のロシアと2位のアメリカは桁違い。そのあと中国、フランス、イギリスと続いて、パキスタン、インド、最下位はイスラエル。北朝鮮は数が不明確。
韓国
冷戦によって朝鮮半島に出来た分断国家の南側。アメリカが太平洋を挟んで対岸に作った対共産主義の防波堤、その最前線。朝鮮半島というリムランドは、ロシア、中国、日本(という名のアメリカ)に挟まれるという地獄のような立地。天津や上海といった中国の主要都市を狙える強みがあるので、歴史上ずっと中国から侵略され不毛地帯とされる。半島国家の強みである海も日本があるせいで活かせず。だから同じアメリカの舎弟だけど仲が悪い。でもここ20年くらいで奇跡的な経済成長を遂げて、経済大国の仲間入りをした。地図見るたびに思うけど、ソウル38度線に近すぎん?
北朝鮮
冷戦による分断国家の北側。東アジアにおける共産主義陣営の先っちょ。韓国と同じく地獄のような立地。WW2後、ソ連の影響下で建国され共産主義陣営に。スターリン批判で中ソの仲が険悪になった際に金日成は主体思想を唱え、どちらにも属さず独自路線を歩むと宣言。以降、核を開発して脅したり韓国と仲良くする素振りを見せたりギリギリの外交を続けている。久しぶりに金正恩が姿を見せたけど激ヤセしてたらしい。
キッシンジャー
クリミア半島
ロシアが黒海を抜けスエズ運河へと行く途中にある半島。クリミア戦争でイギリスがトルコに味方したのもロシアの南下を防ぐため。地下に天然資源が埋まっており、セヴァストポリという軍港もあるのでロシアは影響下に置きたい。だから2014年にウクライナ領だったのを併合。EUからの経済制裁にも世界中からの非難にも耐えたのに、ボスフォラス海峡をまたぐように中国が一帯一路の鉄道引くらしい。
グレートゲーム
イギリスとロシアが繰り広げた中東での勢力争いの事。クリミア戦争で地中海への進出を、日露戦争で日本海への進出をも阻まれたのでロシアは中央アジアを南下しインド洋への進出を狙う。だがこの南下政策が成功すれば最も重要な植民地であるインドが脅かされるためイギリスが猛反発。イギリスはロシアの先手を打つかたちでアフガニスタンを侵略、保護国とする(第二次アフガン戦争)。19世紀のグレートゲームはイギリスの勝利。続く20世紀、今度はソ連VSアメリカの構図でグレートゲームが再燃。1978年のアフガニスタンでのクーデターを発端として、親ソ政権をソ連が、反政府ゲリラをアメリカがそれぞれ支援。反政府ゲリラの激しい抵抗でソ連は撤退、その後ソ連崩壊。アメリカの勝利に終わったが、冷戦終結後撤退したことによりアフガニスタンは混乱。反政府ゲリラからアルカイダが生まれ、9.11につながる。
源平合戦
現在シーパワーの日本ですが、歴史上ずっとそうだったわけではありません。源氏は騎馬が強かったので、鎌倉幕府はランドパワー。一方平氏は水軍が強かったのでシーパワー。壇ノ浦の闘いは水軍での闘いだったので源氏が不利。ですが寝返った平氏を味方につけたのと義経の活躍で源氏が勝ちました。江戸幕府もランドパワー……って書いてあったけど、なんか西廻り航路・東廻り航路つって船の輸送が盛んだった覚えがあるから個人的には疑問。江戸幕府を倒した薩長は、薩摩は琉球と貿易してたし長州は洋式軍艦を2隻持ってたのでどちらもシーパワー。明治政府はドイツから陸軍制度を、イギリスから海軍制度を学んだ。両方学んだせいで日中戦争と太平洋戦争を同時にする自殺ムーブ極めたのかな。
サ行
サイクス・ピコ協定
イギリスとフランスとロシアによるWW1後の戦後処理の密約。オスマン帝国領の分割とパレスチナの国際管理を取り決めた協定。三枚舌外交のうち、実行したのはこの協定のみ。パレスチナを国際管理する点で、バルフォア宣言、フセイン・マクマホン協定と矛盾。アラブの実際を無視して分割線が引かれたために、クルド人が難民化。この分割を基に出来た国家が、シリア、イラク、レバノン、ヨルダン。人工的な国のため統一意識が低く、宗教対立や部族紛争が頻発し混乱。そんな混乱が100年続いた現代、サイクス・ピコ協定を否定しかつてのオスマン帝国のようなイスラムの大帝国を築こうと現れたのが、IS。グレートゲームも合わせて考えると、現在の欧米は帝国主義時代に好き勝手やったしっぺ返しを食らってるともいえる。
サウジアラビア
イエメンを除くアラビア半島の大部分を統一する国。ペルシャ湾を挟んでイラン(シーア派)と接する。国教であるワッハーブ派イスラム教はスンナ派でイスラム原理主義。治めているのはサウード家。メッカとメディナがあるだけだったが、アラビア半島東部に巨大油田が発見される。サウード家とアメリカ石油資本が手を組んで利益を山分け、サウジアラビアとアメリカの密接な関係がはじまる。しかし2015年にイランとアメリカが核合意を結んだことで関係に変化が生じる。イランとアメリカは手を組んでISを攻撃。ISはスンナ派だしイランがイラクまで進出してくると困るのでサウジアラビアはISを支援。アメリカとの関係が冷え込む。2016年にサウジアラビアとイランは国交断絶。
3B政策
ベルリン、ビザンティウム(現イスタンブール)、バグダードの3都市を結ぶ鉄道を建設し西アジアに勢力を伸ばそうというドイツの政策。イギリスのシーレーンを脅かし、バルカン半島へ進出したいロシアとも衝突するので、第一次世界大戦の遠因となる。
3C政策
カイロ、ケープタウン、カルカッタの3都市を結ぶ地域への勢力拡大を狙うイギリスの帝国主義政策。3Bが点と点をつなぐ線であるのに対し、こちらは点と点をつないで面にするのが特徴。
シェール革命
アメリカで起きた技術革新。シェール層と呼ばれるところから天然ガスと原油を採掘、生産することが可能になり、アメリカは一躍資源大国へ。2013年には生産量が輸入量を上回り、中東への依存度が下がる。お得意様がいなくなった中東がEUに売ろうとしたので、ロシアと対立。ウクライナ問題で反EUだったこともあり、ロシアは新たな売り先を探す。そして見つけたのが日本。ロシアはとっとと北方領土問題を解決し、北海道にガス輸出のパイプラインを作りたい。言うまでもないが、中東もロシアも中国にバンバン売ってる。地続きで売りやすいからね。
ジブラルタル海峡
地中海から大西洋に出るにあたって絶対通る海峡。地中海の門とも呼ばれるチョークポイントの1つ。スペイン領みたいに見えますが、300年前からイギリス領。
シンガポール
マレー半島の先っちょにある都市国家。華人が大半を占める。地場産業に乏しいので外貨を積極的に導入。マラッカ海峡という世界のチョークポイントに位置する、2時間あればアジアのどこへでも飛んでいけるなど、地政学上優れた点がたくさんあったのも相まって、現在ASEANの金融を担う経済センター、世界の華人ネットワークの中心となる。海外企業を招くために治安とインフラを整備する必要があったので、リー・クアンユーは強力な開発独裁を実行。ポイ捨てしたら1000ドルの罰金など厳しい罰則が設けられ、明るい北朝鮮とも呼ばれる。ちなイギリス連邦加盟国。
真珠の首飾り
中国の対インド海洋戦略。一帯一路政策で関係の強いミャンマー、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンの港を結んで海上に線を作りインド洋を囲い込む戦略。一帯一路の海のシルクロードと重なる。2015年に中立派のアウンサンスーチーが選挙で勝利したことでミャンマーは中国依存を改めた。セキュリティダイヤモンド構想と対立する。
セウタ、メリリャ
スペインがアフリカ大陸に持つ海外領土。つまりアフリカと地続きのEU。命がけで地中海を越えなくても6メートルのフェンスをよじ登ればそこはEU。なので隣接するモロッコから不法移民が殺到。モロッコだけでなく北アフリカ、はてはアジアからEUへの亡命中継地となっている。テレ東のニュースによると、2021年の5月17~18日の2日間で約8000人(うち未成年1500人)が不法入国して、2700人が送還されたそう。
セキュリティ・ダイヤモンド構想
前首相の安倍晋三が発表した戦略。日本・アメリカ(ハワイ)・インド・オーストラリアでクアッドを構築し、インド洋と太平洋における貿易と軍事的バランスを維持しようというもの。クアッドとは4カ国の首脳や外相が安全保障や経済を協議する枠組みのこと。中国の海洋進出に対抗するのが目的。
[1] シーパワーとランドパワーという分類は絶対的なものではない。その定義にも曖昧さが残るため、地政学の問題点として指摘される。学問なのに用語が曖昧って許されない。この原因としては、マッキンダーが政策提言を目的にしており、学問体系の構築は念頭になかったことが挙げられる(石津 2020:73-74,79)。
[2] 日本列島とかイギリス、オーストラリアとかアフリカは「外側の三日月地帯」となる。マッキンダーからすると日本は衝突地帯じゃないよ、やったね!でもスパイクマン的には衝突地帯。残念。