小文化学会の生活

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ドイツ野球ブンデスリーガと助っ人外国人事情

皆様お久しぶりです。ドイツの野球をこよなく愛し、自身もドイツで野球をプレイしているドイツ野球の伝道師ことドイツ野球少年です。前回の記事「ドイツにおける野球の普及度」は大好評だったようで、本当にありがたく思っております。

 

今回は、ドイツ野球のトップリーグであるブンデスリーガ、特に助っ人外国人事情について語ります。前回の記事がまだドイツ野球の世界の入り口に立っている人向けのものだとすれば、今回の記事はドイツ野球を実際に見てみようとする方、または実際にドイツで野球をプレイする方の助けになればと願っております。

 

 

さて、まずはブンデスリーガのシステムについて説明していきます。

そもそもブンデスリーガとは何なのか?

ドイツ野球は階層性のリーグシステムが採用されており、地域差はありますが5部や6部のリーグまで存在します。「ブンデスリーガ」と呼ばれるのは1部と2部であります。今回の記事では、慣習に従って「ブンデスリーガ」と表記されたものは特に断りがない限り「ブンデスリーガ1部」を指します。

 

まず一番の特性と言えるのは、昇降格制が採用されていることです。サッカーのブンデスリーガ―や日本のJリーグ、一部の大学野球リーグなどと同じシステムをとっております。

毎年レギュラーシーズンが終了すると、南北それぞれの1部リーグの下位2チームと2部リーグの上位チームで入れ替え戦が行われます(年度によってこのシステムは変更されます)。近年は2部リーグの上位が1部リーグのクラブの2軍チームで占められることも多く、実際には入れ替えが起こらないことも多いですが、それでも毎シーズン1チーム程度は入れ替わっている印象です。

この制度は、ドラフト制度などがなく、チームの資金力もまちまちなドイツ野球ブンデスリーガにおいて、ブンデスリーガに所属するチームの強さが一定以上保証されるというメリットがあります。

しかしそれと同時に、昇降格ライン上にいるチームにとっては、じっくりとチーム作りをする余裕や、助っ人外国人に1部でのプレイを保障できないことが障壁となり補強が困難になるなど、1部リーグに定着している強豪チームとの格差を広げる要因となっております。

 

 

また、日本のプロ野球リーグやメジャーリーグと大きく異なる点は試合数の少なさです。2018年シーズンはレギュラーシーズンが全28試合でした。ブンデスリーガは1リーグ8チームで構成されているので、各チームと4試合ずつ(ホーム2戦アウェイ2戦)対戦することになります。基本的に試合は毎週末に2試合行います。というのもブンデスリーガに属するプレイヤーのほとんどは野球以外の本業を持っているからであり、試合を平日に行う余裕がない選手が多いのです。数年前まではほとんどがダブルヘッダーでしたが、2018年シーズンはほとんど土曜日と日曜日に1試合ずつという構成でした。

 

レギュラーシーズン終了後はポストシーズンが始まります。昇降格制なので、上位チームだけでなく下位チームにもポストシーズンはあります。ただし呼び方がそれぞれ異なり、上位チーム間で行われるドイツ1を決める戦いはプレイオフ、下位チームによるリーグ残留を争う戦いはプレイダウンとなります。

レイオフは毎年毎年方式が変更されるので、正直把握するのが大変なのですが、最終戦まで戦うとおおむね最大18試合になります。そうなると一番多くの試合を戦うチームは年間46試合となります。

 

いずれにせよ、週に2度しか行われないことがドイツ野球ブンデスリーガに与えた影響は計り知れないものです。

例えば、具体的かつ端的にいえば、その影響とは「助っ人外国人、特に先発投手が大変重要」ということです。そもそも当然野球先進国のリーグに比べれば競技レベルも高くはないので、助っ人外国人がドイツ人プレイヤーに比べて活躍できる期待は高いのです。

そのうえ、週に2試合ならばとんでもなく強力な先発外人投手を連れてくれさえすれば、少なくとも半分の試合は勝てるという計算が成り立ちます。実際に2017年シーズンにおいては、ミュンヘン=ハー=ディサイプルズという南リーグのチームがアメリカ人投手ライアン・ボリンジャーを獲得したことで、実際に彼が登板したほとんどの試合に勝利することが可能となりました。彼が登板した試合のチーム戦績は20勝2敗、それ以外の試合は11勝12敗なのですからその影響力は絶大です(ちなみにプレイオフラウンドにおいて彼は登板した8試合全てで勝利投手になっています)。

 

実際、どのくらいのレベルが求められるかというと、日系スポーツエージェンシーのFootrans様が今年の5月31日にツイートしていた求人によりますと、必須条件として⑴先発タイプ(週1試合100球以上)⑵ストレートの平均球速が右ならば137㎞/h以上、左132㎞/h以上 とそれなりに要求されるレベルは高いことがうかがえます。

 

ドイツ野球における助っ人選手の重要さがお分かりいただけたでしょうか。

ここまで影響力が大きいとなると、当然歯止めも必要なわけで、ドイツ野球には様々な外国人プレイヤーに関する制限が存在します。

なんとこれら制限は、ブンデスリーガはもちろんのこと、形を変えつつすべてのリーグ、5部や6部リーグにまで適用されています。

一般にリーグが下位になるほどその制限は厳しいものとなり、例えば4部リーグ以下では、外国籍の投手は、外国籍選手全員の合計で1試合3イニングまでしか投げられません。昔は私も4部などで助っ人外国人(笑)をやっていたのですが、その際は同チームにアメリカ人の優秀な投手がいたため、3イニングルールのせいで私は全然登板することがかないませんでした。

ちなみに今となっては、ドイツ野球の世界ではドイツ人の扱いですが(Baseball Deutscherと言います)。

 

では、ブンデスリーガにおける外国人制限とはいかなるものでしょうか。

基本的に以下の4つを押さえておけばよいでしょう。

  1. 外国籍選手は同時に3人までしか試合に出場できない(野手として出場できるのは同時に2人)
  2. 外国籍の投手は偶数試合目にしか登板できない。(レギュラーシーズンであってもプレイオフシーズンであっても奇数目の試合には登板できません)
  3. 捕手と遊撃手が同時に外国籍選手であってはならない。
  4. 7月1日までに選手登録を行わなかった外国籍選手はプレイオフに出場できない(ちなみに他国のリーグとの二重登録は禁止されています)。

 

1つ目は日本プロ野球の外国人枠制度に似通っているのですが、2つ目と3つ目はあまりピンとこないかもしれません。

2つ目のルールは非常に妥当性が高いといえます。週2試合しかないブンデスリーガでは、

この制限が存在しなければ助っ人で2人先発を連れてくれば無双する蓋然性が高いです。このルールによって偶数試合目は奇数試合目に比較してロースコアの試合が多いです。

3つ目は個人的には非常にユニークなルールだと思います。他国にはない特性ではないでしょうか。この示唆に富んだルールからは様々なことを読み取ることができます。まず、ドイツでは遊撃手と捕手が非常に重視されており、ドイツのナショナルチームを意識して外国人を制限していること(ちなみにナショナルチームにおいては、歴代捕手は名選手がいるのですが、遊撃手は目立った成績の選手は不在です)。また、日本プロ野球では希少ですが、捕手と遊撃手の外国人選手の需要が高いことです。捕手においては、NPBと違いコミュニケーション面に大きな問題がないので(ドイツ人の若者はたいてい英語を高いレベルで操ります)、特に障壁もなく重宝されるのかなと思います。そもそも大抵半分程度の試合は外国籍投手とバッテリーを組むわけですし。しかし、外国人助っ人選手を日本と違い余裕を持った人数で契約しているわけではないので、捕手の助っ人が怪我などで離脱した場合、ショートを守らせる外国人もいないわけですから、結構悲惨なことになります。

 

 

さて、しかしドイツ野球ブンデスリーガの外国人に関するルールで最も興味深いのはその制限制度自体ではありません。

一番面白いことは、「そもそもドイツ野球における外国籍選手の定義とは?」ということであり、これに関して多くの論争が毎年巻き起こっております。

実は、ドイツ野球には、選手登録上5種類の区分(AからEまで)が存在します。AからCまでがドイツ人として扱われ、DはほとんどA~Cと同じ権利を持ち、Eが様々な外国人制限にかかります。具体的に列挙すると、

A:ドイツ国籍を有する者

B:14歳の時点から現在までドイツに在住していて、永住権を取得しているもの(永住権は必須ではないかもしれません。ちなみに私は登録上このBです。)

C:5年以上ドイツに住み続けており、永住権を取得しているもの

D:EU加盟国とスイス、イギリス(2020年から)に国籍を有するもの

E:それ以外の外国人

 

今まで述べてきた外国人制限はほとんど区分Eのプレイヤーにしか課されていません(4つ目のプレイオフ出場条件のみD区分にも課される)。

B,C区分に入るのはそれなりに厳しいのですが、問題はD区分なのです。EU圏とスイス国籍はほとんど扱いがドイツ人と同じなのです。ここで問題になってくるのが、特にオランダ、イタリア、そしてスペインです。いわずと知れたヨーロッパの中の強国オランダイタリアの選手にはなんとほぼ制限がかかっていないのです!ここ数年でドイツ上位を争うチームは、彼らオランダイタリア系の選手を非常に上手く編成している印象があります。

 

さらにポイントとなるのはスペイン国籍です。スペイン自体は野球の実力においてはドイツと同じ程度であるので、スペインリーグからの移籍はさして大きな影響はないのですが、ポイントはヒスパニック系の助っ人です。スペインではラテン系やスペイン語国家の国民には二重国籍を認めているので、ドミニカやプエルトリコベネズエラなどのカリブ海地域や南米の野球強国出身の選手が比較的簡単にドイツ人として試合に出場できてしまうのです。

 

こうなってくると、ドイツのナショナルチーム育成のための外国人制限という大義名分もなんだか片手落ちという感じではあります。事実1軍のメンバーの半分以上がドイツ国籍を有していない古豪のマンハイムなどのチームもあります。あるいは南部の2部リーグで上位に位置するミュンヘン・カリブスは、その名の通り中南米の出身者がほとんどであったりします。

 

ただ、このD区分を撤廃するには様々な問題があります。そもそもリーグのレベルが上がるのだから、人材育成の目的としてもむしろ適っているという見方もできますので、一概に撤廃すべきといえることではないのですが。

ただ、たとえ撤廃に踏み切ろうとしても、上記のマンハイムなどをはじめとして、D区分の選手が多く所属しているチームからは猛反発を食らいます。実際2016年11月に至るまで2年程度D区分に関しての大論争が巻き起こりましたが、これらチームの猛反対もあり現状維持に落ち着きました。

そしてさらに大きなポイントとなるのが、EU法の存在です。EU法によって、加盟国の国民はEU内を自由に移動し働く権利が認められています。労働規約として、EU域内であれば就労は制限されないという規定が存在します。

これを根拠にしたスポーツの有名な判決に「ボスマン判決」というものが存在します。1995年に、プロサッカー選手であるジャン=マルク・ボスマンがベルギーのチームからフランスのチームに移籍しようとした際、ボスマンの所有権を主張したベルギーのチームを相手取って行った裁判のことです。最終的にこれはボスマンの勝訴となり、「EU域内のクラブはEU加盟国籍を持つ選手を外国籍扱いにできない」と判決が下されました。

この判例も背景となり、野球ブンデスリーガとしてもEU域内国籍の保持者には制限を課さない方針を取り続けております。

ただしドイツ野球ブンデスリーガはそもそもプロリーグなのかどうかという論点もありますが。

 

 

当分の間ドイツ野球はEU国籍の選手に強い制限を課すことはないと思われます。現時点のドイツ野球の経済規模では、中南米の野球選手が渡独するインセンティブは小さいですが、これから先ブンデスリーガがの規模が拡大してくるとこの問題は重要さを増してくるでしょう。この辺りも非常に注目です。

 

 

今回の記事ではドイツ野球ブンデスリーガを楽しく観戦していくため、重要なファクターである外国人枠の話を深く掘り下げながら紹介させていただきました。この記事に書いてあることを抑えればドイツ野球をシーズン通して楽しむことができると確信しております。それでは、次回の記事もお楽しみに!