小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

国内外の特撮作品から2016年という年を振り返って

 初めまして、国内外の特撮作品に関して執筆させていただくことになった者です。ブログは完全に初心者なのでお見苦しい点もあるでしょうがご容赦いただけると幸いです。
 
 いつの間にやら年の瀬ですね。振り返ると2016年は様々なことが起こりました。複雑に絡み合った様々な人々や国・組織の利害や価値観の違い、先行きが見えない現代だからこそ多くの悲しい出来事や不安となるニュースが飛び交い個々人の”正義”が試された1年だったように感じます。
 
 これはフィクションという虚構の世界の住民たちも同じでした。そして、同時に虚構と現実が互いに影響しあった1年だった様に感じます。というわけで、今年制作された一部の作品を用いて考察していきます。

 

 
まずは海外の作品。(今回は主にアメリカン・コミックの実写作品を取り上げさせて頂きます。)
 
 春に”バットマン”と”スーパーマン”というアメリカが産んだ恐らく世界で最も有名なヒーローの戦いを描いた『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(原題 『Batman v Superman: Dawn of Justice 』以降『BvS』と表記)が公開されました。この映画は2013年公開の”スーパーマン”を主役とした映画『マン・オブ・スティール』(原題 『Man of Steel』)終盤で起こった”スーパーマン”と”ゾッド将軍”(スーパーマンの故郷クリプトン星の将軍で代表的なヴィランの一人)の戦闘によるメトロポリス(スーパーマンが活躍するアメリカの架空都市)での大被害から人々が思い続けていた『ヒーローという人間を遥かに凌駕する存在と人類はどう向き合うのか』というテーマを『BvS』序盤で起こったテロ事件をきっかけに問おうとするというものでした。(市民とは別にバットマンも独自のルートからスーパーマンとの戦いを意識しだします。)

 

 

 
 同様のテーマは続けて、2008年公開の『アイアンマン』以降展開し続けているMCU(MARVEL・Cinematic・Universe)シリーズの新作『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』(原題:『Civil War: Captain America』以降『CW』と表記)でも描かれました。 
 
 ただし、両作品で描き方が住み分けされていて『BvS』では世間に認知されているヒーローがスーパーマンのみで議論を行うのはヒーローではなく市民が中心。一方、『CW』はシリーズ13作品目ですでに多くのヒーローが登場していたこともあり議論の対象がヒーロー個人ではなくアベンジャーズというチームを対象としているためこちらは一般市民の視点よりもヒーローたち自身の議論が中心となる作りになっています。
 
 この”ヒーローの活動”が本当に正しいと言えるのか?という議論は訴訟大国アメリカならではの視点だったように感じるのですが残念ながら、どちらの作品でもこのテーマが描かれているのは前半までで後半以降は有耶無耶になってしまいました。(『BvS』も『CW』もどちらも後半からヒーロー同士の対決、そして事件の裏に潜む黒幕との戦いにシフトしてしまったためでしょう。)これは1クール以上の連続ドラマとして描くなら一つの結論を出すことも出来たのでしょうが2〜3時間で纏めなければならない劇場作品ではこの議論を結論を出すまで進めるのには限界があったのだと考えられます。日本ではあまり見られない展開なので今後も様々な形で描いていって欲しいテーマである。(日本の作品だと1999年の『ガメラ3〜邪神覚醒〜』や後述する『ウルトラマンオーブ』などで同様のテーマが取り上げられています。)

 

 

 
 作品のテーマとしても話の内容としても大作と言える2作の公開後、日本で新たに公開されたのは年齢制限のついた『X-MEN』シリーズのスピンオフ作品『デッドプール』(原題:『DeadPool』以降『デップー』と表記)であった。この作品は先述の2作とは異なり国や世界を左右する様な大規模な”世界をかけた戦い”ではなく主人公である饒舌な傭兵・デッドプールことウェイド・ウィルソンが彼を不死身のミュータントに変化させた宿敵フランシスへの復讐と愛する恋人ヴァネッサを守るために戦うという小規模な”個人の戦い”を描いていた。上記の『BvS』『CW』に加え同じX-MENシリーズでも『X-MEN:アポカリプス』という世界を揺るがす規模の戦いが描かれる大作が公開される中、あくまで”個人の戦い”を描いたことでこの『デップー』は一般人である我々視聴者としても共感しやすかったため低予算で年齢制限を受けながらも世界的に大ヒットすることができたのだと想われます。
 その後、今秋『BvS』の続編として『スーサイド・スクワッド』(原題:『Suicide Squad』以降『スースク』と表記)が公開された。こちらはヴィランキャラクターで結成された政府のヒーローチームという異色の作品。敵キャラ集合という過去にあるようで例があまりなかった展開ですがが登場する敵キャラで過去の実写映画作品で登場したことがあるのはジョーカーのみだったためちょいワルなヒーローチームとして見えなくもなかったので悪役らしさが思いの外描くことが出来ず少し残念。(ジョーカーも”スースク”の一員ではなくどちらかと言うとゲストキャラ的なポジション。)結果的には今年実際に公開された悪役を主役に据えたアメコミ実写作品は今作のみとなったが本来は制作中止となってしまった”アメイジングスパイダーマン”シリーズのスピンオフ作品として『シニスターズ・シックス』や『ヴェノム』(こちらの企画のみまだ生きているらしいですが…)も制作される予定だったので今後も悪役を主役にした作品という新しい流れがシリーズを超えて続いていくかもしれない。(実際、『スースク』は続編や『スースク』のスピンオフ作品制作を予定されているらしい。)正義と悪は対立軸ではあるが一方で紙一重の存在であると言えるのでこちらも今後注目していきたい流れでしょう。
 
次に、日本の特撮作品。
 
 まず、欠かすことが出来ないのはやはり”ゴジラ”でしょう。今夏、大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(以降、『シンゴジ』と表記)は2014年のハリウッド版『GODZILLA』を受け12年ぶりに東宝が制作した和製ゴジラ作品。限りなく”現実”に近い世界観にゴジラという”虚構”の厄災が現れた時日本や世界はどう向き合うのかというドキュメンタリータッチで描かれており過去のゴジラ作品とは違う雰囲気を持つ作品となった。これまでの和製ゴジラは全て1954年公開の『ゴジラ』(以降、『初ゴジ』と表記)の世界観の延長上に存在しておりある意味で『初ゴジ』という聖域を越えることを禁忌としていた。だが今年公開された『シンゴジ』は初めて明確に『初ゴジ』の世界観を断ち切った新たなゴジラ像を生み出すことに成功した。これは<ウルトラマンは宇宙からやってきた正義の使者である>という法則を断ち切った『ウルトラマンティガ』や<仮面ライダーは改造人間であり悪の秘密結社や帝国と戦う>という法則を同じく断ち切った『仮面ライダークウガ』に近い手法。(これら3作に共通しているのはシリーズが数年〜十数年間休止状態にあったという点でこのことから企画を深く立ち上げ1から新しいものを作り出すことが出来たと推測できる。)『シンゴジ』におけるゴジラは人間の善悪を凌駕した一種の”荒ぶる神”とも言うべき超自然災害として描き畏怖すら感じさせる存在として描いていた。これは『初ゴジ』が第五福竜丸事件や原爆を含めた太平洋戦争の悲惨な記憶から誕生した様に5年前のの東日本大震災及びその結果発生し今も収束していない原発事故という災害・人災があったからこそ描くことが出来たのであろう。また、本作は11月3日(これは『初ゴジ』の公開日である)からの約1ヶ月間を描いているのだがこの期間Twitter上ではシンゴジ実況と称し映画内での出来事を再現しようという動きが見られた。SNSが発展したこの2010年代ならではの出来事でありゴジラという”虚構”の存在が実際に”現実”へと侵蝕するという事態は面白い出来事だったと思う。従来のゴジラシリーズとは良くも悪くも趣が違うので一部のゴジラファン(特に怪獣と怪獣の戦いを描いた80年代〜90年代までの俗に言うvsシリーズのファンと相性が悪かった様に思える)からは「認めたくない」という感想もちらほら聞こえてきたが私はゴジラを{それぞれの時代を映し出す鏡のような存在}だと考えているので生まれてくるべくして生まれてきた作品だったと考えている。

 

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組

 

 

 
 次に挙げるのは今年で40作品目に突入し41年間休止期間なしでシリーズが続いてきたスーパー戦隊シリーズ。世界中でもパワーレンジャーシリーズとして再編成し放送されており来年にはハリウッド映画版も公開されるなどある意味一つの”完成されたヒーロー作品”とも言うべき長寿シリーズの一つである。今年は『動物戦隊ジュウオウジャー』という動物をメインモチーフに据えた作品で初期メンバーは地球人1人と異世界の獣人4人の種族を超えた混合チームという珍しい構成となっている。敵はデスガリアンというゲーム感覚で星々を侵略し生物をいたぶってきた邪悪な宇宙人の集団となっており作品としては一貫して『命』の大切さを伝えようとしている。来年2月で終了となるので徐々に最終決戦に向けて大きくストーリーが動き出している段階であるので今後の展開に期待したいです。
 
 現在、国内の特撮作品で最大規模のマーケットをほこっている平成仮面ライダーシリーズを取り上げる。2016年は昨年10月から今年の9月まで通算17作品目となる『仮面ライダーゴースト』が放送され現在は10月から放送を開始した『仮面ライダーエグゼイド』が放送されている。上記の『ジュウオウジャー』同様この2作品も『命』をテーマにしているのだが『仮面ライダーゴースト』は結論から言うとあらゆる面で難の多い作品だった。ほぼ特撮作品において素人同然の脚本家をメインライターに置いた上でさらに今作が初めてのメインプロデュース業となるプロデューサーが担当したためか1話毎どころか1話内で矛盾した描写が描かれ作品の構成・不自然な言葉使い・倒されても何度も甦る主人公(所謂死ぬ死ぬ詐欺と言われるほどでTV本編で4回、劇場版で2回の計6回ほど消滅したり死亡したりした)・カルト宗教と捉えられても仕方がないレベルの人間讃歌を装った主人公マンセーが起こり『命の大切さ』を謳う『切ない仮面ライダー』であったはずが『過度な自主規制』や『スポンサーによる玩具の販促』、『メインプロデューサーとメインライターの明らかな力量不足・努力不足』が重なり『最低視聴率』を更新してしまい別の意味で『切ない』仮面ライダーとなってしまった。ある意味で『仮面ライダー』だけでなくあらゆる作品において反面教師的な作品が誕生したという点では評価すべき作品であるといえ、そんな作品の中でも懸命に努力を続けたキャストの皆さんには賞賛の言葉を贈りたい。(なお、2016年12月現在公開中の劇場作品『平成ジェネレーションズ』では正統派なヒーローとして活躍する『ゴースト』が登場しているのでTV シリーズではなくこちらをご覧頂きたい。)現在放送中の『エグゼイド』は『ゴースト』の反省点を踏まえてか恐らくテレビ本編では平成仮面ライダーシリーズ第3作『仮面ライダー龍騎』以来に『ライダー同士の戦闘によって死者が出る展開』が描かれ『命』の大切さを説こうと努力している。こちらも今後の展開に注目していきたい。また、TVシリーズとは別枠でアマゾンプライムビデオ独占配信作品「仮面ライダーアマゾンズ」が制作された。ネット配信という利点を活かし今のTVでは描けない描写を交えて制作し日曜朝では放送できないようなラストまで描くことが出来た。序盤の段階では手探り状態だったのか『クウガ』〜『ファイズ』までの最初期の平成仮面ライダーの焼き回しのような作風(スタッフも大部分で共通している)で少し不安を覚えたが中盤越えると少しずつ感覚がつかめてきたのか今までにない方向へと舵を切る様になっていったので本筋である日曜朝とは別にネットドラマという新天地でシリーズを展開するというのはいい判断だったように感じる。来春、第2シーズンが配信されるとのことなので待ち遠しい。

 

 

劇場版 仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間 [DVD]

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仮面ライダーエグゼイド Blu-ray COLLECTION 1

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仮面ライダーアマゾンズ Blu-ray COLLECTION

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 そして最後にシリーズ50周年を迎えたウルトラシリーズ。春先には前年度のシリーズ『ウルトラマンX』の劇場版が公開。50周年を迎えた”初代ウルトラマン”や20週年を迎えた”ウルトラマンティガ”に加えTVシリーズで客演した5人のウルトラマンも登場し文字通り集大成とも言うべき作品に仕上がっていた。2011年から放送が続いていた『ウルトラマン列伝』(過去作の再放送や独自編集した特別番組を放送していた。新ウルトラマン列伝からは『ウルトラマンギンガ』シリーズや『ウルトラマンX』と言ったニュージェネレーションのウルトラマンも放送された。)の放送終了が決定。そして大手広告会社電通を製作委員会に加え新番組として7月から今月24日まで新番組として『ウルトラマンオーブ』が放送された。『X』が王道をいく中『オーブ』は斜め上を行くことを目指した作品とアナウンスされたとおり従来とは違った作風となった。(2人の先輩ウルトラマンの力を借りて変身する・防衛チームに所属しない主人公・シリーズ通してのライバルキャラクターの存在など)2人のウルトラマンの力を借りるという従来の客演とは一味違った方法で過去作を使用し登場する怪獣も過去作で登場した怪獣の強化体やアレンジを加えることで限られた予算の中で新しいものを見せようとする工夫を前作『X』以上に感じられた他、怪獣の描写以上にヒーローである主人公ウルトラマンオーブ/クレナイ・ガイを従来とは違う形でかっこよく描くことに成功していた。クレナイ・ガイは風来坊として長年地球に滞在し続けていたので一見するととても頼りになる年長者らしいキャラクターをしている。だが実際の彼には光の戦士でありながら過去の悲劇から来るトラウマという闇を抱えていた。ウルトラマンオーブのストーリーはそんな彼が過去のトラウマを克服し歴代のウルトラ戦士の力を借りるだけでなく自分自身の力で再び戦えるようになっていき真のヒーローとして覚醒していく物語だった。そこに大きな影響を与え続けたのが風来坊につきものであるライバルであるジャグラス・ジャグラーの存在。ジャグラーはガイの元仲間であり光の勢力に身をおいていたが闇に堕ち袂を分かっていた。だが、彼自身も完全には心の中で光を捨てきれないでいた。そんな二人の存在は『ウルトラマンティガ』から始まり若干の休止期間を挟みながらも続いてきた平成ウルトラマンシリーズで定番として描かれてきた”光”と”闇”の対立という関係を大きく変えるものとなった。はじめに書いたとおり現代社会は簡単に善と悪を割り切ることは難しく誰しもが正義というものを見失いがちである。そんな現代に人の中には光もあれば闇もありその事実を受け入れることで人はもっと強くなれるという新しい”正義”の形を正面からまっすぐ向き合い視聴者に訴え続けたのが『ウルトラマンオーブ』という作品にこの半年間引かれ続けた理由だと考えられる。『オーブ』の主題歌”オーブの祈り”の歌詞に”闇夜を照らせ、光の戦士よ”という歌詞がまさに現代が抱える様々な闇に光を照らし続けた作品であった。また、今年の円谷プロは例年にもましてサブプロダクツも非常に優秀だったように感じる。上述した劇場版『ウルトラマンX』では『オーブ』に先駆け2人のウルトラ戦士の力を借りて変身する強化形態が登場したり、4月からyoutubeで残虐ファイトで一部界隈で有名だった『レッドマン』を平日毎日配信を行い続け配信終了付近で『レッドマン』を彷彿とさせる戦闘スタイルの{ウルトラマンオーブ サンダーブレスター}を登場させるなど視聴者の注目を集めなおかつ今後の展開をスムーズに受け入れてもらえるような環境づくりを上手く整備していた。来年2017年が『ウルトラセブン』50周年記念であるため今年の10月からは『セブン』に登場するカプセル怪獣ポケットモンスターの元ネタにもなったウルトラセブンが何らかの事情で戦えない時に代わりに戦う味方怪獣)を主役にした『〜怪獣娘ウルトラ怪獣擬人化計画』をd-アニメストアやYouTubeで配信していた他、『オーブ』の劇場作品に登場するとアナウンスされている三位一体で変身する{ウルトラマンオーブトリニティ}に合わせる形で『レッドマン』の後続配信番組として『トリプルファイター』を配信するなどメインプロダクツとサブプロダクツを上手く組み合わせているとわかる作品展開をしている。『仮面ライダーアマゾンズ』同様、この12月から『ウルトラマンオーブ』の前日談となるシリーズ『ULTRAMAN ORB ORIGIN SAGA』の配信がスタートするなど来年以降も非常に楽しませてくれるのかワクワクが止まらない。
 

 

 

 

 

 

 

 
 このように2016年は様々な形で”正義とは何か?”という問題に国内外の特撮作品が特に向き合っていた1年だったといえるのではなかろうか?そして昔以上に、現実と虚構の間が狭まりつつあるように肌で感じることが多かった。(おそらく、一つの要因としてSNSの発展によって製作者と世の中≒ファンとの距離感が縮まっていることが考えられる。)来年以降の作品ではどのような”正義”が示されていくのか各シリーズの1ファンとして動向を追っていきたいと思います。