小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

差別とヘイトが溢れかえる世界の行き着く未来に希望はあるのか?”〜迫害されながらも共存を求め戦い続けるマイノリティヒーローたちから学ぶこと〜”

 久々の投稿となります。さて皆さんはX-MENというアメコミのヒーローチームをご存知でしょうか?アメコミの2大巨頭の一角とも言うべきMARVEL社の看板ヒーローチームの一つで同名コミックの主人公たちです。

 

 簡単に紹介させていただきますと1963年に原作スタン・リー、作画ジャック・カービーというMARVEL社の黄金コンビによりX-MENは創造されました。当初は低人気だったようですが1975年にチームを再編成してから爆発的に支持を得たこともあり2012年の時点で1冊の売上が世界一のコミック(*1)となっています。また、アニメシリーズが制作されたり2000年より20th Century Foxより実写映画化がスタートしこちらも現在に至るまでの17年間にスピンオフ作品も合わせて10作品制作されており2017年6月現在、最新作であり17年間大人気キャラクターウルヴァリンを演じてきたヒュー・ジャックマン氏とX-MENの創設者であるプロフェッサーX役のパトリック・スチュワート氏の卒業作である『LOGAN』が日本でも公開されており、翌年2019年には新たに3作品が公開されることがアナウンスされているアメコミ実写映画ブームの火付け役であり牽引役とも言うべき一大ビッグシリーズとなっています。

 

 

 さて、そんな彼らですがMARVEL社の同じく大人気ヒーローチームであるアベンジャーズファンタスティック・フォー、ライバル会社であるDCコミックス社のジャスティス・リーグなどのヒーローチームと明確な違いが存在しています。それは、今挙げたヒーローチームは種族・能力が異なる様々なヒーローが在籍するチームであるのに対してX-MENはミュータントという種族によるヒーローチームであるという点です。

 

 アベンジャーズに所属するアイアンマンは大量の武装ギミックを詰んだメカスーツを着込んだ人間ですし、以前このブログでも取り上げたキャプテン・アメリカは超人血清を摂取することで後天的に超人としての能力を得ていますし、マイティ・ソー北欧神話の神でありそもそも人類とは異なる種族です。一方、X-MENはミュータント…学名をホモ・スーペリアと呼ぶようにホモ・サピエンスから突然変異した先天的に超人的能力を得た人々によって結成されたチームなのです。

 

 また、アベンジャーズなどのヒーローチームはヴィラン(アメコミにおける悪党)から世界を守るというヒーローとして至極真っ当な目的を持って結成され日夜活動しているのに対してX-MENはミュータントの保護及び能力の正しい使い方を教えるための教育を施すという教育機関としての側面を持っており、人間たちを守りミュータントに対する世界の偏見を払拭するという目的を持って戦いを続けているなど目的も他のヒーローチームとは異質なものなのです。

 

 ここまでの説明にもあるようにX-MENは他のヒーロー作品に比べより現実の社会問題を扱った作品であることがご理解戴けることだと思います。先にも述べたX-MENの創設者であるプロフェッサーXとX-MENの宿敵でありながら度々共闘するプロフェッサーXの親友である磁界王マグニートーアフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者であるキング牧師マルコムXへの暗喩だとされています。

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キング牧師(左)とマルコムX(右))

 

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(プロフェッサーX(左)と磁界王マグニートー(右))

 また、マグニートーホロコーストの生き残りという設定を持っており反ナチス・反ファシズムの象徴的キャラクターの一人でもあります。このアフリカ系アメリカ人公民権運動や反ナチス・反ファシズム以外にも社会主義者LGBTなどアメリカ社会において度々取り上げられてきたマイノリティ達の暗喩とされているのです。(*2)

 

 さて、話は変わりますが世界中では現在進行系で様々な人権問題が発生しています。中でも近年一際際立つのは排外主義・ヘイトスピーチ(及びヘイトクライム)の横行・台頭でしょう。昨年末行われたアメリカ大統領選挙ヒラリー・クリントン氏を破り、バラク・オバマ前大統領からアメリカ大統領を引き継いだドナルド・トランプ氏は政策の一環として「アメリカとメキシコの国境に壁を作る」(*3)「イスラム教国家7ヶ国の入国制限を行う(司法により即座に効力停止)」(*4,*5)など積極的に排外主義敵活動を行ってきています。先月行われたフランス大統領選挙にてマクロン新フランス大統領に破れはしたものの決選投票まで残ったルペン候補及び彼女が代表・所属する国民戦線は移民政策の制限・廃止を公約に掲げるなど排外主義的な政策を行おうとしており日本のメディアでも極右政党としてとりあげられていました。(*6)また、イギリスのEU脱退もグローバル化に逆行する動きとして無関係とする事はできないと思います。(*7)

 

 そして、このような流れは決して他人事ではなく日本という国でも顕著に見られていることを忘れてはなりません。(むしろ、日本はその最先端を行っていると言っても過言ではないと筆者は考えています。)先月、稲田朋美防衛大臣が国内有数のヘイト団体である在日特権を許さない市民の会(以下、在特会)と蜜月関係にあると一部の週刊誌が報じたことに対して稲田氏が名誉毀損を訴えたが敗訴が確定(*8)し稲田大臣と在特会が蜜月な関係にあることが白日の下に晒されることとなりました。また現在、東京都知事を勤めており都民ファーストの会を率いている小池百合子都知事もこの在特会と親密な関係にあるのではと報じられたことがあります。(小池氏は講演を行った事はあるとしつつ関係性については否定。(*9))さらに、今年2月から世間を騒がせ続けている森友学園への土地取引・認可適当に関連する一連の問題で安倍晋三内閣総理大臣安倍昭恵内閣総理大臣夫人による100万円の寄付を違法性がないにも関わらず真っ向から否定(*10)しさらには”総理に対する侮辱”(*11)だとしそれまで野党4党が要求していた国会参考人招致を拒否していたのにもかかわらず当時顧問弁護士がいなかった籠池康典理事長(当時)に対し偽証罪の適用が可能な証人喚問を行うなど些か正気の沙汰とは思えぬ行動に乗り出し関係性を否定しようとしていました。現在、森友学園は前理事長が引退し前理事長の長女で同学園で勤務していた籠池町浪氏が引き継ぎ教育方針を一新し再スタートを踏み出しています(*12)がそれ以前は行き過ぎた『愛国教育』『国粋主義』が見受けられ児童の虐待疑惑も問題視されていました。(*13)このようなことから安倍首相(を始めとした森友学園と繋がりのあった政治家や自称保守言論人の方々)は世間体(政治家の場合は、政党への支持率や次の選挙への影響)を気にし無関係を装うとしているものだと容易に想像がつきます。 

 また、通常国会において起こった騒動として今村雅弘前復興担当大臣の度重なる暴言とそれによる辞任騒動があげられます。騒動の発端は今村復興大臣(当時)が会見の席において東日本大震災における自主避難者に対し自己責任論を振りかざした事に対しフリージャーナリストの西中誠一郎氏が執拗に食い下がりそれに対し今村氏が激怒し暴言を吐いたことに起因しています。(余談ですがこの会見後、西中氏は当時ネトウヨと目される派閥から謂れなきバッシングを受けながらもジャーナリストとしての矜持を貫いた姿勢は素晴らしくあるべき姿そのものだと筆者は思っています。)それ以降度重なる暴言・失言を重ねた今村氏ですが4月25日に自民党二階派のパーティーの席において「まだ東北で良かった」と被災者を傷つける発言をしたことで辞任(事実上の更迭)に追い込まれました。(*14)

 

 これらはほんの一例ではありますが社会全体において差別やヘイトと言った負の側面が肥大化し日常に浸透しつつあることを端的に表した出来事であったと思われます。そしてこれら全てに共通しているのは”他者を蔑み、迫害する姿勢を意識的にしろ無意識的にしろ持ち合わせている”ところにあるといえるのではないでしょうか?

 

 では、ここでX-MENに話を戻しましょう。

 以前の投稿(*15)でも少し触れていますがX-MENの劇場作品・アニメ及びその原案となったコミックに『X-MEN:デイズ・オブ・フューチャー&パスト』という作品があります。劇場作品・アニメ・コミックでは内容が異なる部分も多いのですが共通点としてこの作品はタイトルに有るようにフューチャー(未来)とパスト(過去)の2つの時間軸を舞台にセンチネルという対ミュータント用兵器の誕生を阻止し歴史を変えようとするところにあります。

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X-MENと戦うセンチネル)

 さて、このセンチネルというロボットですがどの媒体においてもミュータントを脅威と考える人類学者ボリバー・トラスク博士によって設計・開発され誕生しています。基本設定としてはミュータント遺伝子の有無を感知しミュータントのみを攻撃するロボットなのですがこのデイズ・オブ・フューチャー&パストというストーリーにおいては世界中のミュータントを狩るだけでは飽き足らず将来、ミュータントを生み出す可能性がある人類にまで適応範囲を広げてしまったことで人類・ミュータント双方が絶滅の危機に瀕し荒廃した未来世界が誕生してしまっています。直接的・物理的にはこのセンチネルの暴走が最悪の未来を招いたわけですがそもそもの原因はなんであったのかを考えてみましょう。筆者は2つの原因があると考えます。一つはミュータントに対する直接的な偏見・差別意識からくる共感能力の欠如です。ミュータントを人類への脅威と考え彼らを弾圧・根絶させてしまおうという考えからセンチネルが誕生したと言えます。そしてもう一つの理由ですが筆者としてはこちらのほうが重要だと考えています。それは”我々は誰しもマイノリティになりうる可能性が常に存在する”ということを想像することが出来ない想像力の欠如・不足さです。先に述べたとおり、ミュータントという種族はホモ・サピエンスが突然変異したことで誕生した種族であり人類の中から誕生するというのは誰が考えても当然わかります。しかし、MARVEL世界の人々はその少し考えればわかることを想像することを怠りその結果センチネルの台頭を許してしまい最悪の未来を招いてしまいました。

 

 勿論、X-MENはフィクション作品ですからセンチネルはX-MENによってコミックの歴史上何度も繰り返し倒されておりその都度、世界は救われていますし、我々が生きている現実世界にセンチネルのような恐怖のロボット兵器は2017年現在存在しませんし例えロボット工学がどれほど進歩しようとも同じようなタイプのロボットが誕生することは可能性としては低いでしょう。

 

 しかし、我々の生きる現実世界の日本では『組織的犯罪処罰法改正案』…通称”共謀罪”が2017年5月23日に衆議院本会議で、同年6月15日に参議院本会議でそれぞれ強行採決(*16,*17)され同年6月21日より発布、7月11日より施行されることとなりました。(*18)日本では既にマイナンバー制度と特定秘密保護法が施行されています。(*19,*20)これらは組み合わせ次第で国家という大きな力が国民一人ひとりを監視し押さえつけることが可能な強力なツールだという見方があります。(筆者も実際そう思います。)言うなればこれは現実世界に生きる我々にとってのセンチネルのような存在となりかねないと言えます。ここからはあくまで筆者の推測ですがこの法律は始めは暴力団や半グレ(*21)と言った反社会的勢力の一掃に用いられていくのではないかと思います。これは彼らが反社会的勢力という社会的に排除される立場にあり同時に多くの一般人にとって処罰されても困らないマイノリティ的存在だからです。暴力団や半グレは筆者としても規制されるべき存在であると思いますしカタギに生きる誰に尋ねてもそう答えが返ってくるでしょう。しかし、センチネルがミュータントを絶滅寸前まで追い込んでそこから抹殺対象を人類まで拡大していったように共謀罪も法律として存在する限り範囲対象が広がっていかないと言い切ることは出来ませんしむしろ広がっていくものだと考えるのが自然なはずです。センチネルの場合はミュータント→人類と拡大していく範囲が大雑把なので気づきやすいですが共謀罪は徐々に適用範囲が広がっていくでしょうからその分自分が適用範囲圏内に入ったことに気づくのが難しいはずです。こういう特性に、”他者を蔑み、迫害する姿勢を意識的にしろ無意識的にしろ持ち合わせている”現代社会人々の空気感と合わさるのは非常に恐ろしい事態を招くのではないかと筆者は感じます。同法案には様々な懸念が存在していますが個人的にはこの部分が一番の懸念です。

 

 この世に存在するあらゆることは全てつながっています。自分には関係ないことと思ったりするのではなくあらゆることに関心を持ちもし、自分が関わったらどうなるのかと想像を張り巡らしてみてください。その手助けに学術書を読むもよしコミックを読むのもよしなのではないかと筆者は思います。

 

 最後に、X-MEN同様人々に迫害・誹謗中傷されながらも戦いを続けているMARVEL社の看板ヒーローであるスパイダーマンがクロスオーバー作品にてX-MENに送った言葉を持って締めくくらせていただきたいと思います。

(((( “僕らは誤解から衝突したこともある。でも何度も助け合ってきたよね… 僕達にはたくさんの共通点があるからだ。
 自分が守ると誓った世界から疎まれ、憎まれている。
 僕の意見だけど…僕らは本当に最高のチームだと思うよ”))))

 (X-MEN/スパイダーマンより)

 

関連商品・書籍など

 主人公のジャーナリストの視点からMARVEL世界の歴史を振り返る架空の年代記的な作品でアートを担当しているアレックス・ロスの美麗で写実的なタッチのアートとあいまって屈指の名作です。2章目がミュータント及びセンチネルの出現に関するエピソードとなっておりX-MEN初心者、MARVEL初心者、アメコミ初心者の入門書にピッタリの1冊です。

 

X-MEN:デイズ・オブ・フューチャーパスト (MARVEL)
X-MEN:デイズ・オブ・フューチャーパスト (MARVEL)
 

 デイズ・オブ・フューチャー&パストの邦訳コミックです。全7話収録されているのですが実はこのデイズ・オブ・フューチャーパスト編はたった2話で終了してしまうので古い年代のコミックの情報量に驚くことはまちがないでしょう。

 

X-MEN/スパイダーマン (MARVEL)
X-MEN/スパイダーマン (MARVEL)
 

 末尾で引用したX-MENスパイダーマンのクロスオーバー作品です。コレ1冊でキチンと話しが完結する他、各年代のX-MENのチーム編成やスパイダーマンのコスチュームの変化なども楽しめます。 

 

 デイズ・オブ・フューチャー&パストの実写映画作品です。上記の通りコミック原作版では2話分のエピソードですがこちらは劇場公開作品ということもありそれに見合った迫力が楽しめます。

 

 

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)
徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)
 
 日本の右傾化に関して多角的に第一線の研究家と現役ジャーナリストたちが論じている素晴らしい専門書です。400ページを超えているのにもかかわらず2000円未満とリーズナブルな価格帯なのも魅力的ですので今の日本とこれからの日本を考える参考になると思います。

 

 

*1 My Monthly Curse by Phill Hall #9 – Taking Apart A Guinness World Record - Bleeding Cool News And Rumors

*2 『X-MEN ファースト・ジェネレーション(原題:『X-MEN:First Class』)』映画パンフレットから。

*3 http://www.cbsnews.com/news/60-minutes-donald-trump-wall-mexican-border-fence-segments/

*4 CNN.co.jp : 対象7カ国からの入国、3日間で3千人 米入国禁止令

*5 トランプ氏の新しい入国禁止令も差し止め ハワイ連邦地裁「論理破綻している」

*6 フランスの若者、極右政党「国民戦線」に傾く 大統領選の動向は流動的

*7 イギリス、EU離脱を正式に通告 2年間の交渉に立ちはだかるハードルは何か

*8 稲田防衛相、敗訴確定 「在特会と蜜月」報道めぐる訴訟:朝日新聞デジタル

*9 小池百合子氏、在特会の関連団体での講演を指摘され「よく存じておりません」

*10 森友学園:昭恵夫人が100万円の寄付否定 - 毎日新聞

*11 【森友学園問題】籠池氏発言は「首相への侮辱」 与党「放っておけない」と判断し証人喚問を容認(1/2ページ) - 産経ニュース

*12 http://www.tukamotoyouchien.ed.jp/wp-content/uploads/07216f9fab6acf7d288005900360f996.pdf

*13 http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000096121.html

*14 今村復興相を更迭 大震災「東北で良かった」と発言 - 共同通信 47NEWS

*15

*16 「共謀罪」法案が衆院で可決 "将来に禍根を残す"野党4党は反発

*17 賛成165票、反対70票 夜通し攻防「共謀罪」法成立:朝日新聞デジタル

*18 【テロ等準備罪公布】TOC条約7月中の締結に向け、外務省「最短で手続き進める」 - 産経ニュース

*19 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/number/dai9/siryou2.pdf

*20 特定秘密保護法10日施行 専門家「一般人関わることない」「これで諸外国並みの情報管理」 - 産経ニュース

*21 半グレ - Wikipedia

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