小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

ドイツにおける野球の普及度

 ドイツと聞いて、最初に日本人が思い浮かべるもの、それはビールでしょう。あるいはサッカーでしょうか。ビールが美味しくてスポーツが盛ん、にもかかわらず野球が流行っていないなんておかしなことだと思うのは、本当に我々日本人だけでしょうか?

 

 さて、今回のテーマは「ドイツにおける野球の普及度」。日本人がほとんど知らない、ドイツでの野球の普及度がいかなるものであるか、わかりやすくまとめた世界初の記事となることを願っております。なるべく数的エビデンスの確保に努めましたが、筆者がドイツ生活で見聞したことも多く含まれるうえ、日々ドイツ野球に着目しながら生活しているため、多少のバイアスはかかっているかもしれません。ご了承ください。

 

 皆様初めまして。私「ドイツ野球少年」と申します。ドイツの野球を愛して7年、ドイツの野球についての情報をTwitterなどで発信しております。

 

 軽く自己紹介を致しますと、ドイツのミュンヘンに7年間在住経験があり、現在でもなお長期休みのたび、ミュンヘンで野球を観たりプレイしたりする、日本在住の学生です。中学2年生の時、ミュンヘンで野球を始めて以来、ドイツ野球の虜、「ドイツ野球」が今となっては一番の趣味であります。いえ、厳密にいうと、一番の趣味は「ドイツ野球における各チームのマスコットキャラクター観賞」なのですが、さすがにこの趣味はニッチ趣味界の中でもニッチ趣味であることを自覚しておりますので、この件について語るのは次回以降にしたいと思います。

 

 そもそもなぜドイツ野球が一番の趣味なのか?

 何がドイツ野球の魅力なのか? 

 誤解を招くことを恐れずにいうと、それはドイツ野球にある種の「かわいさ」が潜んでいるからだと思います。ドイツ野球には、なにか自然と笑顔になるような要素がある。例えばそれは、私のTwitterをみていただければお分かりいただけるとは思いますが、選手たちの超独特なフォームや、ショッキングピンクをベースにしたカラフルなバット、なにやら「抜け感」があるマスコットキャラクターなどです。ある意味従来の杓子定規ではない。機械でいうところの「遊び」があるのです。

そのようなところから、今までの野球に革命を起こすような新しい野球スタイルが生まれるのではないかと、私は日々そのロマンに身を震わせているのです。そして当然のことながら、サッカーや競輪などで世界トップクラスに位置するスポーツ大国ドイツに野球が相当に普及すればどのようなことになるのか。まさに野球界のロマンでしょう。今後の記事も含めてドイツ野球の魅力をわかっていただけるよう尽力いたします。

 

 さて、それではドイツにおける野球の解説に移ります。

 

 まずはドイツにおける野球の一般認知度について。

 少し野球を知っている方ならば、「ドイツに野球なんかあるの?世界大会とかでもあまり聞いたことが無いし、ドイツ人が野球を知っているとはとても…」と思われるでしょう。僕自身も中学1年生までは(ドイツに住んでいたのにも関わらず)、そう思っていました。しかし、我々の想像よりはドイツで野球は市民権を得ているのも事実です。

 ヨーロッパの人は野球の存在すらも知らないと世間ではいわれておりますが、「野球」という言葉を知らないドイツ人はほぼ存在しないといってよいでしょう。今まで何百人ものドイツ人に野球をやっているということをいってきましたが、野球の名称すら知らない人にはいまだ出会ったことがありません。

また、例えばドイツの新聞のスポーツ欄ではまれに野球の記事が載りますし(南ドイツ新聞に大谷翔平二刀流の記事が載ったこともあります)、日本で「キャップ帽子」と呼ばれているタイプのつばが着いた帽子はドイツでは「Baseball Cap」と呼ばれております。また、野球がとりあえずバットでボールを打つ競技であり、ボールをフィールド外に飛ばすことを「ホームラン」と呼ぶことくらいは認知されているようです(新聞記事の中で「ホームラン」などの単語は特に解説無しで使われております。

また、2018年の3月、ドイツのマクドナルドでのハッピーセットのおもちゃの一つに、バットとグローブを持ったスヌーピーのフィギュアがありました。

 ちなみに、ドイツ野球関係の公式サイトは2016年の1年で1200万ものアクセスを稼いでおります(ドイツ野球協会機関誌『Fact&Figures』2017年発行より)。

 

では、ドイツ人が野球を知っているからといって、実際ドイツ人はどの程度野球をプレイしているのでしょうか?

 まず、ドイツの野球人口は、2018年現在で約3万人(ドイツ野球協会ホームページなどより)。1990年の500人から爆発的に競技人口が増えています。ドイツの人口約8300万人の中の3万人といいますと、野球競技者の人口に占める割合は、日本におけるラクロス競技者の人口比に占める割合の約3倍です(日本ラクロス協会登録プレイヤー数16700人)。その競技形態や普及年齢層の違いから一概に比べることはできませんが、単純計算でドイツではグローブやバットを持ち歩いている人を、日本でラクロススティックを持ち歩いている人の3倍ほど目撃することになります。どうでしょうか? ご想像よりは人気ではないでしょうか、ドイツ野球。

 また、ドイツ全土では239の野球チームと113リーグが存在します(ドイツ野球協会機関誌『Fact&Figures』2017年発行より)。リーグ数に比べてチーム数が少ないのは、多くのチームが2軍や3軍、U12やU15などの傘下チームを有しているからであり、リーグ数から推測すると、実質的なチームはドイツ全土で700チーム程度であると考えられます。さらに、それぞれのチームはホームグラウンドを所持していることがほとんどであるため、ドイツには概算して200以上の野球場があることになります。そう考えると、自宅から通える野球チームを見つけることは決して困難ではありません。

 

 では、ドイツでのトップクラスの野球はどのようなものなのでしょうか。

 「ブンデスリーガ」と聞くと、大半の人はドイツのサッカーリーグを思い浮かべますが、ドイツにおける野球リーグの最高峰も「ブンデスリーガ」と呼ばれます。ドイツの野球と楽しむ、ということはブンデスリーガを楽しむことと同義であるといえるでしょう。このブンデスリーガに関する詳細はまた次回以降の記事でお伝えします。ドイツの野球リーグは5,6部まで存在する階層制で、シーズンごとの昇降格制が採用されています。この点もサッカーブンデスリーガと共通しています。

 1部ブンデスリーガには2リーグ、全16チームが加盟し、基本毎週2試合の週末リーグとして運営されています。チームによりけりですが、強豪チームは平均的に毎試合200人程度の観客を集めます。プレイオフなどタイトルがかかる試合では1000人や2000人の観客に囲まれることもあります。トップクラスの投手は150km/hを投げ込む人もいますし(例えばヤン・ニコラス・シュトゥックリン)、野手ではアメリカで3Aまで到達して戻ってきた選手もいます(例えば引退はしましたがカイ・グロナウアー)。レベルも想像以上に高く、ブンデスリーガで活躍した選手が翌年の夏にアメリカでメジャーリーグデビューなんて事例もあります(2018年アメリカ人ライアン・ボリンジャーがニューヨークヤンキースでメジャー昇格)。なにより、2016年にはドイツで育ったドイツ人メジャーリーガーとして、マックスケプラーがはじめてツインズのチームに定着しました。一概に他国のリーグを比較するのは不可能ですが、アメリカに挑戦できる選手がいるレベルである、ということはいえます。今まで約20人ものドイツ人野球選手がMLB組織所属リーグでプレイしました。

 ちなみに、公式でインターネットで試合のライブ映像を配信しているチームもあり、日本からでも気軽にドイツ野球の映像を見ることができます。(詳しくは私のTwitterをチェックして頂ければ都度リンクなどが貼ってあります。アカウント「ドイツ野球少年」ID:DeutschBaseball)

 

 最後に、ドイツのナショナルチームはどのようなものなのか、お伝えします。

 まず、世界的な視点から見ていくと、世界野球ソフトボール連盟が発表している野球世界ランキングでは全体21位、ヨーロッパ内ではオランダ、イタリア、チェコに次ぐ4番目です。オランダ、イタリアなどはWBCやプレミア12などの野球世界大会でも優秀な戦績を収めており、ヨーロッパの中の野球強国として名実ともに認められた存在と言えるでしょう。チェコは、意外にもヨーロッパの野球強国であり、ドラッシ・ブルノなど超強豪チームを筆頭に、特にここ数年で力をつけており、少年青年の育成にも力を入れている印象があります。

 ドイツ代表はそんななかにあって1954年からヨーロッパ選手権に出場する歴史あるナショナルチームであります。それ以降、1970、80年代は戦績が振るわない大会が多かったものの、それ以外ではドイツ代表はヨーロッパ選手権の一番上のクラスに出場し、ここ数年ンは3位から5位程度の成績をコンスタントに残しております。また、世界大会としては2013年と2017年のWBCの予選にも参加しており、2020年東京オリンピックへの出場も目指しております。

 2018年7月には、キューバもフルメンバーでなかったとはいえ、ドイツ代表がキューバ代表を5対4で打ち破りました。オリンピックやWBC本選への出場が期待されています。

 

 また、ドイツ野球の将来を担うものとして嘱望される若者の育成も盛んであります。ドイツには3つの野球少年のための寮があり(ドイツ野球協会機関誌『Fact&Figures』2017年発行より)、1日中野球に集中できる環境が用意されています。また、ドイツ野球アカデミーも協会により設立されており、アカデミー主催の野球キャンプには2500人の野球少年・少女が参加しております。彼らドイツ野球の未来を担う若者の育成がこれから実を結ぶのか、注目ポイントであります。

 

 以上、ドイツでどの程度野球が普及しているのか、ドイツ在住者による見解をお送りいたしました。

 次回は、ドイツ野球を深く掘り下げていくため、ブンデスリーガの深い説明や外国人選手の制限などの問題点もお伝えしようと考えております。ドイツ野球をじっくり観戦したい人や、ドイツで野球をプレイする方の一助となる記事を目指しております。

 次回の記事をお楽しみに。