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小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

プリンセスメゾンのススメ―沼ちゃんが教えてくれる東京の新しい生き方―

感想(マンガ) つおおつ

 はじめまして。つおおつと申します。

 2016年は例年と同じように、いろんなアニメが放送され、いろんな作品が話題になりました(総花的)。しかしこのつおおつ、残念ながらそういう文化の波に去年はまったく乗れませんでした。

 仕方ないですね、初めての一人暮らし(+大学)というのは毎年アニメを欠かさず見てる人が定期的に見れなくなるくらいの大変さを持っていますから。

 しかしそんな私にも一つとてもビッグなことがありました。

 そう、kindleの購入です。

 

 去年文化の波に乗れなかったのは、kindleを買うまでは漫画を買わない(家が散らかるので)という決意をしてたのにkindleを買うのが12月末という悲しい出来事があったからでした。

 閑話休題

 今回は、kindle を買ったら絶対読むぞと決めていた、池辺葵さんの『プリンセスメゾン』という作品を扱いたいと思います。

 この物語は、主人公である沼越さん(沼ちゃん)が、これからの東京オリンピックを見据えて作られたタワーマンションの説明会でPVを見ている所から始まります。主人公の沼越さん(沼ちゃん)は、高校を卒業してから働き始めて、居酒屋勤務で年収は200万ちょっと、大森の小さなアパートでインターネットもスマートフォンもない環境で暮らしている、そんな女性です。

 沼ちゃんの今一番の目標は『ローンを組んで持ち家を手に入れること。』

 独身者が持ち家を手にすることについて、皆さんはどう思いますか?

 「結婚できなさそう」とか「いろいろ諦めた人」とか思いますよね? 私もそう思います。この作品には、そんな女性の独身者が持ち家を持つという行為をした人が沢山出てきます。

 雑誌の編集者、人生に疲れて「ふと」借りていた部屋をそのまま買った人、仕事帰りにふらっとモデルルームに寄って一物件しか見ずに購入を決める人、etc…

 さらには、女性のマンション購入をサポートする会の会長をしている人のエピソードまで出てきます。

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 もちろんその誰もが幸せな生活を送ってるわけではありません。

 そして、作中には持ち家を購入してから伴侶を探して結婚をした、という女性も出てきません。また結婚してから持ち家を購入したという、「従来のあり方」も作中には沢山出てきます。

 ではこの物語は「結婚してから持ち家購入」と「持ち家を購入してその後も独身」の二項対立であるか、といえばそうではなく、主人公、そう沼ちゃんがこの単調でつまらない二項対立を横断しているところがこの物語をNHKでのドラマ化や、2016年のこのマンガがすごい!オンナ編10位まで押し上げた要因なのではないでしょうか。

 沼ちゃんは結婚願望がないわけでもありません。

 そして沼ちゃんは決して女性が結婚することに対して、バリキャリと言われる人々がよく使われる(ステレオタイプですが)「あんたみたいな男性に頼って生きていこうとする存在のせいで私のうだつがあがらないんだよ」ということは一切考えません。

 それどころか、沼ちゃんのアパートを訪ねた既婚のいとことの会話で

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 と語っています。

 さあここで、沼ちゃんが持ち家にこだわる理由に焦点をあててみましょう。沼ちゃんはとある理由(ネタバレなので読んでのお楽しみ)によってかなり刹那的で、鋼の心と自立心を持っています。

 どう考えても家族向けのタワーマンションの説明会に一人で入ったり

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 居酒屋の同僚に持ち家なんてムリと言われたりしても

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 と本当にかっこいいです。

 沼ちゃんが不動産の営業の方から、ライフスタイルが変わる可能性があるんじゃないんですか?と聞かれても

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 受付の人に「本当に買うんだね…」と言われても

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 そう、沼ちゃんが持ち家にこだわる理由は、誰かと一緒に生きるまえに、今ある自分の生活の中で、可能な限りのベストをつかみたいからという理由なのです。

  ではここで、現代人が独身でいる理由に焦点を当ててみたいと思います。

 国立社会保障・人口問題研究所が2015年に実施した「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」の独身者調査[1]によると、25~34歳の独身でいる理由で最も多いものは「適当な相手にまだめぐり会わない(男性45.3% 女性51.2%)」となっています。

  ここで考えてみましょう。結婚前に一人暮らし用のマンションを持っているから、適当な相手にめぐり会わないということは起こるのでしょうか(この問題は恐らく、この作品のテーマの一つであります)。

 自分のこととして考えてみてください。自分がある人を好きになって、付き合ってしばらくして、そろそろ年だし結婚しようかなと思った時、果たしてその人が一人暮らし用マンションを持っていることがその人と結婚しようという意志をくじくものになるのでしょうか。一人暮らし用マンションを持っていたなら売るなり賃貸に出したりすればいいわけで、このことがそこまで大きいリスクといえるでしょうか(もっとも、一人暮らし用マンションを売るなり賃貸に出すことを念頭に入れるリスクが減ってるのは、未婚化のためですが[2])。

  沼ちゃん自身には、恋人や思いを寄せる人がいるわけでもありません。ただただ猪突猛進に持ち家へと突き進んでいく。その過程、そのひたむきさ、その強さが、私達に、今まで当たり前だった「持ち家は結婚を前提に手に入れるもの」という概念に疑問を持たせていく。そして私達に、「持ち家を手にしてから結婚するかどうか考える」という生き方を提示していく。

  インターネット環境もスマートフォンも持たずに、東京の街でひたむきに生きる沼ちゃんが、東京の新しい生き方を私達に教えてくれるのかもしれませんね。

 

 プリンセスメゾン、ぜひ読んでみてください。

 

[1]http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/NFS15_gaiyou2.pdf

[2]宿利敬史他(2013)「賃貸住宅市場の現状と展望 ~2030 年の市場規模予測と事業の方向性~」(みずほコーポレート銀行産業調査部 Mizuho Industry Focus Vol.121) https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/mif_121.pdfの図表47によると、首都圏における2010年の非ファミリー向け賃貸住宅需要は1.9兆円であるが、2030年の予測のそれは2.1兆円と、首都圏全体の賃貸需要が5.7兆円から4.6兆円と縮小するなか微増する予測が立っている。