キラーズはいいぞ
キラーズ(The Killers)というバンドは日本じゃあまり知られていない。
その世界的な人気の割に、パッとしない。
現在までに発表した6枚のアルバムすべてがイギリスでチャート1位を獲得。ファーストアルバムの『Hot Fuss』はグラミー賞の五部門にノミネートされ、全世界で700万枚以上の売り上げ。5枚目の『Wonderful Wonderful』では全米チャート一位も獲得してるというのに、日本武道館での来日公演は空席が目立つ有様……。
詳しくは後半で書きますが、この世界とのギャップは単に彼らの音楽が日本人にウケなかったからという話でもないのです。それどころか、そもそも我々日本人は不運なことに彼らの音楽を聞く機会にさえ恵まれなかったといえるのです。
というわけで今回の記事は、キラーズの魅力を伝えるべくオススメの曲をペタペタ貼るものにしようと思います。
最後に考察めいたことも書きますが、何曲か聞いてキラーズええやんええやんってなった方はそこまで読まずにそのまま聞き続けてくれればと思います。
※アイキャッチ画像はUdiscovermusicより引用(2021/8/6閲覧)。
- 1.キラーズ
- 2.スタンダードナンバー
- 3.アルバム
- 4.なぜ日本でブレイクしなかったのか
- 5.おわりに。-キラーズを日本でブレイクさせるには。あるいは、なぜ「キラーズは日本でブレイクしないのか」と問われるのか-
1.キラーズ
まずはキラーズというロックバンドについて簡単に紹介。
キラーズは2003年、アメリカはラスベガスでデビューしました。
メンバーは4人。
- ブランドン・フラワーズ(ボーカル・キーボード)
- デイヴィッド・キューニング(ギター)
- マーク・ストーマー(ベース)
- ロニー・ヴァヌッチィ(ドラムス)
はじめまして。
並んでみた第一印象、ボーカルのブランドンが一番小さくて「ああこの人イケメンなのに身長低いんだな。トム・ヨークと同じくらいかな」と思う方がいるかもしれませんが、逆。
彼の身長は180cmなので、他のメンバーがでかいパターン。
誰が脱退したとか途中加入したはないものの、2017年よりデイヴィッド・キューニングはツアー活動を休止。脱退したわけではないですが、最近は彼を除く3人でメディアに映ることが多いです。
画像引用元の記事も2016年なので公式ツイッターより3人の近影を。
Silver and Black! Welcome to Fabulous Las Vegas.
— The Killers (@thekillers) 2020年9月21日
Kickoff is tonight at 5:15PM PT. @Raiders @espn pic.twitter.com/RlZvFrCMlD
上述したようにリリースされたアルバムは全て英チャート1位を獲得。アメリカのバンドでありながら、イギリスでのブレイクをきっかけに世界へと羽ばたいたという不思議な経歴。
まあ、当時のアメリカってみんなエミネムとブリトニースピアーズしか聞いてなさそうだし。2000年代初頭のイギリスってブリットポップも終了して、あのオアシスもどん底。エアポケットになったイギリスロックシーンにアメリカのロックバンドがハマったのかなと想像します。
2.スタンダードナンバー
私がつべこべ語るより先に、キラーズの代表曲を聴いてもらいましょう。
キラーズの特徴とは、4つ打ちのビートとシンセサイザーを多用したキャッチーなサウンド、そして優雅な中にどこか哀愁漂うヴォーカル。
ネットにあるキラーズ紹介記事・ブログでは、曲のきらびやかな側面をラスベガスのネオンサインに、なんか切なさのある側面を砂漠の荒涼とした風景になぞらえることが多い印象。
個人的に、サビのフレーズがリスニングしやすくて歌いやすいってのも魅力。
以下に挙げた4つはスタンダードナンバー。ライブでも定番、人気の高い曲です。
見れないときはYouTubeに飛んでください、ごめんね。
2-1. Mr.Brightside
まずはなんといっても彼らのデビューシングル。2003年9月にリリースされるや米英でそれぞれ350万枚以上を売り上げる大ヒット。1stアルバム『Hot Fuss』に収録。
あえてライブバージョンを持ってきました。よかったから。
最も長くUKトップ100にランクインし続けた記録を持っているこの曲は、ある夜バーに行ったらガールフレンドが他の男といたというボーカルのNTRエピソードが元ネタになっているそうです[1]。
本記事を書くにあたって調べて初めて知りました。
まさしくシンセを使ったキャッチーなサウンドに乗って、「coming out of my cage」だの「I'm Mr. Brightside」といったフレーズが繰り返されてるから、ド陽キャの曲だと思ったのに。
歌詞全体を見ると、彼女の浮気を妄想して嫉妬し脳を破壊される男の苦悶が描かれてます。
2-2. Somebody Told Me
同じく『Hot Fuss』より。こちらもシングルカットされた曲。
「You had a boyfriend who looked like a girlfrirend」という謎の一節がやたらリスニングしやすいこの曲。
クラブで口説こうとした女の子にガールフレンドがいるらしいけど頑張るぜ!という曲で、NTRを乗り越えた先に新たな試練が立ちはだかったなという感じ。
こちらはどっちかというとギターが強いロックな感じの曲。そのくせ冒頭がシリアス調だったのはそのせいかな。
2-3. Read My Mind
2ndアルバム『Sam’s Town』よりこちら。
見てわかる通り、MV撮影は日本で行われました。新宿歌舞伎町をロケ地として、ガチャピンが出てきたり、ゲーセンやカプセルホテルなどの不思議の国のニッポン的な風景は見ていて楽しいですね。
2-4. Human
3rdアルバム『Day & Age』より。
私が一番好きな曲です。
その理由は何度も繰り返されるフレーズ「Are we human or are we dancer?」。
humanもdancerも形容詞なので単数形でOK。文字通り読むと意味が分かりませんが、「我々は自由な意志を持っているのか、それとも踊らされているのか?」と解釈するのがファンの間では一般的。ですが歌詞全体を通して読むと、数多あるポップカルチャーとは異なりむしろdancerのほうが良いと言ってるようにさえ解釈できる。
キャッチーなメロディに乗せて深いこと言う、一番かっこいいやつ。
2-5. Caution
なぜだか初期に偏ってしまったので、最後に最新アルバム『Inploding The Mirage』よりシングルカットされたこちら。
こう並べて聴き比べると、全然曲調が違いますね。いつの間にか色んな音を重ねられるバンドに成長しました。カモメ鳴いてるよこの曲。それにバイオリン?も入ってきたり、ハモリがあったりと宗教的な荘厳さがある感じ。
以上がキラーズのオススメ曲になります。奇をてらったつもりもないので、上記が彼らの代表曲の一部です。気に入った曲はありましたか?
3.アルバム
こっからはアルバムを紹介。
粉川しのというロッキン・オンのライターさんが4枚目の『バトルボーン』までをレビューしている記事[2]を見つけたので引用。それ以降はまた別の人のレビューを引用しつつ、それぞれ紹介していきます。
執筆中に舞い込んできたニュース。
なんと!!!
7枚目となる最新アルバム『Pressure Machine』が8月13日にリリース決定!!!!!!
日本盤は8月20日発売で現在予約受付中とのこと。
なんというタイミング。まるでこの記事が案件みたいじゃん。
話を戻して。
現時点(2021年8月初頭)で出てるアルバムは6枚。
こちらですね。
これら以外にも、2007年にB面・アルバム未収録曲を集めた『SAWDUST』、2013年に『Direct Hits』というベストアルバムが出ています。
ベストアルバムは入門編に最適。「Cauiton」以外の上記4つもすべて入ってます。
①Hot Fuss
ファーストアルバムが発売されたのは2004年。粉川さん曰く、トレンドがガレージロック・リヴァイヴァルからニューウェイヴ・リヴァイヴァルへと移り変わっていた時期で、そんな時にデビューしたキラーズは新たな時代なニューカマーだったそうです。
ガレージロック・リヴァイヴァルは初期のロックみたいなシンプルさを特徴とする、ストロークスやアークティック・モンキーズが起こしたジャンル。
せっかくなのでストロークスより「Last Nite」を。1stアルバム『This is it』[3]は名盤だぞ。
比べて聞いてもらえば、キラーズのカラフルさがわかるかと思います。このシンセサイザーを使った2000年代の流行りをジャンルで言うと、ニューウェイヴ・リヴァイヴァルになるんですって。
このたび改めて通して聞いてみた感じ、イメージよりロックの要素が強かった。5曲目まではシンセが多い(「somebody told me」はそうでもないけど)ですが、6曲目からはギターが強くなってくる。
7曲目だけシンセな感じでそれ以外最後の14曲(日本盤)までロック。ギターのデイヴィッドさんの自己主張かな。どうでもいいですが、11曲目の盆踊り感に笑った。
それとイメージより悲しめな曲調でした。マイナーコードが多いんかな?
ちなみにこのアルバム、日本盤はなぜかジャケットが黒色に変えられています。霧がかかった幻想的な紫の空を何の変哲もない黒一色の夜にするという謎変更。
何でこんな余計なことをした。売れるもんも売れんわ。
②Sam’s town
なんだか前作に比べて音が重たい[4]感じがするこちら。1曲目を聞いてすぐそう思いました。2枚目で音を重くするのはメジャーでの人気を狙った証。オアシスもそうでした、彼らの場合は3枚目からだけど。それか単純に、お金と技術が身について色々試したくなるのかな、知らんけど。
そんな2枚目は、粉川さんの言葉をそのまま引用すると「マスキュリンでブルージーなアメリカンロック」。
「ブルーススプリングスティーンやU2のような」と前についていることから、つまりアメリカのスタジアムロックってことでしょう。要は、大勢の観客を前に演奏するのを前提とした派手で轟音のロックですよ。U2はよくわかんないけど、ブルーススプリングスティーンみたいなギターギュインギュインさはよく伝わりました。
総括、ドラムとギターがうるさい。あとBPM遅くなってる?とにかく、きらびやかなシンセは鳴りを潜め、全体的にギターの主張が強いです。特に「Uncle Johnny」、「Bones」。2曲目のスキット「enterlude」で「楽しんでくれることを期待してます」って言ってるので、この路線変更は狙ってやったんでしょう。
個人的には「When we were young」と「For Reasons Unknown」がオススメ。
③Day&Age
B面アルバム『sawdust』を経ての3枚目。一曲目の一発目からとてもきらびやかで、一番好きなアルバム。何より「human」入ってるし。
粉川さんが「『HOT FUSS』のポップネスと『サムズ・タウン』のスケールを融合させ」た作品と評し、同じくロッキン・オンのライターである小川智宏も「シンセのまばゆいレイヤーと4つ打ちのビートにブランドンのあの声が載るという、完璧なキラーズ節」[5]と評しています。
ギターの存在感は前作より薄くなり、代わりに色んな楽器の音が増えてアンサンブルな印象。ジャズっぽかったりラテンっぽかったり曲ごとに個性があって飽きません。そういや「Human」打ち込み使ってんな?
ちなみに未来の話をすると、このアルバム以降Queen味を感じるようになってきます。1曲の中で雰囲気変えて壮大なサウンドするようになるからかな。
「human」と「Spaceman」の代表曲以外も全部おススメ……やっぱ「Goodnigt, Travel Well」は長すぎてやりすぎに思ったので除外させてください。「Joy Ride」となんか平沢進みたいな雰囲気の「This is Your Life」が個人的オススメ。
「spaceman」はスタンダードナンバーの方に入れようか迷った。
④Battle Born
順調にアルバムをリリースしていたキラーズでしたが、『デイ&エイジ』以降活動休止も挟んだりして4年の間隔が空いてしまいました。
世界的バンドに躍り出たことで計り知れないプレッシャーがかかりボーカルのブランドンもソロ活動を始めたりして解散も噂された、そんなヘヴィな時期を乗り越え発表された今作。
デビュー10年目を前にした「集大成」だそうで、翌年にベスト盤が出ていることからもここで一回キラーズのキャリアは区切られます。
確かにこのアルバム以降カラフルなシンセに4つ打ちビートというキラーズ節が高度に複雑になっていく感じ。
ただ個人的には集大成というか、どれも一緒やなっていう感想しかなかったあんまピンとこなかったアルバム。
何でかなって考えたら、たぶんテンポが遅くなったから。それはもうかなり遅くなって、バラードというか大人な曲が多い。使う楽器も前作に比べたら少ない、てかほとんど4ピースとシンセとピアノぐらいで構成されてる。相対的にまたギターがうるさくなりましたが、それでも私はまだお子様なので退屈でした。
あ、あとよく言われる「U2みたいだ」っていう評価はこのアルバムの場合は共感出来ました。 アメリカのスタジアムロックが時たま作るゆっくりした哀愁漂う曲みたいなアルバム。
⑤Wonderful Wonderful
前作『バトルボーン』が4年のブランクを経てましたが、今作『ワンダフル・ワンダフル』が制作されるまでの空白は5年。初の全米チャート1位を獲得したアルバム。
ブランドンの奥さんが精神的な病で自殺寸前になったりプロデューサーに何人も断られたりと公私ともに辛かったせいか、音が重たい。インタビューでブランドンが語ったところによると、「本作はエモーショナルな意味で最もヘヴィ」、シングルの方の「Wonderful Wonderful」は「サウンドとしてもこれまで作った作品の中で最もヘヴィ」だそうです[6]。
確かにめっちゃヘヴィ。テンポおそいわ、ボーカル低いわ、ドラムが行進曲みたいにボコボコいうわ、5分超えるわ。そんな「Wonderful Wonderful」が本アルバム一曲目。
ですが2曲目以降はそんなことはなく。ノリはいいけど影がある感じ。3曲目の「Rut」がまさしくそうで、壮大できらびやかだけど「don't you give up on me」とか「I'm climb」のフレーズが繰り返されて強迫神経症味を感じる。
3枚目までのキラーズ味が残るのは5曲目の「Run for Cover」と6曲目の「Tyson vs Douglas」。
7曲目の「some kind of love」が今までにない讃美歌みたいな感じの曲。メンタルを癒したかったのかな。最後の曲もそんな感じ。
個人的にはQueenの曲かなっていうくらいボーカルにフレディ味のある「The man」がオススメ。
なんか聞くの疲れた。
⑥Imploding The Mirage
お分かりかと思いますが、『バトルボーン』と『ワンダフル・ワンダフル』は私にはハマりませんでした。
ですが今作は違います。
前2枚の厚みは残しつつ明るさがあって個人的には好き。1曲目の「My Own Soul’s Warning」のイントロが重たくて、なんかまた聞くのに体力要りそうだなと身構えた私を見事に裏切ってくれました。続く2曲目「Blowback」は牧歌的。なんか歌詞が不穏な気もするけど。
4曲目「Caution」までくるとだいぶ前向き。5と6で力貯めて、7以降は力強く進んでいく曲。7の「Running Towards A Place」は急に80年代感が強かったけど。
新型コロナウイルスの影響で発売延期になりましたが、聞き終わったころには閉塞感が無くなった気分になるので、この辛い時期に聞くと元気が湧く。
ちなみにデイヴィッドさんはレコーディングに参加してない。でも脱退したわけじゃない。
オススメは「Imploding The Mirage」と「My God」、「Dying Breed」かな。
以上、アルバムレビューになります。やっぱり私が一番好きなのは「Day & Age」。きらびやかさと厚みがちょうどいい感じだからです。
どうやら最新アルバム『Pressure Machine』はトレイラー映像を見る限り故郷アメリカを意識しているっぽいので、『Sam's Town』とか『Battle Born』みたいになるのかなと予想しています。楽しみですね。
4.なぜ日本でブレイクしなかったのか
またしても粉川しのさんの記事を引用します。だってタイトルがまさしく「なぜ、キラーズは日本でブレイクできないのか」なんだもの。
記事によると、日本でブレイクできない原因は以下の2つ。
1.レーベルおよびメディアがプロモーションをする際カテゴライズを迷った。
2.来日ツアーがことごとくキャンセルになった。
1については、ニューウェイヴ・リヴァイヴァルを特徴とするオルタナティブロック・バンドとしてではなく、メインストリームのポップバンドとして売り出せばよかった、ということだそうです。確かにニューウェイヴに影響を受けていてその要素はあるものの、キラーズの売りはなんといってもキャッチーでフレンドリーなサウンド。だから最初からライトなリスナーに照準を合わせるべきだった、そんな話。
確かに『Hot Fuss』って明確にどっちとは言い切れませんね。
これと対照的なのがフランツ・フェルディナンド。オルタナティブロックに属するのが明快だったためにプロモーションしやすく、ブレイクできたとのこと。彼らもすごいバンドではありますが、世界的なセールスはキラーズの圧勝。それなのに日本では真逆というね。
2について粉川さんは怪現象と評しています。2004年のフジロック来日は成功したのに、どういうわけかここ最近のキラーズ来日は不可解なキャンセルに見舞われる。記事内で紹介されていた来日歴は以下の4つ。私がそれぞれの理由を調べて付け足しました。
2009年:フジロック→キャンセル
2010年:単独来日→キャンセル(余命宣告された母をブランドンが看取るため[7])
2013年:単独来日→当日日程変更(メンバーの体調不良[8])
2018年:単独来日→大阪公演キャンセル(台風で関空がダウンしたため[9])
2009年についてはアーティストの都合としか書かれていなかったので詳細は不明[10]。ただこのフジロックのすぐ後くらいにブランドンに次男が生まれたらしい、知らんけど。
2010年は日本を含むアジアツアーがキャンセルという大規模さでした。
2013年は後日の公演は予定通り、2018年は前日の武道館公演は予定通りと、比較して不運度合いは軽いかなという印象。
一番痛かったのはやはりフジロック2009のキャンセルかな。2004年以来5年ぶりで彼らもすっかり世界的バンド。それに何よりこのフジロックには、2001年の初登場以来8年ぶりの再登場にして日本ツアーを大成功させたばかりのオアシスも出演[11]。他にも5月に急逝した忌野清志郎のトリビュートとして国内外のバンドが集結したり、WEEZERが初登場したり。この注目度の高いフジロックで「human」や「spaceman」、「read my mind」といった現在でもライブのド定番である曲を演れなかったのは残念。
5.おわりに。-キラーズを日本でブレイクさせるには。あるいは、なぜ「キラーズは日本でブレイクしないのか」と問われるのか-
ここまで書いてきておいてあれなんですが、そもそもキラーズが日本でブレイクしていないことの根拠は何なのでしょうか。
本記事は「世界的な人気に比べて日本で売れていない」という評価を前提として議論を進めています。この前提は、私もそう感じてるしなんかググったらみんなそう言ってたというふわっとした印象から始まり、粉川さんのそのままズバリな記事に出会ったことで、私の中である種ブラックボックス化してしまいました。
粉川さんの記事中でも述べられているように、キラーズは2019年のグラストンベリーや2018年のロラパルーザ・ブラジルといった3日間で20万人前後を動員するような世界最大級フェスのヘッドライナーをいくつも務める一方、2018年の来日公演では武道館も満員に出来ませんでした。
確かにこう比較すると日本での人気は見劣りしますが、しかしながらフェスの方は世界的バンドが数多出演するのでキラーズ単独の成果とはいえませんし、武道館で公演すること自体がそもそもすごいことです。ライバルのストロークスは武道館公演をできていません。
キラーズは日本において洋楽というマイナージャンルに所属するので、単純にイギリスやアメリカでのフェス実績やCDセールスを持って来るのもお門違いな話。スモール・イン・ジャパンという評価は、フランツ・フェルディナンドやその他バンドがあんなに売れているんだからというファンや評論家の期待とのギャップに由来するのかもしれませんが、現状でも洋楽好きが知る程には売れているのです。
なんだか議論が錯綜してきたので問いを変えてみましょう。我々はある海外のバンドが日本でブレイクしたかどうかを何で判断すればいいのか。
娯楽が多様化する現在、これがなかなか難しい。AKB48以降CDのセールスはもはや人気の指標として機能していませんし、そもそもCD自体が時代遅れ。じゃあほかの音楽メディアも加味するとして、spotify?iTunes?Amazon Music?いっそ全部を総合するといっても単純に足し算すればいいわけでもないので解決はしなさそう。YouTubeチャンネルの総再生回数……はAKBの二の舞になりそうだし。
アルバム単位ではなく一曲単位でポップミュージックが消費されるファストな現在。聞く媒体も多様化し、趣味趣向も細分化されセグメント化されたポストモダンな現在。あるバンドが売れたかどうかの客観的な基準を設けるのは至難の業といえます。
などと悩んだ結果、疑いようのない数字上のデータよりは漠然とするものの一定の説得力がある基準を思い付きました。
それはタイアップの数と質です。代表曲が映画やCMなどで使用されれば、そのバンドはその国でブレイクしたといえる。というより、趣味趣向が細分化されている現在、メディアの横断なくして音楽好き以外の耳に届けるのは現代では難しい。
この基準でキラーズとフランツ・フェルディナンドを比較すると、確かに後者の方が日本でブレイクしていると言えます。
代表曲「Do you want to」はウォークマンやmixiのCM、アニメ『paradise kiss』のエンディングとしても使われています。同じく「No you girls」はiPod touchのCMや、映画『ピュー!と吹くジャガー ~いま、吹きにゆきます』の主題歌として使われております。私もこの映画でフランツを知りました。
キラーズも「All These Things that I’ve Done」がNIKEのオリンピックCMに使われたり、「Mr. Brightside」を『ホリディ』という映画の中でキャメロンディアスが熱唱していたりしております。
NIKEの方は日本での知名度向上に役立ったかなと思えますが……。
『ホリディ』は私初めて知りましたね……。一応、日本での興行収入が13.3億円あったらしいですけど、同じ年の洋画1位は『パイレーツ・オブ・カリビアン』で109億円、今でもたまにテレビでロードショーされる『ナイトミュージアム』が35億、『300』も15億だってさ[12]。うーん、まあ、今一つやな。
このようにフランツ・フェルディナンドが日本でブレイクした背景にはタイアップの影響があるといえます。Oasisの「Whatever」なんて色んなCMで使われまくって、日本での知名度がやたら突出しているのです。
今からでも遅くはない。キラーズをアニメの主題歌に使うのです。
ジャンプアニメがいいぞジャンプアニメが。やはり今猛プッシュされている呪術廻戦が理想的。映画化したら主題歌はキラーズだ。
そうなったらむしろ声優にカバーしてもらおう、中村悠一さんとか。そうすれば普段洋楽を聞かないキッズや主婦層の耳も傾き、日本での認知度向上が期待できます。
想像してください、五条悟が「Human」を歌う様を。
Are we human or are we dancer ~♪
…………アニメキャラが歌うとなんか深いな。
[1] BBC “Mr Brightside: The hit that just won't die”
[2] rockin’on “ミュージック・ビデオと共に振り返るザ・キラーズ10年の歩み”
[3] キラーズとストロークスは互いに嫉妬し合う良きライバルだったそうな。この1stに衝撃をうけたキラーズは、作っていた曲をほとんど捨て、唯一残ったのが「Mr.brightside」。一方のストロークスもまたこの曲の大ヒットに嫉妬していたそう。
[4] 音が重いとは低音が多いということ。バスドラムがドンドコしてベースかギターかの太い弦がヴンヴンするのがよく聞こえるなあという意味。一般に、メジャーで売れようとするバンドは音が重くなる傾向にある。
[5] rockin’on “人間とは踊る猿である ザ・キラーズ『デイ&エイジ』2008年11月19日発売”
[6] rockin’on 2017年11月号 「THE KILLERS 5年ぶりの新作『ワンダフル・ワンダフル』で取り戻した夢と世界へのメッセージ」
[7] BARKS “ザ・キラーズ アジア・ツアー・キャンセルの経緯を語る” (2021/8/6閲覧)
https://www.barks.jp/news/?id=1000063655
[8] BARKS “ザ・キラーズ 来日公演・日程変更” (2021/8/6閲覧)
https://www.barks.jp/news/?id=1000095057
[9] NME JAPAN “ザ・キラーズ、9/13の大阪公演がキャンセルとなることが明らかに” (2021/8/6閲覧)
https://nme-jp.com/news/60988/
[10] BARKS “フジロック、THE KILLERSキャンセル&出演アーティスト第7弾発表!”(2021/8/6閲覧)
https://skream.jp/news/2009/06/the_killers7.php
[11] この1か月後にノエルが脱退。結果的にオアシス最後の日本公演となった。
[12] 一般社団法人日本映画製作者連盟 “過去興行収入上位作品(興収10億円以上番組) 2007年(1月~12月)” (2021/8/6閲覧)