小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

最近話題な地政学の用語集を作ってみた―用語集タ~ロ―

 

 

タ行

第一列島線第二列島線 

鄧小平が打ち出した中国の軍事概念。シーパワー進出計画の段階。第一列島線は、南西諸島~沖縄~台湾~フィリピンの西側~南沙諸島を結ぶ線。第二列島線小笠原諸島~グアム~サイパンパラオを結ぶ線。中国は2010年までには第一列島線の内側の制海権を、2030年までには第二列島線までの制海権を確保し、2040年にはアメリカ海軍に比肩するくらいの太平洋支配を目指す。台湾を国と認めなかったり、尖閣諸島に領海侵犯したり、南沙諸島を埋め立てて実効支配しているのもこの計画の一部。

 

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産経曰く、第三列島線もある模様。

画像引用元:産経ニュース“中国が覇権むき出し、防衛ラインに「第3列島線」浮上”

 https://special.sankei.com/a/international/article/20190501/0001.html(2021/6/3取得)

 

大西洋憲章

1941年8月にチャーチルルーズベルトが発表した声明。ナチスがパリを占領し独ソ戦をおっぱじめたぐらいの時期なので、ファシズムに対処するためのもの。内容は、WW2の戦後処理と終戦後の国際秩序についての米英両国の構想。これに同意した国々が後に「連合国」となる。そして戦後における大英帝国の崩壊、NATOの結成、国連の形成などはここから派生した。アメリカが大戦に参戦する大義名分という面もあった。ボリス首相とバイデン大統領が「新・大西洋憲章」とか言い出すからあわてて追加したわ。新しい方には民主主義の擁護、サイバー攻撃への対処、コロナからの回復などが明記されたそうだが、核となるのは中国ロシアへの対応をまとめたこと。G7サミットを前にこんなもん発表するなんて。ガースー頑張って。

 

大日本帝国 

シーパワーの出自を活かして全盛期には太平洋の西半分を制覇した、世界史上結構でかい海上帝国。その時点でだいぶ無理してたのに同時並行で日中戦争とかいって中国大陸に進出し、さらにはアメリカと戦争するという自殺ムーブを極める。原爆2発落とされ崩壊。元をたどれば日韓併合で内陸に進出したのが原因。シーパワーとランドパワーに同時に手を出せば国家は破滅すると身をもって教えてくれた。

 

台湾 

日本列島や沖縄とともに、中国が海洋進出する上で邪魔な島。つまり太平洋と東シナ海南シナ海の接点に位置する地政学上とても重要な島。下関条約で清から割譲されて以降日本領だったが、WW2で日本が敗戦して中国領に戻る。でも国共内戦に敗れた蒋介石が逃げ延び中華民国を設立、中華人民共和国と対立。ただし国として認められることはなく、1971年には国連を脱退させられる。日本も国とは認めてない。中国は、香港と同じく中国の一部だと主張してる。現在まで吸収されていないのは、アメリカが軍事・経済支援しているから(日米はニクソン訪中後に一度断交してる)。親中派の国民党と台湾独立派の民進党の2大政党が政権交代を繰り返しててそのたびに路線が変わる。現在の総統である蔡英文民進党。2020年の二期目の選挙がどうなるかと思われたけど、結構な得票数で再選。こんな感じで大国同士の駆け引きの繊細なバランスの上に立つくn……地域。パイナップルが美味しい。

 

チェルノーゼム 

ウクライナからシベリア西部にかけて広がる地域。とてつもなく土壌が肥沃なので現地の人は肥料をまかないんだとか。世界最大の小麦の産地。ロシアが手放すわけないんだよなあ。

 

チェーレン, ルドルフ 

スウェーデンの政治家・政治学者・地理学者。「地政学」という言葉の生みの親。「国家は生き物のように成長する」というフリードリヒ・ラッツェル国家有機体説を発展させたアウタルキー(経済的自給自足)」を提唱。これは「国家は自給自足に必要な資源を支配しておく権利がある」という考え方で、要するに、国家は生き物っぽいんだから資源というエサを確保するために領土を拡大してもよいということ。ナチス・ドイツの東方侵略を正当化する「生存圏」という考え方に影響を与える。

 

チベット高原 

ユーラシア大陸の真ん中ちょい右にある世界最大級の高原(日本の約6倍)。ダライ・ラマでおなじみチベットとほぼ同じ領域。インド洋から来た雲がヒマラヤ山脈にぶつかり氷河を形成。それが溶けてできた氷河湖は1000を超え、世界最大の単一水源となっている。ここを水源とする河川は、黄河、長江、メコン川インダス川ガンジス川ブラマプトラ川などなど。インド、中国、東南アジアの約20億人に水を供給するアジアの給水塔。どれだけ非難されようとも中国がチベットを手放さないし手放せない理由がこれ。なけりゃ3日で人が死ぬ水を掌握しとけば周辺諸国を支配できる。ダムを中国の都合で閉めたり開けられたりすれば周辺諸国にとって死活問題なので水戦争が起きるとの予測もある。実際、治水と利水のため中国はダムを爆裂に建設中。黄河が毎年大氾濫してるのも理由。2009年に稼働した三峡ダムは世界最大の発電量を誇る。作った電気を東南アジアに売りつける。なんならバッキバキに経済成長中なので自国への水供給も電力供給も追いついてないくらい。

 

中国 

ランドパワー。現在世界2位の経済大国であり14億という世界1位の人口を抱える国。リーマンショックの時に4兆元(57兆円)の経済政策を打ち出し世界を救い、2010年には日本を抜いてGDP2位。その勢いで現在アメリカに迫る超大国となる。でも一人当たりGDPは低いのでまだ中進国だそうな。国境周辺を少数民族自治区にしてバッファーゾーンにしてる。習近平の打ち出した一帯一路政策はアジアとヨーロッパを海と陸で繋いで貿易を活性化させ、経済を発展させましょうというもの。一といいつつ実際の交易路は何本もある。つまり海の交易路と陸の交易路をゲットしようという目論見だけど、シーパワーとランドパワーを同時にやったら国は破綻する。隣の大日本帝国が身をもって教えてくれたのに。何より海のシルクロードは思いっきりアメリカのシーレーンを妨害しているし、陸はロシアのシベリア鉄道網を妨害してる。これに加えて太平洋に出ようと尖閣に来てアメリカ(と日本)をキレさせる。南沙諸島を埋め立て東南アジアとも喧嘩する。台湾とは元から仲悪いしベトナムとは数千年間喧嘩してる。インドネシアにも投資してるのでオーストラリアまでもが警戒してる。EUの裏庭であるアフリカに投資して影響力を強める。イギリスを香港の件でキレさせる。インドとこの前軍事衝突した。中東に関してはウイグル問題があるだけで問題。急激な膨張が世界中で軋轢を生んでるけど、こうしてる間にもえげつない少子高齢化が進んでいるからしょうがないね。どうなることやら。でも崩壊したら世界中が困る。何なら日本が一番困る。そういや昔「ファーウェイの初任給40万」て報道されて「日本オワタ」みたいなスレが立った時期あるけど、北京出身の留学生曰く「そんな給料あり得ない。平均月収は8万くらい。あと空がスモッグで汚い」らしい。実像がわからん。ちな、物が豊かになったせいか最近若い世代の間で「寝そべり族」が増えているらしい。

 

チョークポイント 

海上交通(シーレーン)の要所。スエズ運河パナマ運河マラッカ海峡喜望峰、ボスフォラス海峡などのこと。ジブラルタル海峡もそう。タンカーの大きさはこれらを通る大きさに制限される。例えば日本に来る原油タンカーの9割はホルムズ海峡を通らなければならないので、ここを封鎖されたら日本は死ぬ。秒で死ぬ。ていうか世界中が大混乱に陥る。そうならないためにサウジアラビアクウェートに米軍が基地を置いてくれている。ありがとう。というか、アメリカのシーレーンでもあるからね。

 

ドイツ 

西はフランスと地続きで東はロシアと地続きで周囲に敵が多いのでランドパワーの国。どっかのヒトラーさんが東方生存圏とかいって東欧を侵略、ソ連と国境を接したことで地獄の独ソ戦が起きた。なのでポーランドはバッファーゾーン。WW2敗戦後は東西に分裂。共産主義の防波堤となった西ドイツはアメリカの支援(マーシャルプラン)を受け奇跡の経済復興。東西統一後の現在は世界4位の経済大国にしてEUのリーダー。イギリスのEU離脱によりもはやヨーロッパはドイツの覇権。移民問題に悩んでいるせいか『帰ってきたヒトラー』とかいう本がベストセラーになったので、EUをドイツ第4帝国と言ってはいけない

 

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青い領域がナチスドイツ(ドイツ第三帝国)というか枢軸国の勢力圏。

引用元:ウィキブックス。San Joseさんがテキサス大学図書館の地図を基に作った、って言及しないといけないタイプの画像らしい(2021年6月3日取得)。

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現在のEU。並べたけど特に他意はない。

引用元:ウィキブックス(2021年6月3日取得)


 

トルコ 

アナトリア半島こと小アジアの国。アジア、ヨーロッパの交差点として多様な文化を持つ。国境はイスラム、でもイスラム?ってなるくらい緩い。一方、文字はアルファベット。ロシアの南下を防ぐ防波堤という点で日本とは似ている。ボスフォラス海峡を押さえているからね。なので冷戦時代は西側諸国の一員として扱われていました。でもEUに入れてくれなかった、貿易の4割を占めているのに。難民の流入を怖れたのとクルド人への弾圧が拒否の理由。キリスト教じゃないのも関係してそう。しかも2016年にはエルドアン大統領へのクーデター未遂事件の首謀者の引き渡しをアメリカが拒否。おまけにアメリカはトルコ国内のクルド人に支援。欧米と関係が悪化し、ついにエルドアンはロシアに接近。これからどうなるのやら。ちなみにアナトリア半島の根元はアナトリア高原。山脈が多いので、ローマ帝国と条件は似てる。つまり対岸を征服すれば黒海と地中海を囲う帝国への第一歩が始まるだろうけど、イスタンブールでもう取ってない?

 

 

ナ行 

NATO北大西洋条約機構) 

1949年に北米とヨーロッパの西側諸国で設立された集団安全保障体制。冷戦期におけるアメリカを中心とした最大の反ソ軍事同盟。英米仏西ドイツはもちろん、トルコもギリシャも加盟。これに対抗してソ連が1955年に作ったのがワルシャワ条約機構WTO。こっちはソ連解体後に解散。解散後、東欧諸国がNATOに加盟、ロシアも準加盟国になり、設立当初の意義が失われる。また9.11以降にアメリカの単独主義が強まったことで現在加盟国間の対立が深刻。EUばかりが話題になるけど、こんな同盟もあることを忘れないで。

 

南米 

この記事を書くにあたり6冊の文献と少なくないネット記事を読んだけど、南米は特に触れられていなかった。せいぜい「アメリカの支配下」とか「パナマ運河があるよ」くらいしか触れられていない。まあメキシコ移民とトランプ政権の話とかキューバ危機の話はあったけど、そんな一般教養わざわざ書かんでも……。俺もブラジルがBRICsの1つとして経済発展著しいことしか知らない。あとベネズエラが石油埋蔵量一位なこととか。どうも運河があるせいで世界の物流から切り離され、世界情勢の蚊帳の外に置かれてるのが原因らしい。この点はアフリカとスエズ運河でも同様。結論をまとめます。南米については分かりません。

 

ニクソン訪中 

1972年にアメリカ大統領ニクソンがそれまで敵対していた中華人民共和国を電撃訪問して毛沢東とピンポン。米中共同宣言を発表しアメリカは事実上中華人民共和国を承認。ニクソン訪中は冷戦構造の組み換えを意味し、また台湾(中華民国)を否定する。1979年にカーター大統領と鄧小平が米中国交正常化を実現。なお日本もニクソン訪中の半年後に日中国交正常化を実現している。ニクソン訪中は1971年に突如発表され、世界中が驚愕した。こっちの驚愕のほうもニクソン・ショックと呼ばれる。佐藤栄作もマジの直前まで知らされておらず、何なら日本は親台湾だった。でもこの時点で台湾は国際連合から追放されアメリカ・日本を含む各国と断交。この一連の外交もバランス・オブ・パワー(勢力均衡)。1970年代は日本がバッキバキに成長しアメリカを脅かしたがためにジャパン・バッシングが起きていた時代。他方、共産主義で仲間のはずだったソ連と中国がフルシチョフスターリン批判により対立し国境紛争にまで至った時代。他方、アメリカは泥沼化したベトナム戦争から「名誉ある撤退」をして、新たなアジア情勢を模索した状態。アメリカは日本を、中国はソ連をけん制したかった。つまりこれまでのシンプルな?西側(アメリカ)VS東側(ソ連)の構図が転換し、アメリカ、ソ連、日本、中国でアジアのバランスを保つ新たな勢力図が移り変わる、その表れとなる出来事。なお当時のアメリ大統領補佐官にしてニクソン訪中を陰から支えたのがキッシンジャー。戦後のアメリカでナチス・ドイツ的として悪いイメージが定着していた「地政学」という言葉を著書で使い、これを払拭。日本にも浸透するきっかけとなった。日本嫌いだったからニクソン訪中を教えてくれなかったらしい、知らんけど。

 

日本 

ユーラシアの極東に浮かぶ島国。1968年に西ドイツを追い抜いてから42年間守り続けたGDP世界2位の座を中国に取られて現在3位。バブルが崩壊してから経済成長が失われ続けてもう30年、少子高齢化も相まってなんだか国内は悲観的なムード。それはさておき、どっからどう見てもシーパワー。日本海という天然の壁はモンゴル帝国ロシア帝国をも跳ね返し、鑑真を失明させました。ドーバー海峡よりは広く、かといって交易できないほど離れていないという絶妙さなので中華王朝に征服されずに文化だけを摂取出来た。というか極東のあんな山ばっかのとこわざわざ侵略してもねえ……。ですがアメリカという新規プレイヤーの参戦は世界地図を変えました。アメリカから見ると対岸かつユーラシアの端にあたるので、共産主義の防波堤として使われました。その代わり防衛費肩代わりしてもらえたので経済に全振りできた。日米安全保障条約は日本の最重要軍事同盟。他方、中国が太平洋に進出するのに超絶邪魔。特に沖縄。米軍基地が撤退するわけにいかない理由がこれ。これから米中という2つの超大国に挟まれるのが確定しているし、万が一北極海ルートが拓けたらロシアが北海道を狙ってくる。米中、そして露、日本はどの勢力に着くのか。あるいは独自に東南アジアからインド洋に抜けるネットワークを構築するのか。……っていうけど、こんだけ米軍基地あってアメリ51番目の州とか言われた状態でロシアに寝返るとかできるのかな。どうなることやら。

 

ハ行

ハウスホーファー, カール 

ドイツの地政学者。ドイツ地政学の祖。ドイツとソ連、そして日本の3ヵ国で連合し英米をけん制しようという「大陸ブロック論」を唱え、ナチスの対外政策に影響を与える。また気候の似た東南アジア、中国の沿岸部は統一できるという「モンスーンアジア」という概念を提唱。「大東亜共栄圏」に影響を与える。

 

バランス・オブ・パワー 

地政学の基本概念。イギリスの項とニクソン訪中の項でも説明。その本質は「敵の敵は味方」。現在の日中米関係がこれ。覇権国はナンバー2を潰そうとするので、アメリカは3位の日本と組んで中国を潰そうとしている。オフショア・バランシングも読んでね。

 

バルフォア宣言 

WW1にてイギリス外相バルフォアがユダヤ人のパレスチナでの民族的郷土(ホームタウン)の設立を約束したもの。戦費が足りなかったのでユダヤ系の金融資本目当てにした宣言。パレスチナでのホームタウン設立という点でフセイン・マクマホン協定と矛盾する。なおユダヤ側は国家建設だと解釈したが、宣言上の文言はホームタウン。戦後パレスチナに移住したユダヤ人は暴徒化。パレスチナ問題が発生。

 

半島国家 

読んで字のごとく半島にある国。具体的には韓国、スペイン、イタリアなど。半島国家の特徴は三方を海に囲まれていること。だから海洋に進出しやすいけど、袋小路になるため大陸の脅威から逃げることができない。ただし、スペインとイタリアはそれぞれピレネー山脈アルプス山脈に蓋をされているので半島国家というか疑似的な島国。マッキンダーによればヨーロッパ自体がユーラシア大陸から突き出た巨大な半島なので、マクロな視点でいうとモンゴル帝国オスマン帝国の侵攻が大陸からの脅威といえる。

 

1つのインド 

インド独立の父マハトマ・ガンディーが唱えたスローガン。ガンディーは現在のようにインドがパキスタンバングラデシュと分裂することを望んではいませんでした。多数派のヒンドゥーと少数派のムスリムが融和し一体となって独立する。これを目指していたのですが、独立運動を弱体化させたいイギリスは分割統治により宗教対立をあおります。イギリスの援助により全インド=ムスリム連盟が結成され、パキスタンバングラデシュ含む)の独立が叫ばれるように。ヒンドゥームスリムの溝は埋まるどころか深まるばかりで、結局インドとパキスタンは分離独立。その過程で迫害が起きたり、分離後もカシミール地方をめぐる3度の戦争。現在核開発を競うなど憎しみは増えるばかり。かつてのムガル帝国は現在のパキスタン・インド・バングラデシュアフガニスタンの一部、を含むイスラムの大帝国。パキスタンにはインダス川があったり、現在の印パ孟の人口を合わせると17億を超えているなど、1つのインドが出来ていればアジア・中東情勢もだいぶ違ったと思える。ちな3カ国ともイギリス連邦加盟国。君ら仲良いの?悪いの?

 

非同盟 

東西両陣営のどちらにも属さない中立の国々の同盟1961年に、エジプトのナセル、ユーゴスラヴィアのチトーらの呼びかけにより25カ国で発足。平和共存、民族解放闘争などを宣言。冷戦終結後は南北問題などに取り組む。2012年には120カ国が参加し、国連加盟国の多数を占める。世界が東西に分かれたわけではなくむしろ東西で争ってたのは一部の国々なんだと驚いたので載せました。

 

百年国恥 

アヘン戦争辺りから現在くらいまでの中国の屈辱の歴史のこと。土台にあるのが中華思想。天子(皇帝)を頂点として中華が世界の中心であり周囲は蛮族であるという思想。この思想において日本は東夷西洋人は南蛮と呼ばれ、貢ぎ物を献上し中華の末端に加えてもらう関係。実際、清の時代まで中華はずーっと世界ぶっちぎりの大国でした。ですが1840年アヘン戦争でイギリスに敗北したのをきっかけに状況が一変。不平等条約を列強と結ばされ領土割譲、アロー戦争で円明園を焼かれ、日清戦争でついに日本にまで敗北。とどめに義和団事件を鎮圧した8カ国連合軍に北京を占領され半植民地化。かつて見下していたやつらに支配される屈辱の時代が始まる。一応、毛沢東中華人民共和国の設立時に、習近平が2008年の北京オリンピック開催時に、それぞれ百年国恥の終わりを宣言してはいる。現在の中国は中華思想を復活させるべく、まずはこの期間に奪われた台湾とか香港を取り返したい。珍妙怪奇な思想としてしばしば紹介されるけど、要はエスノセントリズムじゃないかな。白人至上主義とか日本ホルホルとかどこも似たようなもん。

 

プーチン, ウラジーミル 

ご存知ロシアの大統領。破綻寸前だったロシアを救ったヒーロー。オリガルヒソ連崩壊後にロシアの富を独占したユダヤ系の新興財閥)を「泥棒」呼ばわりして逮捕し、チェチェン独立運動を力でねじ伏せた「強いロシア」の体現者。チェチェンカスピ海油田原油をヨーロッパに送るパイプラインのルートになっているのでロシアは独立なんて絶対に許しません。こうして人々の喝采を得たプーチンはマスコミによる情報統制をおこない、原油高騰による経済の回復などもあって政権を安定。現在20年の長期政権を築く。途中4年間はメドヴェージェフが大統領だったけど、プーチンを首相にした二頭体制だったので実質プーチン政権。2020年には大統領任期をリセットする改憲案が連邦議会で承認され、2036年までの続投が可能に。83歳までロシア大統領でいれるとのこと。なにせロシアはモンゴル帝国の血を引く遊牧民の子孫にして多民族国家。そんな国をまとめ上げるには強力なリーダシップが要請される。プーチン以外にいないもんねえ。彼の後釜が見つからなければロシアは空中分解。だがYouTubeなどの新しいメディアの出現に情報統制が追い付かず支持率低下中。

 

フセイン・マクマホン協定 

イギリスの駐エジプト高等弁務官マクマホンがアラブの指導者フセインとした協定。戦争に協力してくれたら、オスマン帝国治下のアラブ人の独立と居住区の独立を認めるよという約束。これを受けてアラブはオスマン帝国と開戦。しかしアラブ人居住区にパレスチナが含まれている点でバルフォア宣言と矛盾。パレスチナ問題が発生する。

 

フランス 

西ヨーロッパに位置する半島国家。ランドパワー。イギリスとは海を隔て、スペイン・イタリアとは山脈で蓋をされ、ドイツとの間にはライン川が流れているので防御力が高い。ただしベルギーは道路なのでそっからドイツに攻め込まれる。ヨーロッパにおいては万年2位の地位。現在EU最大の農業国。世界中に植民地を建設した名残から世界各地に領土をもつ。だからフランスと最も長く国境を共有しているのは、ブラジル。

 

米朝首脳会談 

2018年にトランプと金正恩シンガポールで会談。米朝のトップが会談するのは史上初親中派である張成沢の処刑や中国が保護してた金正男の暗殺で中朝関係が冷え込み機能しなくなった中、金正恩がミサイルを発射したり核実験を繰り返したので、アメリカが空母三隻を日本海に展開するというガチの軍事圧力をかけ会談の機会を作ったのが事の経緯。北朝鮮が核・ミサイルを廃絶した時点でアメリカは経済制裁をやめる」ことで合意。2019年に2回目の会談が実現。全然非核化を進めてないくせに「一部核施設は閉鎖するから経済制裁止めて♡」って北朝鮮が要求したのでアメリカは拒否。もし北朝鮮が核・ミサイル開発を進めればアメリカが軍事攻撃する正当な理由となるので、これが一番の収穫。なお中国は米朝が接近されると不利になるけど、在韓米軍の撤退とか北朝鮮の経済成長とかメリットもあるので静観の構え。

 

米軍基地 

世界を支配してるアメリカの基本戦略は、自分のシーレーンを守りつつリムランドのパワーバランスを調整すること。だからヨーロッパ、中東、アジア、各チョークポイントを中心に世界各地に米軍基地を置いて有事に備えている。その数なんと世界150カ国に500以上アメリカが世界を支配するためとはいえ膨大なる出費なのでトランプさんは縮小したがってた。世界最大級にしてアメリカ国外で唯一空母の母港となるのが横須賀基地沖縄に日本の米軍基地の7割が集中している理由は、ICBMを置けば世界の主要都市を射程圏内に入れられるくらいいい立地だから。在日米軍基地が牽制しているのは主に中国ロシア北朝鮮。ヨーロッパ最大の米軍基地はドイツのラムシュタイン米軍基地で、ロシアを監視。インド洋沖にあるディエゴガルシア米軍基地は中東の監視。スエズ運河からインド洋に出るチョークポイント、バブ・エル・マンデブ海峡にももちろんあるしフランスや日本の拠点もあるけど、2017年に中国も初の海外拠点として基地を設置した。

 

ベラルーシ 

別名白ロシア。元ソ連構成国家で、「欧州最後の独裁国家」。ウクライナベラルーシ(とジョージア)はドイツとロシアのバッファーゾーン。地獄の独ソ戦を避けるためにどちらも取ってはいけない。影響だけ与える。親ロシアなのもあってか、ウクライナベラルーシNATOにもEUにも属していない。ベラルーシを通りポーランドを抜けるとドイツに侵攻しやすい。WW2時に使われ独ソ戦が起きた場所でもあるが、ポーランドNATOに加盟しアメリカ側に就いたので現在は使用不可。

 

ベルギー 

イギリス・ドイツ・フランスのバッファーゾーン。平野なので陸軍の進軍にはうってつけ。第一次世界大戦時、パリを攻めようとしたドイツは進軍の際ベルギーを侵攻。それがバレたがためにイギリスが参戦せざるを得なくなりました。黙ってればよかったのに。

 

北方領土問題 

アメリカが日本とソ連を仲違いさせるために仕掛けた問題。おかげでロシアと日本は今だに平和条約を結んでない。ヤルタ会談の極東密約にて対日参戦すれば南樺太と千島列島を取得していいと決まったので、ソ連は日本が無条件降伏した後に南樺太と千島列島を侵略。不凍港どころか太平洋に進出する足掛かりを手にできたけど、アメリカがそれを許さなかった。サンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄したものの、アメリカは千島列島の範囲を不明確に。日本は「歯舞、色丹、国後、択捉の4島は日本領土」としてソ連と領土交渉。1956年の日ソ共同宣言で歯舞・色丹の二島返還にまとまりかけるも、アメリカの国務長官ダレスが日本を恫喝し、立ち消え。その後40年以上接近と離反を繰り返す。ですが2000年に入り転機が訪れます。それがプーチンシェール革命でした。日本に石油と天然ガスを売りたいプーチンは1956年に立ち返り二島返還ということで領土問題を解決する姿勢。しかしここで障壁となるのが日米安保条約。返還しても米軍基地を作らない確約をプーチンから求められてるけど、基地をどこに作るかを決めるのはアメリカの勝手なので「北方領土には作らないで」なんて日本に言えるわけがない。なお、2020年9月に安倍前首相とプーチンが電話で会談し「1956年の宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことを再確認。

 

ラ行

ロシア 

ハートランドを支配するランドパワー大国にして世界一の核保有国。世界最大の面積を誇り、最強の将軍「冬将軍」を持つ。ナポレオンだろうがナチスだろうが冬まで耐えれば追い返せる。領土に比べると人口が全然足りないのに、最近少子化らしい。不凍港を求めて南下するのはピョートル大帝からの伝統。最近だとクリミアを併合してEUから経済制裁を喰らう。でもEUはロシアからの天然資源に依存しまくっている。海に出てシーレーンを分断すれば世界覇権はロシアのもの。だからボスフォラス海峡を押さえるトルコとは不仲。でも最近EUから疎外された同士として接近してる。同じ大陸国家かつ7000kmも国境を接しているので実は中国と仲良くない。モンゴルとカザフスタンがバッファーゾーン。海洋進出は19cにはイギリスに阻まれ、20c以降はアメリカに阻まれる。国家基盤がヨーロッパ(ウラル山脈以西)にあるので、オホーツク海はまだ静か。でもオホーツク海を確保したいので北方領土は渡さない。最近中国の拡張を警戒し東方に基盤が移りつつあるし、北海道も欲しいくらい。地球温暖化により北極の氷が溶けてきているので北極海ルートが拓けるかもしれない。そうなったら不凍港を求めて南下しなくてよくなるけど、その代わり北極海という氷の蓋が無くなるのでアメリカと正面切って対面します。タタールのくびきを経験しているので、実は騎馬民族の子孫。コサックとは武装騎馬集団のこと。つまりはモンゴル帝国の後継。

 

ローマ帝国 

半島国家が内海を押さえて大陸国家になった事例。具体的にいうと、ポエニ戦争カルタゴを滅亡させて西地中海の覇権を掌握。マケドニア戦争でギリシアも征服して東地中海も制覇。こうして、地中海を内海としたローマ帝国は1世紀ごろには大陸国家を形成しました。これに大きく寄与したのがアルプス山脈の存在。半島の根元を蓋してくれているので陸からの脅威が限定的。第二次ポエニ戦争ハンニバルが像に乗って山越えしてきたときは大ダメージ食らったけど、これはまあ例外というかハンニバルが凄いというか。でも、海と陸の両方を支配しようとして拡大し過ぎたのが理由で滅亡。

 

後書きにかえて アフリカについての覚え書き

 飲み会の席で人類学の教授が言った。「アフリカを研究する人類学者はイングリッシュ・アフリカとフレンチ・アフリカって区別する。俺たちもアフリカアフリカって十把一絡げに言ってちゃいけない」。

 ググっても出ないし酔ってたから不確か極まりないんだけど、確かにアフリカ分割でイギリスの植民地となった地域とフランスのそれとでは文化が違ってそう。今でも公用語が違うし、イギリスは王様と階級でフランスは自由と平等と博愛だし。マダガスカルとかブルキナファソを研究している人はフランス語が話せたし、ケニアとかの研究者は英語。

 アフリカを分ける地理的境界はサハラ砂漠。サハラ以北はヨーロッパの対岸で、歴史的にイスラムの勢力圏。ウマイヤ朝がスペインまで進出したりと交流があった。現在、アラブアフリカ連合という組織を作ったりもしている。

 でもサハラ以南のアフリカ(サブサハラアフリカ)は別世界。キリストでもイスラムでもない「その他の宗教」が多数派。電気も通ってないし、自然豊かないわゆる「アフリカ的な」地域。アフリカの人口の8割はここに集中している。なお、南アフリカ共和国イギリス連邦の一員。

 サブサハラアフリカをハートランドとみなしてる霊夢魔理沙もいたけど、個人的には反対。確かに厳しい自然が防壁となってはいるけど、船は来れるじゃん。鄭和も行けたし。

 それはさておき、こんなに多様でしかも中国とアメリカとインドを合わせたより広大な地域とそこに暮らす10億人を「アフリカ」の一言でまとめるのはいかがなものかもっと知識の解像度を上げていこうぜと結論付けようとして、アフリカ連合なるものの存在を知った。もしアフリカが1つに団結したら世界征服も夢じゃない。

 

I bless the rains down in Africa~♪

 

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欧州列強のアフリカ勢力圏

引用元:ウィキペディアコモンズ(2021年6月3日取得)

 

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サブサハラアフリカ。思ったよりでかいな。

画像引用元:外務省“ODA サブサハラ・アフリカ地域”

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/region/africa/index.html(2021年6月3日取得)

 

参考文献

舟橋洋一(2021)『こども地政学 ☆なぜ地政学が必要なのかわかる本☆』カンゼン.

インフォビジュアル研究所(2019)『図解でわかる14歳からの地政学太田出版.

神野正史(2018)『教養として知っておきたい地政学』ナツメ社.

奥山真司(2020)『サクッとわかるビジネス教養 地政学』新星出版.

沢辺有司(2019)『図解いちばんやさしい地政学の本 2019-2020年度版』彩図社.

庄司潤一郎・石津朋之編著(2020)『地政学原論』日本経済新聞出版.

全国歴史教育研究協議会編(2011)『世界史B用語集 改訂版』山川出版社.

第一学習社編集部編(2013)『最新政治・経済資料集 改訂10版』第一学習社.