仮想通貨と県民性
どうも、つおおつです。コロナ禍により外出がままならない中、つおおつのような図書館でしか進捗を出せない人間は大変です。進捗何も出てません。(泣)
さて皆さんは、仮想通貨を聞いて何をイメージしますか?「怪しい」と思う方から、「なんかよくわからないけどピザが食べられるんでしょ*1?」とある程度知ってる人、「仮想通貨じゃねーんだよ暗号資産って言え!」というクリプトガチ勢*2まで、色んな方がこの記事を読んでいると思いますが、「仮想通貨と県民性」という関連については何も知らないはず。
この記事では、仮想通貨と県民性の間にどのような関連があるのかについて、量的な掘り下げを試みます。
目の色が¥マークになっているあわてんぼうの仮想通貨民の為に先に結論から書きます。
- 徳島県、熊本県には、bitbankの超大口顧客(仮想通貨を大量に所持しており取引する人)がいる可能性が高い
- よそ者意識の高さと県民の仮想通貨への意識の高さ(給料に占める取引量)に逆相関(r=-0.522)が見られ、その相関は5%水準で有意(p=0.0131)
- あくまで1つの仮想通貨取引所の部分的な資料であり、仮想通貨と県民性の関連についより深く掘り下げるには追加の資料が待たれること
さて、仮想通貨と県民性の関連について書いていきます。
都道府県別仮想通貨取引高について
さる2019年9月、ある記事が仮想通貨界隈を駆け巡りました。
大手の仮想通貨取引所、bitbankが海外の仮想通貨取引者に向けて自社の取引所の取引量について「取引所の開設時期・年齢・地域・使用デバイス」という4つの観点から書いた英語の記事です。
私のような地域・県民性に関心がある人間*3にとって興味深いのがこの図表。
そう、bitbankにおける都道府県別の仮想通貨累計取引量(円建て)です!
この記事が出回って即座に県民性について喋ることが好きな友人のいるグループチャットに画像を転送し、「北海道が愛知より多いのは両者の県民性が出てる」などとくっちゃべっていたわけですが、今回はその量的な考察記事です。
上記円グラフの情報を、手打ちでエクセルに記入し*4、都道府県人口で割ったのがこちらの図。平均累積取引量は4.17万円でした。
(円グラフでは全ての都道府県の量的データが明らかになっていないため、24県のデータとなっています。)
都道府県の所得格差を考えると、収入のうちどれくらい取引量があったかを考えるのが妥当といえます*5。一人あたり累積取引額をH30の平均賃金(一般労働者)で除したのが下の図です。
なんと所得を考慮すると、徳島県が一位に躍り出ます。このことについて、あるネットニュースは以下のように考察していますが(小村 2019)、
徳島では、仮想通貨の普及活動を行う一般社団法人日本クリプトコイン協会の支部が2018年7月に発足している。(中略)
地元の徳島大学には、仮想通貨サークルが存在することもツイッター上で確認されており、様々なところで啓発活動が展開されていることがわかる。
徳大の仮想通貨サークルができたのが2017年9月、支部発足が2018年7月であることを考えると、私はむしろ超大口のbitbankユーザーの徳島県民が居て、その方がデータに影響を与えている可能性が高いと考察します*6。同様のことは熊本県についても言えそうです。一人が及ぼす影響が大きくなりすぎると県民の総体的な意志が取引額に及ぼす影響がわからなくなるため、量的考察では2県を異常値として除外します。
仮想通貨の性質
ここでは仮想通貨の特徴について触れておきます。紙幅の都合上、極めて簡潔で雑なものとなりますがご容赦下さい。
1.投機性
仮想通貨は他の資産に比べて価格変動が激しく、また実体的な裏付けを伴わないので投機性が高いと言えます*7。
2.非中央集権性
仮想通貨を代表するビットコインは、法定通貨のように特定の管理者を持たず、民主的に運営され、非中央集権的です。中央集権的に管理されていないということから、特に初期の仮想通貨愛好家には、高い反社会性を持つ者が多かったと言われています*8。
3.新規性
仮想通貨はブロックチェーン技術によって支えられています。高い投機性と非中央集権性の通貨、そして新技術によって他の資産に比べ仮想通貨は極めて高い新規性を有しています。
県民性の量的データ
県民性の量的なデータについては、NHK放送文化研究所編『現代の県民気質ーー全国県民意識調査ーー』(1997)によることにしました。全国42300人に、70項目を越える質問をして、都道府県別の回答結果と考察がまとめてある文献です。古い文献ですが、圧倒的サンプル数と質問項目の多さを考えるとこれを採用するしかなさそうです。NHKさん新版出して。
本稿では、先述した仮想通貨の性質と関連が深いと思われる以下の3つの質問について、平均賃金に占める累積取引額の割合との相関を取ってみます。
- かけごとは、どうしても許せない悪いことだと思いますか。
- 公共の利益のためには、個人の権利が多少制限されてもやむをえないと思いますか。
- この土地の人ではない、いわゆる「よそ者」というようなことばが、この地域ではまだ生きていると思いますか。
予想は、「どの質問においても、「はい」と答える割合に対して、平均賃金に占める累積取引高の割合は逆相関する」ですが、果たして。
相関係数を求めるにあたって、平均賃金に占める累計仮想通貨取引高の割合、及び上記3点の質問に対して、QQプロットを実行し4つの確率変数について正規性を確認しました*9。
ギャンブルに対する厳しさと仮想通貨への意識の高さ
縦軸が 平均賃金に占める累積取引高の割合、横軸が「はい」と答える人の割合です。弱い逆相関を示していますが、p値は0.205と相関が0の帰無仮説を棄却できませんでした。つまりなんとも言えません。
権利意識と仮想通貨への意識の高さ
こちらはまさかの相関係数が0を越えてしまいました。とはいっても、p値は0.66なのでなんとも言えないというのが正しいでしょうか。権利意識と仮想通貨取引に関連はなさそうですね。
よそ者意識と仮想通貨への意識の高さ
よそ者意識の高さと仮想通貨への意識の高さは逆相関する結果に(r=-0.522)。p値もp=0.013と5%水準で有意になりました。
つまり、よそ者意識が高い(閉鎖的である)都道府県では賃金に占める仮想通貨取引量が少ない傾向にある、ということが言えました。これは直感に即した結果と言えるでしょう。と同時に、90年代後半時点での県民性が10年代末になっても影響を及ぼしているということも意味しているのが興味深いです。
おわりに
本稿は恐らく初の仮想通貨と県民性を結びつけて語る論考になると思います。とはいっても、もともと参照にしたbitbankのデータは全部の都道府県の取引量が記載されていないため、完全な考察にはまだまだ程遠い状況であります。
また全都道府県の量的データが公開されておらず、公開データは取引高上位の都道府県に偏っていたため、相関係数を過剰に評価するリスクも孕んでいます。
bitbank以外の仮想通貨取引所からも都道府県別の仮想通貨に関する何らかのデータが出回ってくれれば、仮想通貨民かつ県民性に興味がある人間にとってありがたい限りです。
謝辞
本稿を仕上げるにあたって、てねてんねさん、エチゴニアさん、10niesさんから技術的な助言を賜りました。深く感謝します。
参考文献
NHK放送文化研究所編(1997)『現代の県民気質ーー全国県民意識調査ーー』日本放送出版協会.
厚生労働省(2019)『平成30年賃金構造基本統計調査 都道府県、性、主な産業別賃金及び産業計の年齢・勤続年数(3-1)』.
小村海(2019)『仮想通貨取引は「地域格差」超えられる? 地方での拡大、カギ握るのは...』https://www.j-cast.com/2019/10/05369235.html?p=all(参照 2020-07-11)
総務省統計局(2020)『日本の統計 都道府県別人口と人口増減率』.
Hiroyuki Mihara(2019)『Can you ride a tiger? Crypto trend and characteristics to ease you into Japanese bush』https://medium.com/bitbank-inc/can-you-ride-a-tiger-crypto-trend-and-characteristics-to-ease-into-japanese-bush-3ee622d1476d (参照 2020-07-11)
*1:初めてbitcoin決済が使われたのはピザのデリバリーで、10000bitcoin(今の価値で大体100億円)で2枚のピザが買われました。参照URL:https://coincheck.com/ja/article/199
*2:ガチ勢の皆さんには申し訳ないのですが、googleトレンドで仮想通貨と暗号資産を比較してください。。。
*3:地方創生を夢見て滋賀県大津市に引っ越すもリア充軍団の前にあっけなく敗北する話はこちらで読めますhttp://sho-gaku.hatenablog.jp/entry/2018/07/01/190000
*4:csvファイルをビトバンさんが公開してくれたらなあ……
*5:1億持ってる人にとっての100万円の仮想通貨投資と、200万の人にとっての100万円の仮想通貨投資は重みが違いますよね
*6:超大口の方がフィクサーとして徳島県における仮想通貨普及活動を下支えしている可能性すらありそうです。
*7:このような特徴により仮想通貨バブルの頃はパチスロアイコンのツイッタラーが大量に流れ込んできたりしました
*8:ビットコインの投機以外の最大の実用例は銃器・薬物といったものを取引するオンラインの闇市場と言われています
*9:以下がQQプロットの結果です。