小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

としまえん閉園に際して

 こんにちは、エチゴニアです。お久しぶりです。

 コロナによって世界は色々な変化を余儀なくされていますが、東京都の遊園地『としまえん』の閉園の準備も、そのかげでひっそりと進められてます。閉園については今年の2月に第一報が流れ、6月12日に公式ホームページで正式に発表がなされました。

 この記事では、そんな閉園直前のとしまえんについて、正確には、その周辺について書きたいと考えています。

 

 さてまずは、としまえんを全く知らない人に向けて、としまえんとは何なのか軽く説明いたしましょう。

 としまえんの歴史は古く、遡ると1926年に実業家の藤田好三郎が自身の所有していた景勝地を公開し『練馬城址 豊島園』が作られたことが始まりです。練馬城址とあるように、元は室町時代にあった練馬城の跡地に立地しており、園の名前は城主であった豊島氏に由来するそうです。ちなみに、紛らわしいのですが、としまえんは豊島区ではなく練馬区に存在します。さらに細かい住所は東京都練馬区向山3丁目となっていますが、この向山という土地はなかなかに面白く、中層,高層マンションがほぼ存在せず、ストリートビューを見ると分かるように生垣のある家が非常に多いという特徴があります。これは偶然ではなく、向山にある城南住宅組合という組織が活発に活動をしている結果です。とても雰囲気の良い閑静な住宅街という感じがして、私はこの一帯がお気に入りです。

 ちょっと話がとしまえんからそれましたが、問題ありません。最初に書いたように、この記事はとしまえんの“周辺”を記述するものなので。

 

 そんな大正時代から続く由緒あるとしまえんですが、戦後には西武鉄道が主体となります。そして、近年の凋落ぶりはすさまじく、夏場のプール以外は基本的に閑古鳥が鳴いており、昨年の決算ではかろうじて黒字ですが、純利益が52万7000円。ディズニーランドの母体であるオリエンタルランドの同時期の純利益903億円とは比べるべくもありません。テーマパークと遊園地は微妙にジャンルが違うのかもしれませんが、なんにせよ辛うじて存続している状態であることは確かです。このような状態が続いていたわけですから、閉園の話題は常に付きまとっており、私が最初に知らせを聞いた時の印象は、コロナとは関係無く、「やっとか」といった感じでした。おそらく、閉園後の後釜が決まったのがこのタイミングだったのでしょう。

 

 このような現状のとしまえんですが、私は幼少の頃よりとしまえんに縁があったため、今回のニュースで感慨深くなり、何か記事を書きたいと思った次第です。とは言ったものの、としまえんの内部事情や遊園地内部のことなどはどうせ他の誰かが書き留めるだろうと考えたため、小文化学会としてはやはり周辺・周縁にこそ価値を見出したい。そのため物理的な意味での周辺を記述しようと思い立ちました。

 

 まずは園が公表している園内のマップとgoogle mapによる外周のマッピングを用意しました。右下の正門から、時計回りに1周たどってみましょう。

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 回ると言っても特に何かめぼしい施設があるわけではないので、散歩のようなものです。図の右下の正門から少し南下して角を曲がると、大きな“くぼみ”があります。

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 この“くぼみ”は左側に進むと向山庭園という和風の区立公園、右側だととしまえんに続いていきますが、実は練馬城の堀の跡であるとされています。逆に、現存する練馬城の痕跡はこの堀跡程度なのですが。

 

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 “くぼみ”の坂を上がって右手を見ると、何軒かの住宅の向こうにとしまえんのフェンスが見えます。上部の網が少し歪んだりしていますが、これは新しいフェンスです。自転車で立つと園内がのぞき見できるような高さなので、形だけといった感じですね。奥には本当に遊園地なのかと疑ってしまうような背の高い木々が並んでいます。

 

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 進んで曲がっていくと、しばらく直線状に道が続きます。相変わらず森みたいですね。写真の奥にまた坂道を確認できますが、これもまた“くぼみ”となっています。

 

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 フェンスの向こう側を仰ぐと、わかりにくいですが枝の合間にプールのウォータースライダーらしきものが見えます。

 

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 坂の上まで来ましたが、ここで白いフェンスが途切れ、古い塀が登場します。としまえんのメッキが剥がれてきたような気持ちになりますね。

 

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 “くぼみ”を最下部まで下りると、コンクリの構造がむき出しになった万年塀、そして塀と呼びがたいものまで登場します。上からは見事に草が生え散らかしていますね。決してコロナで手入れが滞っているわけではなく、これがとしまえんの平常運転です。

 

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 “くぼみ”の逆側の坂を見上げると、さらに奥は通常の古い塀に戻っていることが分かります。

 

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 坂を上ってみると、塀がずっと続いているのが分かります。園内は木が生い茂っています。

 

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 途中に点在する門もすっかり錆びついています。

 

 さて、現在地点はこちらです。A地点からB地点まで歩いてきました。

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 今度はここから石神井川の方まで北上していきます。左上のみどりの児童遊園のあたりです。川に向けて、道は常に下り坂です。

 

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 電力関係の施設でしょうか。心なしか金網も物々しい雰囲気で、塀には落書きもあります(寡聞にして私には読むこと能いませんが)。ここまでくると、お客様には見せない完全な裏側ですね。

 

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 しつこく塀を追いかけると、ふと民家のような瓦屋根が現れます。定かではありませんが、社宅のようなものなのかもしれません。

 

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 それにしても外壁は汚れており、全体的になかなかな有り様です。

 

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 最終的には、屋根だけの掘っ立てのような場所に機材が置かれています。

 

 ついに石神井川までやってきました。

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 地図の矢印のようなアングルで撮った写真です。奥には、シンボルの1つであるフライングパイレーツがちょっと見えていますね。

 

 あと半分、ここから後半戦となります。地図のA地点(現在値)からB地点(正門)までです。

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 川を渡った先には、雑な壁(?)が続きます。

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 最初にお見せした園内マップをよく見ると分かるのですが、この辺りには駐車場、なぜかグラウンドがあります。ときどき近隣の学校がイベントを開催しているのを見かけた記憶もあります。昔はフリーマーケットも頻繁に開催していました。

 

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 上にも書いた臨時駐車場です。夏期のプールの時期のみ開放されます。今年はプールを開くのでしょうか。もしプールがないのであれば、もうこの門が開いて駐車場が使われることは二度と無いと考えると、ノスタルジックな気持ちになります。

 

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 そんな臨時駐車場ですが、脇には駐輪場もあります。正門の真裏にある駐輪場には、夏場以外は誰も駐輪しないため、草に荒れ果て、電子レンジが放棄され、ひどい様子です。でも、これもまた、としまえんの平常運転なのです。

 

 実は、これ以降の場所では、としまえんと公道の間に民家が挟まるため、としまえんを直接捉えることはほとんどできません。が、前述のルートから外れて行き止まりなどを探したところ、内部がうかがい知れるスポットをいくつか見つけました。

 

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 5メートルほどはある背の高い壁に囲われ、その向こうに何かのアトラクションの一角が見えています。

 

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 高い壁とは打って変わって民家もかくやの石垣に塀。統一性もへったくれもありませんね。

 

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 最終的には、もはや懐かしさすら覚える、あの新しめの白いフェンスが見えてきます。我々は戻ってきた。

 

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 坂道を下ってトイザらスを過ぎると、再び石神井川に。この石神井川としまえんを横断して流れており、プールとそれ以外の部分を分け隔てています。左手の建物は『庭の湯』という温泉施設で、余談ですが温泉の熱のためかこの写真右手にある桜の木は、他の桜よりも数日早く開花します。

 庭の湯の脇の坂を上っていくと、正門に到着します。ゴールです。でも、正門の写真などこの記事には載せません。それは小文化の役割ではないでしょう。

 

 ここまで、としまえんを一周し、結果としてその外壁がいかにオンボロであるかを描写することになってしまいましたが、私には決してとしまえんを侮辱する意図はありません。私はとしまえんが大好きだし、飽きるほど何度も行った思い出の地であり、もはや庭のようなものです。だからこそ、この思い出の場所を、その汚さまで正しく記録しておくことが、今の私には必要だと思えたのです。

 

 最後に追記すると、としまえんの一昔前の古臭さがただよう無情な雰囲気とは逆に、その周辺の『豊島園』は退屈な場所ではありません。西武池袋線練馬駅から1駅だけ派生した西武豊島線の終着駅である豊島園の駅前には、スターバックスコーヒーやその他飲食店が広がり、全9スクリーンで4DXまで見ることができる『ユナイテッドシネマとしまえん』があり、本格的なアウフグース*1が楽しめる温泉施設『庭の湯』があります。これらの施設はシックで落ち着いており、としまえんのダサさとは真逆の印象を与えてくれます。「これで後はとしまえん本体がどうにかなれば、最高の場所になるのに」と思ったことは数知れず。そして、ついにその念願が果たされるのです。ハリーポッター最高!

*1:ドイツで生まれたサウナ室内のエンターテイメント。スタッフが石へ水をかけて蒸気を発生させ、利用者を思いきり仰ぐ。水には香りがついており、それも楽しみのひとつ