路上でナイトクルージング@目黒
どうもこんにちは~。エチゴニアです。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。もうすぐ季節は夏になりますが、今回の記事は去年(2017年)の冬頃の羅漢寺川散策記となります。
さて、路上なのにクルージングって時点で察するかもしれませんが、もちろん暗渠のことです。しかもナイトです! ナイト!
前々から夜の暗渠を散歩したかったんですけど、一人だと職質されかねないしなかなかいい機会がなかったんですよ。でも昨年末、大学の課題などのストレスが重なって、ついに、もはや冬なのに暗闇の暗渠を徘徊するという阿呆な所業に及んでしまったのです。
寛大にもこの苦行に付き合ってくださった我らが会長10niesさんには感謝の念が堪えません。
というわけで、この記事は私エチゴニアと会長10niesの会話を軸に進行します。夜だったので写真は少な目。なお、以下で”ヱ”はエチゴニアを、”10”は10niesのことを指します。
~2017年11月 日曜日 午後8時半ば~
ヱ:いや~、こんばんは。こんな暗くて寒い中、いきなり呼び出してしまって申し訳ない
10:大丈夫ですよ。偶然明日は休みでしたし、面白そうですし
ヱ:しかし、集合に思ったより手間取りましたね。目黒駅が想像より入り組んでいました
10:そうですね、私もほとんどこの駅では下りたことがなかったですし
ヱ:では早速向かいましょう。まずはこの行人坂をくだっていきます
10:結構急な坂ですね
ヱ:一本向こうにはもう少し緩やかな権之助坂があります。でも、江戸時代初期にはこの道しかなかったそうですよ
10:それめっちゃ不便
ヱ:江戸に敵が侵入しにくいように、わざと急な道しか作らなかったという説があります。ちなみにこの坂は火事に曰くがあって、江戸三大大火の一つ明和の大火の火元の寺があったり、八百屋お七の恋人が居たとされる寺があったり……
10:さんざんですねw
ヱ:そうこう言っている間に目黒川が見えてきましたね。左手にあるのは「昭和の竜宮城」とも称された雅叙園です
10:有名な場所なんですか?
ヱ:太宰の小説の舞台や、千と千尋の神隠しのロケ地にもなっています。戦時中でも絢爛な内装を増やし続けたとか
10:じゃあまさに浮世離れした桃源郷だったんですね
ヱ:さて、目の前の目黒川ですが、少し左に行ってみましょう
10:いよいよ暗渠ですね
ヱ:はい! まずは暗渠と川の接合部、つまり入口を確認しましょう!
10:あ、もしかしてあれですか?
(ストリートビューは昼ですが、実際に行ったのは夜です)
ヱ:ええ、暗くて分かりづらいですが、川岸に人が入っていける程度の穴が開いていますよね。あれこそが、今回たどる暗渠。生前の名を羅漢寺川といいます
ヱ:今から歩くのは羅漢寺川とその支流である入谷川、六畝川、品川用水の落水の計4本ですが、これから先の全ての暗渠は、最終的にこの一点に集中すると思うと感慨深いですよ。さあ、対岸に回って散策を始めましょう
10:エチゴニアに連れられて何度か暗渠は行ったことがありますが、ここら辺はあまり暗渠らしくないですね
ヱ:ええ。目黒川から羅漢寺までの間は参拝道でしたから整備されていたはずですし、新しい建物も多いので痕跡はほとんどありません。ですが大通りを挟んで細い道が不自然に直線上に位置していたり、わずかな暗渠の香りは漂っています
10:あ、確かにまっすぐですね
ヱ:本格的に暗渠々々しだすのはやはり羅漢寺の裏手にある目黒不動尊を超えたあたりからです。一気に胡散臭い雰囲気が襲ってきますから楽しみにしていてくださいね
10:それにしても寺が多いですね。黄檗宗の寺って実際に見るのは初めてですよ
ヱ:黄檗宗ってすごい聞き覚えあるんですけど何でしたっけ?
ヱ:そうだ。インゲン豆の人だ
ヱ:ここで道はぐにゃっと曲がっていますが、塀の向こうは目黒不動尊、瀧泉寺です
10:東洋の龍は水神ですし、三水まで付いて、それに続くのは泉ですか。暗渠にいかにもな名前ですねえ
ヱ:いい指摘です。この境内にも湧水があったと思います。今回は素通りしますが
10:もう夜でお寺も開いてないですもんねw
ヱ:はいw
ヱ:この境内にはいくつか池がありますから、私は羅漢寺川はそのどれかに注いでいたのではないかと予測しています。つまり、今は寺に沿って進んでいますが、本流は寺をぶった切っていたのではないか、という推測です
10:なるほど。しかしこの道も十分に苔むしていて暗渠っぽいですよ
ヱ:それは暗渠化した際に不動尊を避けて水道を作ったのかもしれません
ヱ:さーて、やってまいりましたよ! いよいよTHE暗渠って感じです!
10:うわっ! 近づくまで道が地味すぎて気づきませんでした。これは想像以上に妖しいですね~
ヱ:そうでしょうそうでしょう。ここまではなんやかんや言って参道、表通りだったのに対し、ここからは裏通りですからね。人目を忍び、家屋からも背を向けられ、忘れ去られたようにひっそりと佇むこの姿! 少し坂を上れば各国の大使館があるような立地とは対照的に、谷の中心で街燈も少なく静かに闇に潜んでいる。街の秘密を暴くようなこの感覚はクセになります!(オタク特有の早口)
10:明かりが一気に減って暗くなりましたね。民家の裏庭が横に並んでますよ
ヱ:右側を見てみてください。壁の途中から突き出した排水管が真下に折れ曲がって、そのまま地面に突き刺さっているでしょう。これはもともとは川に垂れ流していた排水を、暗渠化のさいに暗渠に流すために無理矢理増設した結果です
10:なるほど。確かに今までいった暗渠にもこのような形の排水管はありましたね
ヱ:ですね~。暗渠のサインとして代表的なものです
ヱ:分かれ道ですね。ここは右側の道へ。最初は入谷川という支流を歩きます
10:歩く順番には何か意味があるんですか?
ヱ:特段ないです。本流から辿るべきかもしれないですが、今回は同じ道をできるだけ歩かないように回りたいな、と。それだけです
10:了解です
ヱ:あ、さっそく今回の暗渠群最大の目玉が聞こえてきましたよ
10:え? どれですか?
ヱ:よく耳を澄ませてください
10:これは……何かが流れている? 暗渠の水流の音ですか?
ヱ:おしいです。ほら、見えました
10:あ! 水が流れ出てる!
ヱ:そうです。これ、水が崖から湧いているんです!
10:こんなの都内で始めて見ましたよ! 滾々としていますね!
ヱ:面白いですよね~。ぶっちゃけ今回の見せ場はここなので、こっから先はこれよりもしょぼい物が多いかも……
10:ええ……
ヱ:まあ、でもちゃんと解説しますんで、ついてきてください
ヱ:ちなみに、この右側のまるで河岸のような構造物の上に建っているのは、銀行の社宅です
10:見事にこちらに背を向けていますね。それによくわからない鉢植が沢山あるw
ヱ:こーゆー謎の小物も暗渠の醍醐味ですねぇ
10:あれ? コンビニのある当たりから、道が広くなりましたよ。暗渠感も薄れましたし
ヱ:そのとおりで、実はこの先には暗渠の痕跡はありません。ですが過去の文献などを漁ると、どうやらこの道の突き当りくらいまでは川が続いていたようです。どうせなので行きましょう
10:はーい。あ、右手に公園がありますね。暗渠の散策では以外と公園が多くでてきますよね
ヱ:水があればその周りには植物が繁茂しますし、公園が多いのは自然な成り行きですねぇ。ここの公園も名前を見てください。「南泉」と付いているでしょう?
10:お、これまた水関係の名前ですね!
ヱ:そうなんですよ。調べたところによると、この「南泉」というのはもともとここにあった競馬場の南にあった銀行の寮の名前から来ているんですね
10:ほうほう
ヱ:その寮はさっきの社宅なんですけどね
10:あ、そうだったんですね!
ヱ:はい。で、この近辺は水はけが悪く、競馬場として整備した当時、水を一か所に集めて池のようになっていたらしいんですが、その池から寮の名前を取ったのではないか、と私は妄想しています
10:妄想(笑)
ヱ:うるさいです。どうせなのでこの公園を通り抜けて行きましょう
10:は~い
ヱ:さて、元競馬通りまでやってきたので、ここを右折して再び谷間に戻りましょう
10:突き当りの建物が豪華ですね
ヱ:あれはパプアニューギニア大使館ですよ
10:大使館がこんなところにあるんですね!
ヱ:谷を下らなければ閑静な高級住宅街ですからね
10:確かに
ヱ:さっき通った場所に戻ってきました
10:本当だ。見覚えありますね
ヱ:ですがそのまま進みます
10:あ、公園みたいなのに突き当たりましたね
ヱ:ここは林試の森公園といって、詳しくはググればいいんですが、何というか、明治神宮の森みたいな?
10:ああ、耳に挟んだことがあります
ヱ:この公園には入らず、外周を右手に回っていきます
10:この右手の建物もすごいですね。古いものと新しいものが混じっている
ヱ:はい。特に古いところは暗渠の痕跡のように苔むして、塀のブロックが半分コンクリに埋まっているので観察してみて下さい
10:ということは、ここはもちろん暗渠だったんですね?
ヱ:はい。ここは羅漢寺川の本流とされています。とは言っても、谷間の低地では大雨などで流れが簡単に変わったはずなので、あまり本流がどこにあったのか正確に考察するのは建設的ではないと私は思っていますが
10:そうなんですねぇ
ヱ:そろそろ公園の端まで来ました。ここで二手に分岐します。先に六畝川という支流を見ていきましょう
10:地面にタイルが敷いてありますね。模様が波を表していて、暗渠を前面に押し出してきてます
ヱ:この道にも六畝川という名前が入っていますから、アピールしているんでしょう
10:こっちはさっきの入谷川よりも断然らしさがありますね
ヱ:そろそろ終点ですね。左手に清水稲荷がありますが、その名前の清水はおそらく湧き水があったことから来ているはずです
10:じゃあ、この敷地から湧いていたんですね
ヱ:ちょって違います。この神社は一回移転していて、もともとはもう少し先にありました。ほら、道はまだ続いているでしょう?
10:本当だ
ヱ:他にも清水の名前を冠した住宅がありますね。そして道の突き当りには、バスの車庫があります。私の推測(と様々な偉大な先行研究)では、この車庫のあたりから湧きだしていたはずです
10:なるほど
ヱ:もともと水気の多かった場所は地価が低かったので、車庫や学校などの面積を必要とする施設が建てられやすいという特徴があります。これもそうなのではないかと思います
10:はぁ
ヱ:といっても必要条件ではないんですけどね
10:さて、お次はどこに向かうんですか?
ヱ:次は羅漢寺川本流まで移動します!しばらくは暗渠から外れるので雑談しながら歩きましょう。
10:がってん
ヱ:はい、ちょっと止まってください。ここの地形、気づくことはありませんか?
10:う~ん、、あ! 道の前も後ろもかすかに上り坂で、谷みたいになっていますね! ということは、ここが暗渠ですか?
ヱ:ご明察! 明確な証拠はありませんが、そうだと考えられています。ほら、ちょうど細くてジメジメした小道もありますしね
10:本当だ! 地味すぎて気づかなかったです笑
ヱ:羅漢寺川の水源がどこだったのかは調べたんですけどよく分かりませんでした。ただ、ここら辺からは確実に羅漢寺川だと思います
10:なるほど。失伝してしまったんですね
ヱ:ええ。この情報化社会でも失伝することってあるんだなあ、としみじみします
10:あ、林試の森公園に戻ってきましたね!
ヱ:ええ、やっとですね。お腹がすきました……
10:ちゃんと先導してくださいよ(苦笑) 次はどうするんです?
ヱ:次で最後です! (偉大な先行研究によると)品川用水からの落水とされている支流になります!
10:なるほど?
ヱ:最後の支流はこの林試の森公園を突っ切っています
10:だから今まで周縁部だけ歩いて避けていたんですね
ヱ:そうです。ところで、公園の地図を見てみてください。門がたくさんありますが、一つだけ水に関する名前がありますよね
10:えーと、あ、この「せせらぎ門」ですね
ヱ:そうです! きっと小川がせせらいでいるんです。いってみましょう
10:はい!
10:確かに公園内に水気がありますね
ヱ:ええ。公園の地図の反対側を見てください、公園の形にちょっと段差があります。せせらぎ門からその段差の部分まで、縦に突っ切るように川の跡のような地形があります
10:そうなんですか
ヱ:と言っても、公園内に暗渠の直接的な痕跡はほとんど無いんですけどね
10:それは残念
ヱ:でも公園を抜けた所にむかしの水車のレプリカがあります
10:見に行きましょう!
ヱ:もちろん!
10:ありました!
ヱ:はい! でも、ここって高いですね……
10:え?(急に何言ってんだこいつ)
ヱ:ああ、位置が高いですよね。水は高いところから低いところに移動しますから、周辺より高くなっているこの場所に流れていたとは考えにくいんです。でも、、ちょっと道の脇を見てください
10:ん? 段差になって2メートルくらい低くなってますね
ヱ:それです! 川があった高さはきっとそっちです。ここは後から土を盛って高くしたんでしょうね。たぶん
10:なるほど
ヱ:すっきりしました! このまま支流をさかのぼってみましょうか
10:特にめぼしいものはありませんか?
ヱ:ええ、道の形状などから暗渠であるとは思うのですが、どこが始点なのかはわかりませんね
10:そうこうしているうちに、武蔵小山駅に到着しましたよ
ヱ:あ、本当ですね。じゃあ、もう真っ暗ですし、今回はここで解散としましょう
10:了解です
ヱ:いや~、無計画な散策に付き合ってくれて本当にありがとうございました!
~終わり~
というわけで、今回の散策記はこんな感じでした。後半は疲れと空腹で口数が減り、書くことも少なくなってしまったので反省してます。
最後に、散策のルートを載せておきます。