- 1.はじめに
- 2.『マサツグ様』の書籍化
- 2-1.ウェブ版の『マサツグ様』
- 2-1-1.『マサツグ様』
- 2-1-2.徹底した俺TUEEEE
- 2-2.書籍での『マサツグ様』
- ①マサツグの過去について
- ②クラスメイト、ならびにミヤモトの削除について
- ③ヒロインたちのキャラについて
- 2-2-1.ストーリー
- 3.分析
- 4.おわりに
- 参考文献
1.はじめに
本記事は、なろう小説『異世界で孤児院を開いたけど、なぜか誰一人巣立とうとしない件』(以下、『マサツグ様』)を題材に、商業アートにおける商品の側面を考えるものである。『マサツグ様』のウェブ版と書籍版とを比較し、それぞれの形式の差異について検討する。
本記事のいう商業アートの形式とは、例えば今から少年ジャンプで連載を始める漫画家がいたとして、彼(彼女)が女の子を主人公とする漫画を描くことはほぼ不可能だろう。
なぜなら、“少年”ジャンプだから。
想定される読者が少年である以上、主人公は少年たちが憧れるような青少年であることが要求される。
さらに、主人公が銀行に就職し散々苦汁をなめさせられ最後はパワハラ上司にすべてを奪われる、そんなストーリーも許されないだろう。
なぜなら“少年ジャンプ”だから。
両面宿儺や鬼が実在するようなファンタジー世界を舞台にハラハラドキドキの冒険をして正義は必ず勝つ。そんなまさしく少年がジャンプするようなストーリーが要求される。夜神月の最期は、惨めな敗北でなくてはならなかったのだ[1]。
本記事がいう商品の側面とはこういうもので、作品は読者のニーズ・媒体の制約をうけて規定される。そんな言われなくても知っている事実をわざわざ指摘するのは、サブカルチャー評論が作家論・社会背景論に偏りすぎだという私の問題意識による。
続いて分析対象を選定した理由について。
ウェブサイト「小説家になろう」に投稿され人気を獲得した小説は、書籍化する際に大幅修正されることが常である。この大幅修正こそが商品化のプロセスといえる。
修正前(ウェブ版)と修正後(書籍版)を比較すればなろう小説の商品としての側面を明らかにでき、ひいては他の商業アートにも応用できると、本記事は考える。
とりわけ『マサツグ様』という作品は、タイトルのとおりミヤモトというキャラ、およびそれに関係する俺TUEEEE描写が削除された。厳密に言うと削除ではないが、とにかく、これはウェブ版の魅力の大半を削る行為だった。
なぜこの要素が削られそして代わりに何が追加されたのか。
まずはウェブ版の『マサツグ様』と書籍版の『マサツグ様』について紹介し、先行研究を参考に考察する。紙幅の都合上、「小説家になろう」やなろう系についての説明は省略した。誠にごめんなさい。
(※サムネイル画像は、ガンマぷらすのマンガ版『マサツグ様』連載ページより引用)
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