暗渠のすゝめ
はじめまして、エチゴニアといいます。このような記事を書くのは初めてでして、無作法には御容赦ください。
まず最初に
この記事は暗渠を知らない人に、私なりの暗渠の魅力を伝えるために書いています。なのでできるだけ簡潔に(あるいは乱暴に)最初から説明するつもりです。
そもそも暗渠(あんきょ)とは何なのか
簡単に言えば、暗渠とは地下に埋められた川や水路のことです。何故地下に埋めたのか? その方が使える土地が増えて便利だからです。必然的に、土地の余っている田舎には少なく、暗渠は都心に集中していることになります。とくに東京に住んでいるのなら、ほぼ必ず近所には暗渠があるでしょう。でも暗渠なんて見たことない、そう思うかもしれません。当然です。なにせ暗渠は地下に埋まっていますから。
では直接見ることもできない暗渠の、いったい何が楽しいのか。それこそがこの記事の主題です。確かに地下にある暗渠をふだん目にすることはありません。しかし、昔そこに川があったことを示すさまざまな証拠が街にはあふれていて、それらは暗渠の存在を浮き彫りにします。地中に隠された暗渠をあばくこの一連の過程は推理小説さながらであり、いくつものピースからパズルを完成させる作業に似ています。これが私のなかの暗渠探訪の醍醐味なのです。
実際に暗渠を1つ見てみましょう
少々長いかもしれませんがお付き合いください。
写真は東京都練馬区、千川通りで撮ったものです。ビルの合間の道に注目してください。この小道、少し変だと思いませんか? ガードレールがありますから車は通れません。普通はビルの合間にわざわざ車も通れない小道なんて作らないでしょう。
近づいてみます。
左右にある白い柵に何の意味があるのかは不明です。よく見ると、細い道なのに奥に続いていることが分かります。
進んでみます。
少し幅の広い道に出ました。さらに進んでみます。
突然、道が樹木で2つに区切られました。
と思ったら、丁字路に突き当たってしまいました。が、突き当りには公園があります。
公園内の道をたどって行きます。
公園は長細い形をしていて反対側から出てみると、再び先ほどと同じ真ん中が樹木で区切られた道がありました。これは偶然でしょうか?
さらに進むと、環状線にぶつかりました。しかし道はここでは途切れません。
歩道橋から撮った反対側の写真です。相変わらず真ん中が樹木で区切られた道が続きます。ここまで来ると、何らかの意図があってこの「区切られた道」が続いていることは明白なように思われます。
しつこく道を追い続けます。
また変化がありました。
車は侵入できないようです。
そしてついに!
ついに突き当たりに出ました!
よく見ると、手前は道なのに奥は橋となっていて少し奇妙な感じがします。
そう! つまり!
川に突き当たったのです!
近くにあった地図です。川が地図上で唐突に消失していますね。ここは暗渠のスタート地点なのです。
要するに、小道に始まり今までたどってきた道は下に川が埋まっていて、暗渠だったのです。
どうでしたか!
これだけだと全然面白くないでしょう?
なにせ、ここからがメインディッシュなのですから!
上に載せた写真の中には、昔この道が川であった名残がいくつも存在します。パッと見て分かりやすいのは6個ほどでしょうか。それを今から解説します。
自分で見つけたいという方は、ぜひ探してみてください。最初に書いたように、その探すというプロセスこそが暗渠の楽しさなのです!
名前の名残
最もわかりやすいのは名前に残ってる痕跡だと思います。 7枚目の写真の公園の名前を見てください。「中新井川」と書いてあるでしょう! 8枚目の写真の信号機の上も見てください。「学田橋」とありますね! しかし、この近辺には川も橋も見当たりません。ではなぜこのような名前がついているのでしょうか? そう、察しの通り。昔この公園は川だった。そしてこの交差点には橋があったのです!
そして1枚目の写真の説明に「千川通り」と書きました。この名前もこの暗渠と無関係ではありません。千川通りは千川上水という用水路に由来します。しかし、この江古田川あるいは中新井川と千川上水の関係を説明すると少しややこしくなるので、ここでは割愛させていただきます。
この他にも「沼」や「池」、「袋」といった地名は川やその合流地点を示すことが多いです。みなさんの近所にこのような地名があって、それなのに川がなかったら、もしかしたら暗渠かもしれませんよ。
家の向き
11枚目の写真の家に注目してください。それなりに大きな道に面しているのに、(言い方は悪いですが)あるのはまるで裏口です。写真からは分かりませんが、この道沿いにある家は古いほど裏口しかなく、逆に新しいほど表の玄関があります。少し不思議ですよね?
その理由はやはり、昔ここに川があったからなんです。だって、川に対して玄関はつけませんよね? だから川が地表にあったときからある家は、この道に対して戸がないか、あっても裏口なんです。そして暗渠になってからできた家は、当然新しくできた広い道の方に玄関を構えます。
それともう1つ。ドアの高さが変なことに気づきましたか? ドアと地面の間に10センチ前後でしょうか、なぜか高低差があります。
そんなことどうでもいいと思いますか? 私もそう思います。でも、これにもおそらく理由があるのです。やはりこれも川があったが故なのだと推測されます。川は雨が降れば増水します。したがって、川に面して作られたドアは少し高めに作られたはずです。
これに似た例として、暗渠となる以前からある家の場合、塀が途中でコンクリートに埋まっていたり、明らかに塀が増設されていて下の方が異常に苔むしていたり、といったこともよくあります。
マンホール群
3枚目や4枚目の写真の路地、マンホールの数が異様に多いです。これは知識として知らなければわからないことなのですが、暗渠にはマンホールが多いのです。家々から排出される生活排水、もし家の裏手に川があったらそこにそのまま流しますよね? それを暗渠化するさいに、接続部としてマンホールが必要になるそうです。
暗渠は昔そこに川が流れていて、今も地下に川が埋まっているのですから、どうしても湿っぽくなりやすく、特に小道の場合両側に建物が並びますから暗くなり、苔むしていることが多いです。もしまるで川のようにくねくねと曲がった小道で、マンホールの数が異様に多く、苔むしていたら、高確率でそれは暗渠でしょう。
道中央の樹木
暗渠は下に川が埋まっています。だから、道としての強度はあまりありません。車が通行できないように車止めが設置されている場所も多いです。今回の暗渠の道を区切っていた樹木も、おそらく道の強度に関係しているのではないでしょうか。
その他の特徴
この記事の写真には出てきませんでしたが、上で紹介した以外にもいくつか暗渠には特徴があります。が、それらは(この記事の内容も含めて)多くの暗渠ファンの方が既にまとめてくださっているので、今回は割愛させていただこうと思います。もし気になるようでしたら、ぜひ検索してみてください。
終わりに
この記事を読んで暗渠に少しでも興味が湧いた方がいれば幸いです。
暗渠を地図に描き起こすと、その数の多さにびっくりするかと思います。この大都市にこんなにも多くの小川が流れていたのか、と。都内を流れていた小川や水路の多くは、1964年に開催された東京オリンピックに向けての景観整備の一環として暗渠化されたと聞いています。最近では暗渠を開渠(普通の川のこと)に戻そうという動きもあるそうで、暗渠化が良かったことなのかどうかは私にはわかりません。ですが良い悪いにかかわらず、私たちの足元に人知れず川が埋まっていることは事実です。2020年の東京オリンピックを前にして、関東圏は再びあわただしい開発に迫られているように感じます。そんな今だからこそ、この事実を知ることそれ自体に多少の意義がある、私はそう考えています。