小文化学会の生活

Soliloquies of Associate Association for Subculture

路上でクルージング@八王子 番外編

  前回に引きつづき、八王子でのフィールドワークについて報告していきます。鋸屋根工場、そして関連する建築物について。見覚えはあるけど、なんだかよく分からないランドスケープの一要素が、これで少しは親しみを持てるようになったら幸いです。

 かつて八王子は、長らく桑都と呼ばれていました。桑を何に使ったのか、というと蚕の餌です。とにかく蚕の幼虫は、蛹化するまでの脱皮する以外の時間を、ひねもす桑の葉を食べるのに費やします。「蚕食」という言葉の語源なだけありますね。とはいえ、蚕の世話、製糸の過程はそのほとんどが屋内なので、第一印象は「めちゃくちゃ桑生えているなぁ」だったんだと思います。桑都と呼ばれるのも納得。

 回りくどくなってしまいましたが、鋸屋根工場は製糸工場の代表的な建築様式だったのです。画像検索してもらえると、ああこれね、と納得していただけるはず。画像検索するのが面倒という方のために、以下に何枚か載せます。

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路上でクルージング@八王子

 年度末、皆様いかがお過ごしですか。大学に合格して、これからの学生生活に不安を抱きながらも期待する方もいれば、怠惰な生活を後悔して心機一転、新しい活動に参加してみたいとはりきる方もいると思います。勉強、バイトに恋愛と何に注力するかは人それぞれですが、サークル活動はよく挙がる具体例のひとつでしょう。やりたい活動を細かく定めているなら、選ぶサークルもすんなり決まるかもしれません。ただ、なかには「興味あることを、共有しつつ発信したいなあ」とぼんやり考えている人が少ないないのではないかと思います。

 ありそうで、そういうサークルは意外とありません(まさしく小学が創設された理由です)。小学は個々人の興味分野のプラットフォームとして、他団体にないような包括性を有すると自負していますが、認知度やどういった活動をしているか、いまいち分かりにくいというのも自認しているところです。というわけで、3月から4月にかけて2018年の活動報告をしたいと思います。遅れたことのていのよい言い訳では、けっしてありません。

 今回の散策の舞台は八王子。のんびりとした、でもちょっと鼻がむずがゆくなるような春の3月上旬に実施しました。ちょうど1年ぐらいまえですか。光陰矢の如しという言葉が身に沁みます。

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中華街「西成」

 ぽわとりぃぬです。今回は、大阪にある「西成」の話をしようかと思います。「西成」という言葉からみなさんはどんなイメージを思い描くでしょうか。多くは「怖い」や「ホームレス」でしょう。「西成」は東京の山谷、横浜の寿と並んで日本三大ドヤ街の1つとして数えられ、かつ日本最大のドヤ街です(文献によっては名古屋の笹島も含まれ、日本4大ドヤ街ともいわれます)。ドヤ街とは簡易宿泊所のこと。1泊1000円前後、安いところで500円です。主な利用者は日雇い労働者のおっちゃんたちです。

 つまり「西成」は、超端的にいってしまえば日雇い労働者の街であり、貧しい街です。そんなわけで「西成」には怖い、汚い、危ないといったイメージが付きまとっているわけです。そしてそれに沿うようにしてメディアで描かれています。あべのハルカスの隣、飛田新地のすぐそば、通天閣から歩いて行ける距離に「日本の最貧困地域」はあるのです。こうした側面も確かに現実ですが、しかしながら、「西成」は今、急速に変化していっているのです。かつて「ホームレスの街」だの、「日本の最底辺」だの言われたこの街がどう変貌して、どう変貌しうるのか。その1つの答えが「中華街」です。

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ボードゲームの要素分析 (前編)

 お久しぶりです。エチゴニアです。

 最近はボードゲーム史の沼にはまっていて記事を書くのがおろそかになっていました。
 さて今回の記事では、ボードゲームをざっくりといくつかの要素に分解し、それぞれの要素の持つ特徴について分析しようと思います。遊ぶための条件にも深く関わってくるので、新しくボードゲームを買うときにも役に立つ、かもしれません。

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今年はこういうのを読みました2018

 2018年は終わるがキャラバンは進む。私たちも同じ場所や時間に留まりつづけることはできません。ならば日々成長あるのみ。今年は幸いにも方々でリアルな集いができたり、新しい方の寄稿があったりとモゾモゾ活動できたのではないかと思います。そんなわけで、今年も会員おのおのが今年読んだ本の紹介で締めくくらせていただきます。みなさん、よいお年を!

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考えすぎのJK、あるいはクレーマーへのベストな対処法

 ある日。私ぽわとりぃぬがいつもようにスーパーでレジのバイトをしているとバイト仲間(JK)の苛立った声が聞こえてきました。「こっちはさあ、お客様が神様だとか思ってないんだけど」。そう言いながら陳列棚の間を歩くバイトJK(以下JK)の隣には同じくバイト仲間(以下A)がいました。AもJKと同じくムカついているようです。どうやら2人はお客様にクレームを付けられたらしく、しかも直接言われたようで、JKのほうはかなりご立腹の様子でした。

 またある日。おじいさんがレジのバイト(以下B)に尋ねました。「飛騨高山の〇〇〇はどこにいったんや」。ジジイの滑舌さえよければ、肝心の商品名は私の耳にも届いたでしょう。何となく良い酒かなんかだろうとは思えました。ともあれ、レジのましてやバイトが商品の配置を把握しているわけはありません。それが分かってないこと、そしてボケに伴う社会性の消失が声の感じから察せられること、この2つによってすでにバイトの間には緊張感が生まれはじめていました。しかしこういう質問への返答は決まっているのです。地雷を踏むことを確信したうえで次の一歩をだすように、Bは定型句を答えました。「申し訳ありません、お客様が探してなかったらないですね」。

 

 

 Twitterなどでしばしばバズるネタの1つに、「クレーマーにこう切り返してやった」というのがあるかと思います。非常識なクレームに対し痛快な返答を浴びせるというカタルシスを得られるアレです。本稿で問題化するのは、これが現実的な解決方法じゃないという点です。何も私はこうしたツイートが全て創作だと言いたいのではありません。即座にうまい返しをしてクレーマーを退散させることももちろんできるでしょう。私が指摘したいのは、現実として、クレーマーの前にもお客様はいたし、クレーマーの後にもお客様はやってくる、接客はシフトの長さだけ続くという事実です。つまりこの気持ちのいい世界は、1ツイートのエピソードとして完結しているからこそあり得るということです。

 では痛快な返答ができない、すなわち相手を言い負かしてストレスを解消できないのだとしたら、現実問題としてクレーマーにはどう対処すればいいのでしょうか。その答えはこうなります。「バイト仲間と仲良くする」。誤解しないでほしいのですが、これはなにも一緒になってクレーマーを言い負かそうとしてくれるからということではないのです。話を私のバイトに戻します。

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ドイツ野球ブンデスリーガと助っ人外国人事情

皆様お久しぶりです。ドイツの野球をこよなく愛し、自身もドイツで野球をプレイしているドイツ野球の伝道師ことドイツ野球少年です。前回の記事「ドイツにおける野球の普及度」は大好評だったようで、本当にありがたく思っております。

 

今回は、ドイツ野球のトップリーグであるブンデスリーガ、特に助っ人外国人事情について語ります。前回の記事がまだドイツ野球の世界の入り口に立っている人向けのものだとすれば、今回の記事はドイツ野球を実際に見てみようとする方、または実際にドイツで野球をプレイする方の助けになればと願っております。

 

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『Sweet』・民主党・政権交代ーーー『「女子」の誕生』でわかること

どうも。つおおつです。

先日名古屋で行われたエロマンガ読書会には

小学会員3名と有志の方2名のあわせて5名の方が来ていただき、

少女コミック以降のエロマンガの通史や現状について情報共有したのち、最近の流行とその理由について考察するなど大変有意義な読書会となりました。

これからもこういった読書会を全国各地で精力的に開いていくつもりなので、今回興味があったけど参加できなかった方はぜひいらしてくださればと思います。

しかし、小文化学会はあにただにエロマンガのみならず、各人が小文化と思うものを考察していくサークルであります。

今回は、米澤泉『「女子」の誕生』(2014)の知識を借りながら、ファッション誌と日本の政治で同時に起きた「政権交代」について小規模な考察をしていこうと思います。

 

「女子」の誕生

「女子」の誕生

 

 

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水龍敬は根が真面目? ――そこから痴女とビッチについての一考察

 

 ぽわとりぃぬです。個人的な記憶なんですが、エロマンガないしエロ全般で「ビッチ」という用語が使われるようになったのって、ここ2、3年のことではないかと思うのです。エロに積極的な女キャラ、とりわけ誰とでもセックスをする女キャラの属性といえましょうか。しかし私がエロを見始めた10年以上前、彼女たちのような女キャラには「痴女」というラベルが貼られていたように思います。そこで本稿では痴女とビッチの関係について考察を試みます。ビッチは痴女に取り替わるのか、または下位区分の1つなのか。具体的にとりあげるのがタイトルのとおり水龍敬作品です。現在のエロマンガにおいてビッチといえばこの人でしょう。

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エロマンガレビュー ―『新堂エルの文化人類学』を文化人類学の院生が読んでみた―

 ぽわとりぃぬです。タイトルのとおり私は現在大学院で文化人類学を専攻しております。そんな私にとって外せないエロマンガが、『新堂エル文化人類学』です。今回の寄稿では、この単行本を文化人類学の観点からレビューしていこうかと思います。

 

 

 文化人類学という学問を聞いたことがあるでしょうか。文化人類学とは人間、特に他者を研究する学問です。19世紀後半から出来上がり始め、1922年をもって確立した比較的新しめの学問分野です。究極の問いは「人類とは何か」。では、社会人類学のほうは聞いたことがあるでしょうか。

 注目するのがモノや生活様式といった文化なら文化人類学、人間集団としての社会なら社会人類学というふうに、一応下位区分されます。とはいいつつ、実際にはほとんど同義語だったりします。「それは文化人類学社会人類学)の領域だよ」なんていうテーマもないだろうし、なんでもありの学問なので、そもそも扱えないテーマなんてないです。というわけで、私が専攻しているという理由から、用語は「文化人類学」で統一します。

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